映画『のぼうの城』野村萬斎&榮倉奈々 単独インタビュー
リーダーの器が開花する物語
取材・文:斉藤由紀子 写真:吉岡希鼓斗
豊臣秀吉の命を受けた石田三成率いる2万の大軍に、わずか500人の軍勢で立ち向かった武蔵国忍城の城代・成田長親。彼の活躍を描いた和田竜のオリジナル脚本を映画化した『のぼうの城』は、『ゼロの焦点』の犬童一心監督と『ローレライ』の樋口真嗣監督が共同で演出を務めたスペクタクル・エンターテインメント超大作だ。領民から「のぼう様(でくのぼう)」と慕われる長親を独特の存在感で体現した野村萬斎と、長親に思いを寄せる男勝りな甲斐姫を演じた榮倉奈々が、撮影時のウラ話を明かした。
萬斎が榮倉に出した試験の答えとは?
Q:まずは、日本では近年まれなスペクタクル超大作に参加されていかがでしたか。
野村萬斎(以下、萬斎):いろんな事情で完成までに8年ほど時間がかかってしまったのですが、僕としては『陰陽師 II』の後すぐに受けた作品なんです。プロデューサーさんいわく、僕は「地面から数センチ浮いている存在」ということで、今回の役をオファーしてくださったそうでして(笑)、このようなスケール感のある作品に出演できてうれしく思います。
榮倉奈々(以下、榮倉):最初にお話をいただいたときは、小説が大ベストセラーでファンの方も多いと聞いていたので、「本当にわたしでいいんですか?」という感じだったんですけど、ぜひやらせてほしいと思いました。完成した作品を観て、合戦のシーンが素晴らしくて手に汗を握ってしまいました!
萬斎:一観客として観ちゃうよね。「うわー、スゴイ!」って。
Q:何とも不思議なのぼうというキャラクターを、萬斎さんはどのように捉えて演じられたのでしょう?
萬斎:キャラクターづくりに関しては、榮倉奈々ちゃんにお世話になりまして。
榮倉:いやいや、そんな(テレ笑い)。
萬斎:本当にそうなんです。脚本に「のそっとしている」とか動きはあるんですけど、のぼう自身の性格や思考回路がよくわからなかったんですよ。どうしようかなと思っていたときに、甲斐姫役の奈々ちゃんと現場で初めて会って、何げなく「(甲斐姫は)なぜのぼうが好きなの?」と聞いてみたんです。今から思えば、まるで試験のようだったね(笑)。
榮倉:急に聞かれてびっくりして、無駄に緊張しました(笑)。気楽に会話をすればよかったのに、「ちょっと時間をください」とかしこまってしまって……。それから6時間後に、「すみません、答えがでました」って言いに行ったんですけど、何で「すみません」が付くんだろう? みたいな(苦笑)。
萬斎:そのとき、奈々ちゃんが「将器じゃないでしょうか」と一言で答えてくれた。それで将器、つまり「リーダーの器が開花する物語」なんだと思えたんです。それがあの役の性根だったから、とってもありがたかったですよ。あとは、浩市さん(佐藤浩市)やぐっさん(山口智充)が演じた熱くて濃いキャラの中で、ボケのポジションが一人だけ空いている感じだったので、皆さんのおかげで自然に役づくりができたような気がしています。
戦国時代の姫の思いは美しい!
Q:お二人の初共演も本作の見どころですが、現場ではいかがでしたか?
榮倉:萬斎さんは、こんなにもスケールの大きい日本映画で座長のポジションをしっかりと務めてくださって、のぼうのような将器を本当に感じました。わたしはすっかり頼り切ってしまいました。
萬斎:奈々ちゃんが演じた甲斐姫は、すごくさっそうとしていてカッコよかった! ご本人そのままだと思います。
榮倉:ありがとうございます。
Q:カッコいいと思う一方、のぼうをひそかに慕う甲斐姫の女心が切なかったです。
榮倉:今の時代だと、誰かを思うことを「愛」とか「恋」とか簡単な言葉で表現しますけど、戦国時代の姫の場合は家族や民の命など守るものがたくさんあり過ぎて、単純な言葉では表せないんです。でも、だからこそ本当に純粋なものが見えてくる。わたしには、甲斐姫の思いがとても美しいもののように感じられました。現在は、自分のことだけ考えていても生きていけるけど、それだけでは寂しいと思うこともある。自分以外に守るものがあった甲斐姫は、ある意味幸せだったような気がします。
2人の監督にどうやってウケるかが勝負!
Q:人間ドラマに定評のある犬童一心監督と、特撮作品で知られる樋口真嗣監督、ダブル監督を務めた2人の演出には違いを感じましたか?
萬斎:僕のシーンは犬童さんが演出されることが多かったですが、僕としては、2人の監督にどうやってウケるかが勝負でしたね。やりたい放題やって、監督たちが笑うと安心するんです。2人とも楽しまれていたような、和やかな現場だったよね?
榮倉:そうですね。でも、わたしは意外と犬童監督は厳しい方なんだなと思いました。逆に、樋口監督には和ませてもらったことが多かったですね。
萬斎:あ、本当? 僕はただ浮いていればいい存在だったので、周りを固めなきゃいけない役者さんたちには厳しい面もあったのかもしれませんね(笑)。
Q:榮倉さんは合戦シーンで乗馬にも挑戦されていましたが、現場でご苦労もあったのでは?
榮倉:敷地がとても広かったので、スタッフさんたちは大変だったでしょうけど、わたし自身はすごく楽しかったです。乗馬も大好きで、撮影前に2か月くらい練習しました。
萬斎:僕も本当は合戦に参加したかったんですよ。でも、合戦の報告を受けるシーンが何回かあるだけでした(苦笑)。あれだけの合戦の報告を受けて、ただうなずくだけではいけないだろうと思い、(緊迫感を出すために)わざと水を口に含んでおいて、ゴクリという音を立てて「ハイッ」と言ってみたりとか、僕なりに戦況のすごさを伝える工夫をしました。
田楽踊りの演出はドリフのコント風!?
Q:のぼうが敵陣の前で田楽踊りをするシーンは、脚本には「卑猥(ひわい)である」とあっただけで、振付や歌詞は全て萬斎さんご自身が創作されたそうですね?
萬斎:あの場面でのぼうは1人で2万人の敵兵を引き付けなきゃいけないわけですから、まずはドリフ的な面白さを考えて作りました。最初にヒョウタンを使って寝ションベンをしてみせて、最終的には男女が秘め事をいたしているような振りにしていくという、相手に「くだらないなあ」と思わせるところから始まり、最後は「面白いな」と思わせるような構成にしたんです。まあ、要は下ネタですよね。そこに助けにきた甲斐姫が、「こんな下ネタをやっているなら、わたし帰る!」と言うんじゃないかと心配しちゃいましたけど(笑)。
榮倉:萬斎さんの踊りは本当に素晴らしかったです! 当たり前ですが、ちょっと練習しただけでは絶対にできないですよね。わたしは(田楽踊りのシーンは)1日しか現場でご一緒していないんですけど、あのシーンの撮影だけで3日くらいかかったんですよね。
萬斎:いろんなアングルから何度も撮り直したからね。僕は、目の前に誰もいない現場でも一人でずっとあおり続けていましたから(笑)。
Q:これから映画を観る方に、お二人から見どころを伝えてください。
萬斎:もう、見どころ満載です! 合戦シーンも恋愛ドラマも盛り込まれていて、どんな角度から観ても面白い映画だと思います。
榮倉:女性にも楽しんでもらえるエンターテインメントです。例えるなら、ゴレンジャー風というか(笑)。
萬斎:そうだね、まさにゴレンジャーだね!
榮倉:映画の最後に、かつて忍城があった埼玉県行田市の今の様子が映し出されるんですが、その映像によって「また新しい何かが生まれる」という、希望のメッセージも感じました。皆さんにも何かを感じてもらえたらうれしいです。
威風堂々たる物腰に、どこかつかみどころのない魅力を持つ萬斎は、「地面から数センチ浮いている存在」という形容がピッタリ。一方の榮倉は、可憐(かれん)な笑顔の中に鋭い感性を秘めた実に聡明な女性。そんな二人が体当たりで挑んだのは、映画化不可能といわれたほど壮大な世界観の戦国絵巻だ。石田軍による忍城を丸ごと水に沈める水攻めや、諸葛孔明もビックリなのぼうの奇策を映画館で体感すれば、脳内アドレナリン大放出の興奮が味わえるだろう。
映画『のぼうの城』は11月2日から全国公開