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『映画 鈴木先生』長谷川博己 単独インタビュー

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『映画 鈴木先生』長谷川博己 単独インタビュー

教師も愚痴るのは、複雑化した世の中の表れ

取材・文:平井伊都子 撮影:高野広美

「奇跡の映画化!」とは、ありふれたあおり文句だが、『映画 鈴木先生』ほど熱望された映画化もないかもしれない。2011年に放送されたテレビドラマ「鈴木先生」は、視聴率こそふるわなかったものの口コミやインターネットで評判となり、DVDセールスは好調。そして、数々の賞を受賞した。制作者たちの志の高さが観客に伝わった作品だったと言えるだろう。テレビドラマを経て映画で、往年の学園ドラマの熱血教師とは真逆の鈴木先生を演じた長谷川博己が、緋桜山中学の教壇生活を振り返った。

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中学時代は静かに反抗するタイプだった!?

長谷川博己

Q:大人の役者ではなく、ティーンの子どもたちに囲まれて演じることで得たものはありますか?

子どもたちには、日々成長する目まぐるしさがありますね。身長が伸びたり声変わりをしたりという見た目の成長もあるし、内面の成長もあります。そういう意味では、もう自分がすっかり忘れていたものを思い出したりしました。生徒たち一人一人が感じているものが、鈴木先生の中にもあるから共鳴するのだろうし、観ている方々の中にもあったのではないでしょうか。そういったノスタルジックな部分も「鈴木先生」の魅力だと思います。子どもたちの成長を通して学んだことも多いです。

Q:長谷川さんは中学生時代、どんなことを考えていましたか?

体制に対して、教育のあり方や学校の規則に対しても矛盾しているところがいっぱいあるなあって、何となく感じていたような気がします。それを声に出して言うか、やり過ごすすべを身に付けるのかは人それぞれだと思いますが、どちらかというと僕は静かに反抗するタイプでした。

「金八先生」とは真逆のタイプの「鈴木先生」

長谷川博己

Q:中学生ならではの試練とは、どのようなことでしょう?

物語では中学生の問題にしているけれど、誰もが抱えている問題だと思うんです。原作者の武富(健治)先生が、教室を舞台に最も多感で重要な時期にある生徒にそれを課したところがすごいですよね。われわれが感じている社会の問題を、あえて中学生に置き換えたことで、少し軽くもなるし、より面白くなる。そこが「鈴木先生」の魅力だと思います。もちろん、中学生がどう観るのかっていうのも気になりますけどね。

Q:「鈴木先生」は、学園ドラマの王道だった「金八先生」とは真逆の教師ですよね。

それは、世の中が複雑化していることの表れなんじゃないかと思います。実際に中学校で教師をされている方に聞いたら、今の生徒たちは感情を表にあまり出さないし、直接的なぶつかりを避ける傾向にあるそうです。本当に突然、バタフライナイフで相手を刺すなんてことが起きてしまうと。鬱積(うっせき)しているものがそのまま服装や態度に出る昔の不良とは違うということですよね。今はネットを使ったりして、人知れずいろんなことができちゃいますから。そうすると教師も事態を察知できない。「鈴木先生」では生徒だけでなく、教師も愚痴っていたり、とても人間くさく描かれています。そんな複雑な世の中だったら、当然そうなりますよね。

息抜きの方法は、一人でゆったり映画を観ること

長谷川博己

Q:映画の中で学校に立てこもる卒業生・勝野ユウジが登場しますが、彼のように社会に対して息苦しさを感じることはありますか。

誰でも感じているんじゃないでしょうか。僕は学生時代に2週間ぐらいスペインを旅したのですが、大変な仕事をしている人も、みな息抜きをしつつ働いている姿に「なんていい国なんだ!」と感動しました。みな仕事の合間に家に戻って昼食をとって、シエスタ(※昼の休憩)もするし、老若男女が夜遊びをして、朝はゆっくり起きるというライフスタイルなんですよね。もちろん、実際に住んだら大変なこともあるんでしょうけど。

Q:確かに、海外旅行に行ったりすると日本のいいところも見えるけれど、反対に息苦しさに気付いたりしますよね。

そのときに思ったのは、日本でも何とか息抜きを入れながら働くってこともできるんじゃないかということ。でも日本に帰ってせわしい生活を送っていると、そんな考え方も薄れていってしまうんですよね。それはもう、体制の問題なんじゃないかと。

Q:では、長谷川さんはどんな「隙間」を持つようにしていますか?

鈴木先生にとっての喫煙所のような憩いの場は、映画館です。一人でふらっと映画を観に行って、その後お茶をしながら、観た映画のことをぼーっと考える。そういうふうに、一人で考える時間がとても大切ですね。

Q:ちなみに、最近ご覧になった映画は?

ロベール・ブレッソンの『白夜』を映画館で観ました。映画の情報は新聞だったり、雑誌の新作紹介などで気になったものを観に行きます。ブレッソンはかなり特異な監督で、俳優に演技をさせない、演技ができる役者は使わないというところに興味を持ちました。

人生の中で最も忙しい年末年始

長谷川博己

Q:テレビドラマに映画に舞台と幅広い活躍をされていますが、役の切り替えが大変なのでは?

映画は撮影から公開まで時間があるので、突然衣装を着て「鈴木先生のスイッチ入りますか?」って言われても、なかなか入らないですよね(笑)。でも、こうやって取材の場などで少しずつお話をしていると、感覚がよみがえってくるものです。と言っても、今はもう次の仕事の準備をしているところなんですが。撮影が終わったら次、次、と気持ちを切り替えていくしかないです。

Q:長谷川さんにとって駆け抜けた感のある2012年でしたが、振り返ってみての心境をお聞かせください。

去年は舞台や映画に出させていただいて、充実していたと思います。今年は大河ドラマ(「八重の桜」)が始まって、よく忙しそうって言われるけれど、何とかやれるものです(笑)。年末年始に忙しくなかった時期が長いので、ありがたいと感じています。


長谷川博己

多忙な中での取材にもかかわらず、一つ一つの質問に思慮深く言葉を選んで話す姿が印象的だった長谷川はまさに、生徒一人一人の考えを拾って思い悩む“スズセン”そのもの。映画ではテレビドラマで描かれてきた鈴木式教育メソッドの集大成が試されるような事件が描かれ、タイムリーな選挙システムの課題や問題の多様性についても考えさせられる。彼が「この映画を観てみんなで語ってもらいたい。中学生が抱える問題に、必ず誰しもが引っ掛かるものがあるはず」と語るように、鈴木先生と生徒たちが遭遇する大事件から、現在の日本のあり方を問い掛けるような深遠なメッセージを受け取ってほしい。

ヘアメイク:酒井啓介(MARRVEE)
スタイリスト:中村剛

(C) 2013 映画「鈴木先生」製作委員会

『映画 鈴木先生』は、1月12日より全国公開

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