『ジャンゴ 繋がれざる者』クエンティン・タランティーノ監督 単独インタビュー
こんなに早く次回作のアイデアが生まれたのは初めて
取材・文:小林真里 写真:金井堯子
『パルプ・フィクション』『イングロリアス・バスターズ』のクエンティン・タランティーノ監督最新作『ジャンゴ 繋がれざる者』は、南北戦争前の米南部を舞台にした西部劇。奴隷から賞金稼ぎになったジャンゴが、ドイツ人の元歯科医と組んで悪党どもを退治、奴隷にされている妻奪還を目指し暴君が支配する農園に乗り込む! という痛快アクションだ。先日授賞式が行われた第85回アカデミー賞で脚本賞、助演男優賞を受賞した本作について、タランティーノ監督が語った。
日本で生まれた『ジャンゴ 繋がれざる者』
Q:すでに世界各国で大ヒットを記録し、監督の映画史上最大のヒット作となりました。おめでとうございます! こうなることを予想していましたか? 今のお気持ちは?
ありがとう! 気分は最高だね(笑)。ひょっとしたらうまくいくかもと思っていたけど、まさかここまでの大ヒットになるとは、俺もプロデューサーたちも誰も予想していなかったよ。ヒットするとは思えないような、難しいテーマを題材にした作品だからね。
Q:黒人奴隷が賞金稼ぎに転身するというアイデアが最高でした。2009年に『イングロリアス・バスターズ』のプロモーションで来日したときに、ホテルの部屋でセルジオ・コルブッチ監督の映画のサントラを聴きながら、このアイデアを思い付いたという話は本当でしょうか?
ああ、その通りだよ。普段、映画を作った後は、1年ぐらいオフを取って次の作品の構想を練るんだけど、前回、日本に来たとき、オフの日に西部劇映画のサントラを山ほど買い込んだんだ。「うわ、これとこれとあれと、あとこの映画のサントラもあるんだ!? 信じられない!」ってね(笑)。ホテルに戻って、部屋を歩きながらその中の一枚を聴いていたとき、突然『ジャンゴ』の最初のシーンが頭に浮かんだんだ。すぐに机に向かって、ホテルのメモ用紙にストーリーを書き始めた。後でそれを読み返して「最高のオープニングじゃないか。俺の次回作はこれだ!」って確信した。こんなに早く、次の作品のアイデアを思い付いたことはかつてなかったよ。
タランティーノ監督のミューズ
Q:ドイツ人の賞金稼ぎ、キング・シュルツの描き方が独創的で素晴らしかったです。フェアで寛大、そして紳士的な男ですよね。このキャラクターは、どのように誕生したのですか?
意識的に、無理に生み出したわけじゃないんだ。ペンの先から飛び出してきたというか、脚本を書き進めているうちに自然に生まれたんだ。実は、黒人の奴隷が賞金稼ぎになる西部劇のアイデアは長い間自分の頭の中にあったんだけど、ドイツ人の登場は考えたこともなかった。でも、『ジャンゴ』の最初のシーンを書いていたとき、シュルツというキャラクターが突然舞い降りてきたんだよ。
Q:しかも演じるのは、前作で悪役を演じたクリストフ・ヴァルツという点も興味深かったです。
ああ、クリストフは俺にとってミューズ(女神)のような存在だからね(笑)。
Q:今作も豪華なキャストが集結しました。キャスティングの過程について教えてください。
キング・シュルツはクリストフ・ヴァルツを、スティーブンはサミュエル・L・ジャクソンを想定して書いた。カルヴィン・キャンディとジャンゴは、特に誰もイメージしていなかった。脚本を完成させた後、これらのキャラクターがどこに向かっていくのか、とても楽しみだったね。その後、ジェイミー・フォックスが脚本をすごく気に入ってくれて、彼と会って話をしたんだ。会った直後、「ジェイミーがジャンゴだ!」って確信したよ。ほかにも何人かの俳優に会ったけど、ジェイミーだけが本物のカウボーイだった。彼はテキサス出身で、馬も飼っている。この映画には彼の愛馬が登場するんだ(笑)。本物のカウボーイを探していたから、まさに彼が適役だったんだよ。
ディカプリオ演じるカルヴィンの誕生秘話
Q:レオナルド・ディカプリオの出演は、どのように決まったのですか?
実は最初の脚本では、レオナルドが演じたカルヴィン・キャンディの年齢は、もっと上だったんだ。でも、彼がこの作品に興味を持ち、キャンディを演じたいと言ってくれてね。これは面白いアイデアだと思った。彼の出演はまったく想定していなかったから。その後、レオナルドと会って濃密でクールな話し合いができた。でも、当初考えていたキャンディと彼ではかなり違いがあったから、キャラクターを少し改良することにした。最初、キャンディは「邪悪な王国の邪悪な王様」を想定していたんだけど、もっと年齢を若くして、アパッチ族の白人酋長(しゅうちょう)というか、ルイ14世やカリギュラ(ローマ帝国の皇帝)みたいな「暴君」にするアイデアを思い付いたんだ。これで、レオナルドの年齢に近い、若いキャンディを生み出すことができた。
Q:キャンディの最終形が誕生するまでに、そんな過程があったのですね。
そうなんだ。そして次の問題は、キャンディとサミュエルが演じるスティーブンの極悪コンビだ。最初の脚本では、この二人の年齢はかなり近かったから、親子のような関係に変更することにした。スティーブンがキャンディを育てた、という設定にね。もちろん二人の間には、奴隷とその主人というダイナミックな関係があるわけだけど。興味深いことに、劇中でキャンディは実の父親のことを一度しか口にしない。そこから「キャンディが実の父親を殺したのでは……?」って、観客は憶測を巡らすんじゃないかな(笑)。スティーブンがキャンディの本当の父親みたいな存在だと感じてもらえると思うんだ。
Q:ジャンゴは当初、ウィル・スミスが演じる予定だったといううわさですが。
いや、演じる予定だったというわけではないんだ。何人かの候補のうちの一人だった。
Q:今アメリカで飛ぶ鳥を落とす勢いの大人気ミュージシャン、フランク・オーシャンの書き下ろしナンバー(「Wiseman」)を結局映画で使わなかったそうですね?
そうなんだ。楽曲はとても良かったんだけど、映画の中でその曲がフィットするシーンがなくてね(苦笑)。でも、お蔵入りにはならず、その後フランクがネット上でその曲を公開していたから、本当に良かったよ。
西部劇との出会いとお気に入りの4本
Q:ところで、マカロニ・ウエスタンをこよなく愛するタランティーノ監督ですが、西部劇にハマるきっかけとなった作品は何ですか?
一番好きなマカロニ・ウエスタンは『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』なんだけど、最初にハマった西部劇ってわけじゃないんだよね。最初に観た西部劇は2本立てだったんだけど、どちらもタイトルを覚えていない。まだ小さかったから(笑)。でも、『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』を観たときもまだ子どもだったけど、主演がクリント・イーストウッドだということと、彼の演じた役のことはちゃんとわかっていたんだ(笑)。子どもの頃に映画館で観て大好きになった他の西部劇は『明日に向って撃て!』と『怒りの荒野』、そして『馬と呼ばれた男』だね。
Q:気になる次回作について教えてください。
実はまだ、何も考えていないんだ。オスカーが終わって『ジャンゴ』が早く自分の「過去」の作品になることを願っている(笑)。ひとまず少し休みを取り、充電して、自分のプライベートな時間を楽しみたいと思っているんだ。でも次は、撮影日数100日の大作ではなく、もっと小規模な、12日間ぐらいで撮れるような映画を作りたいね。
新たなる代表作『ジャンゴ 繋がれざる者』を携えて来日したクエンティン・タランティーノ。作品がすでに海外で批評面でも興行面でも大成功を収めたこともあってか、以前インタビューしたとき以上に自信に満ちた、充実した表情だった。豪快な笑い声と情熱的なマシンガントークを繰り出し、同時に真摯(しんし)なまなざしで、サービス精神旺盛に終始熱く語ってくれるというエキサイティングなインタビュー。早くも次回作を観るのが待ち遠しいと思える、本当に稀有(けう)な愛すべき監督である。
映画『ジャンゴ 繋がれざる者』は3月1日より丸の内ピカデリーほか全国公開