『クラウド アトラス』トム・ハンクス&ハル・ベリー 単独インタビュー
心と頭を使って観てほしい
文・構成:編集部・福田麗 写真:アマナイメージズ
19世紀から24世紀まで、六つの時代と場所を舞台にした壮大なストーリーが展開される映画『クラウド アトラス』。CGを駆使した迫力ある映像はもちろん、何よりも人と人とのつながりや運命といったものを感じさせる独特の世界観が見どころとなっている。そんな本作で複数のキャラクターを演じたトム・ハンクスとハル・ベリーが自身の人間観を絡めつつ、本作について語った。
すべてのキャラクターに絆を感じた!
Q:お二人は複数のキャラクターを演じていますが、特にお気に入りはありますか?
ハル・ベリー(以下、ハル):不思議なことに、最初から自分が演じる全部のキャラクターに絆を感じたの。違う時代と背景の中に登場するのにね。わたしの演じるキャラクターはどれも強い、英雄的な部分を持っているの。19世紀に生きるネイティブアメリカン、未知のパワーを持ったどこか違う惑星からやって来た未来人……どれにも違和感がなかった。パワーを持っていないネイティブアメリカンが勇気を持って進むことで進化し、未知の惑星からやって来たスーパーパワーを持ったキャラクターにつながる。そんな部分が好きだったし、全部のキャラクターを楽しんだわ。
Q:1人6役というのは珍しい体験ですよね。
トム・ハンクス(以下、トム):僕は、役者としてのキャリアを劇団でスタートしたんだ。1シーズンに六つもの出し物を上演していたから、あるときは犬を散歩する人をやったり、次には古典劇の中でエセックス卿をやったり、常にいろいろなキャラクターをこなしていたから違う役をやるのは得意なんだよ。「オセロー」でイアーゴをやって、次にはリチャード3世をやるなんていう訓練を受けたからね。いろいろな役柄をこなせるなんて素晴らしくて、やりがいがある体験だった。
Q:では、苦労はありませんでしたか?
トム:この映画の中のキャラクターは舞台での体験ほど深く入り込むわけではなかったからね。それなりのハンディキャップはあったよ。例えば、あの嫌なダーモット・ホギンズの役。あの役はもっともっと深く入り込んで、6週間くらいかけてやりたかった。ところがたった2日間で終了してしまったんだ。メイクや衣装など、あれだけの手の込んだ準備をしたのに、ちょっともったいなかった。メイクの椅子に座っていた時間と衣装合わせをしている時間の方が実際キャラクターをカメラの前で演じた時間より長いって感じなんだ(笑)。
脚本を読んだときの感想は「これ、何?」
Q:この映画に関わろうと思った理由を聞かせてもらえますか?
トム:スケールの大きさだね。こんなストーリーはめったにない。想像できる中で最高のスケールだよ。正直なところ、想像では足りなくて説明なしでははっきりとつかめないほどだった。普通は脚本を読めば大体どんな作品になるかわかるものなんだけど……脚本が届く前に電話があったよね?
ハル:あったわ。脚本より先に、まずは電話が来たの。
トム:この作品は、口で説明されないとはっきり見えてこないほどのスケールだった、ということだろうね。
ハル:この脚本に限っては、説明書が付いてきたしね。何ページもあって、脚本を読むにあたってはキャラクターや背景の説明が必要だったの。どのキャラクターがどれにつながっていくとか、どのストーリーがどうなっていくのか……とか。最初の25ページくらいをそうした説明と一緒に読んでいくと、ようやくいろいろなことがはっきり見えてくる。「ああ、そういうことだったのか」ってね。そうすると後は楽しく読めたんだけど、最初は「これ、何?」って、今まで読んだ脚本とはまったく違うものだった。
トム:僕は思わず、このタイプの作品に製作費が集まるの? と聞いたくらいだ。それで彼らが「集まる」と言うから「ならぜひやりたいよ」と(笑)。ジム・スタージェスを殺そうとしているときの撮影で「ここのストーリーが後になって重要な意味を持ってくるんだ」と言われたときは「本当に?」という感じで早く先が知りたかったね。
ハル:撮影でも、アンディ・ウォシャウスキーとトム・ティクヴァの監督がどんなことにも答えてくれて、この作品の最終的な景色がはっきりしていったの。自分がやっていることが明白になればなるほど楽しさも増していったわ。毎日が新しい発見の連続って感じね。
生きることの意味を問う壮大なストーリー
Q:ストーリーがわからないこと、そしていくつもの役をやるのが不安で断った人がいると聞いています。
二人:えっ、誰? こんなおいしい役を断る人がいるんだ!
トム:実際、僕たちはこの撮影が遅々として進まなかったとき、ちょっと心配してね。お互いに「ところで何か連絡あった?」「まだよ」と情報を交換をしながら待ちに待っていたくらいだよ。返事してから、2、3年は撮影が始まらなかったからね。撮影が始まるのが待てないほど、エキサイトしていたんだ。
Q:この映画から学んだことはありますか?
トム:僕はこの映画を3回観た。そのたびにストーリーがはっきりして、それまで見逃している部分が多いのにびっくりした。ところどころに非常に深い意味を持っている部分があるんだけど、それは1回観ただけじゃわからない。
Q:例えば、どんなところですか?
トム:冒頭、ジム・ブロードベント演じるティモシー・カベンディッシュがこれから始まるストーリーの全体像を説明する。僕は最初の2回ともその説明を聞き逃していた(笑)。その直後にジェームズ・ダーシーが、ペ・ドゥナのソンミを尋問する。「おまえのバージョンの真実は何なのだ?」という質問に、ソンミは「真実はたった一つ……」と答えるんだけど、そのせりふが素晴らしくてね。つまり、真実の中の真実とは、その瞬間から次の瞬間につながるときのことなんだ。今、この瞬間の人生の選択が1,000年先、重要な影響を与えるかもしれない。誰も本当の答えを知ることはできないけどね。
主役はCGではない!
Q:ハルは作中で白人女性を演じていますね。いかがでしたか?
ハル:1930年代の、ドイツ系ユダヤ人をやるなんてほかではあり得ないチャンスだったわね。まず、わたしにやらせようなんて誰も考えないでしょう? でも、まったく知らない世界ではなかった。母は白人だから白人の女性との接触がなかったわけではないし、女であることは同じだし、人間であることにも変わりはない。でも、あの時代のドイツ系ユダヤ人は、わたしの想像の外にあるものだったから、トム・ティクヴァにいろいろ聞いて役づくりを進めたわ。
Q:この映画では役者の演技がとても重要な役割を果たしていますよね。
トム:この映画の主役はCGじゃないね。心と頭を使って観る映画なんだ。僕はそういう方が好きだよ。一時期、どの映画にも爆発シーンがあって、爆発を背にして役者が走り去るっていうのがはやったよね。そのシーンがあると安心、みたいな感じで。でも、この映画はCGに頼っていない。この映画を人に薦めるときに「CGがすごい」と言う人はいないはずだ。
ハル:わたしがびっくりしたのは、衣装とメイクアップが手作りだということ。全て丁寧に仕上げていくやり方なの。どれもが特殊効果ではなく、アートという気がした。職人がデザインして、試行錯誤して、少しずつ作り上げていく。あのやり方を選んだことは称賛に値すると思うの。今はデジタル効果を使う風潮にあって、手が掛かることを避けるでしょう? アート制作のような丁寧な作り方、手抜きなしで作り上げたって感じね。
デイヴィッド・ミッチェルの長大な原作をただ映像化するのではなく、手間暇かけて一本の映画として再構成した本作。『マトリックス』のウォシャウスキー姉弟、そしてトムやハルといったキャストが一つ一つ丁寧に仕上げた本作は、スケールの大きさとディテールの繊細さが同居する不思議な魅力にあふれる作品になった。数あるハリウッド大作の中でも、これほど唯一無二という言葉が似合う作品はほかにない。そんなプライドを感じさせるトムとハルの言葉は、映画を観た人にこそ、じっくりかみ締めてほしい。
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映画『クラウド アトラス』は3月15日より全国公開