『君と歩く世界』マリオン・コティヤール 単独インタビュー
一番不安に感じていたのはシャチとの共演
取材・文:小林真里 写真:金井堯子
独創的な獄中ギャング・ドラマ『預言者』(2009)がカンヌ映画祭審査員特別グランプリに輝いたフランスの名匠ジャック・オーディアールと、『ミッドナイト・イン・パリ』や『ダークナイト ライジング』に出演するなど今や引っ張りだこの人気女優マリオン・コティヤール。この二人の初コラボレーションが実現した『君と歩く世界』は、両脚を失ったシャチの調教師と武骨なシングル・ファーザーの出会いと心の再生を描いた、心に染みるシリアスな感動作だ。多忙な中、来日を果たしたマリオン・コティヤールが語った。
マリオン流の「演技」とは?
Q:両脚の膝下を失うステファニーという役は、俳優としてやりがいがあると同時に非常にチャレンジングだったと思うのですが、実際に演じてみてどうでしたか?
チャレンジだとはあまり感じなかったわ。演じる役が難しかろうがそうでなかろうが、それが「チャレンジ」だとは思わないの。キャラクターを演じるということは、演技をする中で、その人物を少しずつ理解していく「探検」のようなものだと捉えているから。もちろん、わたしはどちらかというと困難な役柄を演じることに興味があるのだけれど。
Q:CGで脚の一部分を処理する役を務めるのは、例えば『インセプション』でグリーンスクリーンをバックに演じるのとは、また違った難しさがあったと思うのですが。
実は『インセプション』のクリストファー・ノーラン監督はCGを使うのが好きじゃない人なの。だからわたしの演じるシーンでも、他の俳優たちのシーンでも、あまりCGは使っていないのよ。リアルな状況で俳優を使うのが好きな監督だったから、例えば美術セットに力を入れて、その大掛かりなセットの中で俳優たちが演技するよう演出していたわ。この映画の場合は、特殊効果を使わざるを得ないシーンがたくさんあったけど、特殊効果のスタッフたちがとても才能あふれる、しかも謙虚で控えめな人たちで、わたしたちキャストも監督のジャック(・オーディアール)も、特殊効果を使って撮影しているんだという意識を忘れさせてくれるほどだった。だから、特殊効果を使って大変だったという記憶はあまりないの。現場では全てがシンプルにいくように、うまくオーガナイズされていたわ。
マリオンが見た、ワイルドな主人公アリの人間性
Q:ステファニーと共に本作のもう一人の主人公であるアリは、優しくて男らしい、いい面もあるのですが、子どもや恋人、姉など対人関係に問題があり、大人になりきれない男です。彼のような男性が実際に身近にいたらどうしますか?
確かに、彼は人間関係を深く考えたことがない男性かもしれないわ。あなたの言う通り彼には未熟な部分があるし、人生の中であまり人間関係の経験がないんだと思う。でも、心の底では人間が好きな人だと思うし、だからこそ彼と息子とのやりとりに感動できると思うの。息子をすごく愛しているけど、どうやってその愛情を表現していいかわからない。だから彼自身もどかしく感じている。アリにはそういういいところもあって、それがアリとステファニーとの関係にも良い影響を与えている。世の中には計算して行動を取る人もいるけど、彼にはそういうところが全然ないの。物の見方もとても真っすぐで、ステファニーのことを障害者ではなく一人の人間として見ている。ステファニーは彼に、自分がただのセックスの対象やモノではないんだということを教えるけど、アリはそれを理解するだけの心のキャパシティーを持っているし、人を社会的地位や見掛けで判断しない部分もあり、それがステファニーの助けになっているのよ。
Q:ステファニーは、ストレートに思いの丈をぶつける素直な部分や強靭(きょうじん)な精神力が印象的でした。同じ女性として、ステファニーについてどう思いますか?
そうね、彼女は事故に遭って脚を失ってから、ああいう姿勢を取るという選択肢しかなかったともいえると思うの。でも、正面切ってストレートに物事を言うところは彼女の美徳であり長所だと思う。裏に何か意味を含ませたり余計な形容詞で言葉を飾ったりせず、何を言うにしても常に正直に話す。彼女の美しい資質だわ。
ジャック・オーディアール監督との念願の初コラボ
Q:テレンス・マリックばりの映像美を誇るフランスの名監督、ジャック・オーディアールとのコラボレーションで得たものは何でしょうか?
以前からずっと、ジャックとはいつか一緒に仕事をしたいと思っていたの。彼の仕事ぶりも尊敬していたし、彼が選ぶストーリーも、ストーリーの語り口も素晴らしいと思っていた。彼は常に本物を求めていたわ。現場では俳優やスタッフ、特に撮影監督との一体感があふれていて、それが大きなエネルギーのうねりをもたらしてくれた。彼からは多くのインスピレーションを与えてもらえたわ。
一番の不安はシャチとの共演
Q:シャチとステファニーの絆が美しく感動的でした。動物との共演は難しい面もあると思うのですが、今回シャチと共演してみていかがでしたか?
実は、撮影前に一番不安に感じていたのはシャチとの共演だったの。個人的に、捕獲された動物はとても受け入れ難いものがあって……。でも、出演を決めたからにはどんな条件も受け入れなければと思い、シャチの調教師を演じたけど、本物のシャチの調教師には本当に助けられたわ。どうやって振り付けをすればいいか、どうやったらシャチがそれに応えてくれるかを学ぶことができたし。最初この役を演じることになって「大変なことになるんだろうな……」と不安だったけど、調教師とのやり取りの中で、彼らのやっていることを本当の意味で理解したわけではないけど、彼らがシャチに愛情を持って接していることがわかり、敬意を払うことができた。ただやっぱり、あれほど大きな動物があんな小さなプールの中で生きているという事実は、うれしいことではないの。
Q:『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』でアカデミー賞主演女優賞を受賞後、クリストファー・ノーラン、ウディ・アレン、スティーヴン・ソダーバーグといったそうそうたる監督たちの英語作品に出演し、今回フランス語の作品に回帰しました。フランスとハリウッドの映画に出演してみて、その違いについてどう感じましたか?
アメリカ映画とフランス映画の違いというよりも、監督たちの違いを感じたわ。クリストファー・ノーラン、ジェームズ・グレイ、オリヴィエ・ダアン、ギョーム・カネ、ジャック・オーディアールといった、いろんな監督たちと仕事をしてきたけど、それぞれの監督がそれぞれ異なるスタイルを持っているので、女優としてモチベーションも上がるし、毎回新しい経験ができるという思いで撮影に臨めるのよ。
男性のみならず、女性からも圧倒的な支持を得ているのが納得の、長身でスリム、超小顔の美人女優マリオン。フランスだけではなく、今やハリウッドを代表する売れっ子女優へと成長した彼女だが、エレガントなオーラを放ちながら、どこか達観したクールなまなざしで、冷静に落ち着いた口調で、スマートに独自の見解を述べる姿が印象的だった。握手をしたときの手も、ソフトで繊細。これからも数々の名監督とコラボレーションしながら、女優としてさまざまな表情を見せ続けてくれることだろう。
映画『君と歩く世界』は4月6日より全国公開