『リアル~完全なる首長竜の日~』佐藤健&綾瀬はるか 単独インタビュー
一つの映画なのに、5、6本の映画を観たような感覚になる
取材・文:小島弥央 撮影:吉岡希鼓斗
第9回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した乾緑郎のミステリー小説を、『アカルイミライ』『トウキョウソナタ』などで世界的評価を受ける黒沢清監督が映画化した『リアル~完全なる首長竜の日~』。自殺未遂によってこん睡状態となった恋人を救おうと、彼女の意識下に潜る青年の苦悩を描いた作品だ。次第に現実と仮想が混濁していく青年・浩市を演じた佐藤健と、その恋人の淳美を演じた綾瀬はるかが、作品のこと、そしてお互いのことを語り合った。
キーワードは違和感!
Q:どんでん返しに次ぐどんでん返しが待っている作品ですが、脚本を読んだ感想はいかがでしたか?
佐藤健(以下、佐藤):面白かったです。どんどん話が展開されていくので、時間を忘れて読んじゃいましたね。
綾瀬はるか(以下、綾瀬):わたしも面白かったです。設定自体も面白いので、読んでいてワクワクしました。
Q:実際に撮影に入って、現場の雰囲気や黒沢監督とのお仕事はいかがでしたか?
佐藤:淡々と、スムーズにテンポよく進んでいった印象ですね。黒沢監督はテンポよく撮っていく方なので、本当にあっという間に撮影が終わっちゃった感じですね。淡々と不思議な世界観を作っている感じというか……不思議なことをやっていた感じですね(笑)。
綾瀬:黒沢監督は、動きとかも割と細かく言うんですよ。台本にないことでも、「ここでこう動いて、こうセリフを言ったら、ジグザグに動いてこっちに行って……」とか。
佐藤:そうそう。特に今回の作品は意識下という設定だから、日常じゃない感じを出すために、常にどこか違和感を感じるように作っているところがあって、動く必要のないところで動いたり、歩く必要がないのに歩いたりするという演出が結構ありました。セットもちょっと変な感じなので、その場にいるだけで常に違和感を覚えながら演じていましたね。
綾瀬はるか、佐藤健を翻弄できず!
Q:違和感というなら、お二人に笑顔がないというのも、すごく新鮮でした。
佐藤:そうですね。僕は芝居をするときに、極力、無駄なことはしたくないタイプで、今回もシンプルなお芝居ができたらいいなと思っていたので、表情も動きも作りすぎないようにと意識していたんです。できるだけシンプルにシンプルに、と。だから、笑顔はもちろん、根本的に表情がなかった気がします。
綾瀬:わたしは、最初に黒沢監督から「こん睡状態の淳美と、現実世界の淳美の二人がいると思ってください。その二人を別人だと思って演じ分けてください」と言われたんですよ。しかも、「こん睡状態の淳美のときは、浩市のことを翻弄(ほんろう)するような感覚を意識してください」と。でも、そういえば全然、翻弄できていなかったなあって……淳美のことばかり考えていた(笑)。
佐藤:ああ……でも、結果、本当に良い雰囲気でしたよ。
綾瀬:ありがとう(笑)。
Q:八丈島でも撮影したんですよね。
佐藤:撮影の中盤ぐらいに行ったんですけど、スタッフもキャストもあの島でより結束が強くなったところがあります。島だと生活のリズムも一緒になるから、同じ時間に撮影が終わって、ご飯を食べたりして、島での撮影前と後だと、仲の良さも全然違うものになりました。
綾瀬:でも、わたしたちは島で撮影する前から仲良かったよね(笑)。
佐藤:そうだね(笑)。
佐藤健の本音が知りたい!
Q:映画の中には、相手の意識の中に潜り込めるセンシングという先端医療が登場しますが、お二人がお互いにセンシングしたら、どんな世界が広がっていると思いますか?
佐藤:基本は身近にあるものだから……綾瀬さんの場合は、積み木のおもちゃとか? それで、歩いていって外に向かうにつれて、だんだんと闇が広がってくるみたいな。
綾瀬:え? ちょっと! わたし、28歳なんだけど。何、おもちゃって(笑)。
佐藤:まあまあ(笑)。
綾瀬:じゃあ、たけちゃんは恐竜のおもちゃ! 恐竜のプラモデルとか、かわいいものがいっぱいありそう(笑)。
Q:見てみたいところや、見たくない姿などはありますか?
綾瀬:否定的なことを言っているところは見たくないかも。
佐藤:俺は、綾瀬さんはウソをつかない人だと思っているので、頭の中に入ってもこのままなんじゃないかと。だから、大丈夫だと思います。
綾瀬:それって面白くないってこと?
佐藤:ううん、裏表がない人ってことですよ。
綾瀬:わたしは、たけちゃんが本当は何を思っているのか知りたい。わたしは結構はっきり言うけど、たけちゃんはなかなか本音を言わないでしょ?
佐藤:俺もはっきり言っていますよ?(笑)
綾瀬:そう? でも、人って常に変わるものでしょ? 気持ちだって変わるし、成長するから、久しぶりに会うと変わっていることだってあると思うんだよね。だから、たけちゃんが今は何を感じているのか、何が好きで、どういうものに興味を持っているのか、そういう変化を見たいなあって思う。そういうものが見られたらいいなあと思いますね。
佐藤:そんなに変わっていないよ、俺は(笑)。
綾瀬:絶対、変わっているよ(笑)。
いろいろな要素が詰まった遊園地みたいな映画
Q:最後に、お二人が感じた『リアル』の魅力を教えていただけますか?
佐藤:『リアル』に限らず、黒沢監督の作品って、常に目を離せないんですよね。どこかに違和感があるから、観ている最中も「何かあるんじゃないか?」って探しちゃうし、「何か意味があったんじゃないか?」「何か起きるんじゃないか?」という予感がある。だから、緊張の糸がずっと張っていて、気分がざわざわするんです。さらにそこにエンターテインメント要素が強く加わっているというのが、魅力なんじゃないかなと思いますね。
綾瀬:観ていると不思議な世界にグッと引き込まれていって、いろいろなことがひもとかれて、「えー! こういう結末なの?!」というどんでん返しがバーンと起きます(笑)。とにかくもう、いろいろな要素がある映画だと思うんですよね。ラブストーリーもあれば、謎解きもあって……。
佐藤:うん、この映画の中に何種類もの映画が入っている感じがあるよね。だから、一つの映画を観ているんだけど、5、6本の映画を観たような感覚になると思います。
綾瀬:わかりやすく言うと、遊園地みたいだなと思います。いろいろなものに乗れる感じが。
佐藤:そうそう、ジェットコースターがあって、メリーゴーラウンドがあって。
綾瀬:「こういう映画です」と、言いづらい感じがまた魅力だなと思います。
黒の衣装でシックに決めた二人。撮影では、普段よりも大人っぽい表情で色気を漂わせていたが、インタビューでは一変。リラックスした雰囲気の中で、佐藤にちょっかいを出す綾瀬と、それに時に突っ込みを入れ、時に受け流す佐藤の関係は、どちらが年上なのかわからないほどフランクだった。そんな「自然体」という言葉が似合う二人が、黒沢監督の「違和感」の演出の中でどんな表情を見せているのか、スクリーンで確かめてみてほしい。
(C) 2013「リアル~完全なる首長竜の日~」製作委員会
映画『リアル~完全なる首長竜の日~』は6月1日より全国公開