『100回泣くこと』桐谷美玲 単独インタビュー
取材・文:高山亜紀 写真:氏家岳寛
中村航のロングセラー恋愛小説『100回泣くこと』が、原作にはない設定を加え、さらに感動的な物語となって映画化された。主人公はバイク事故で過去4年間の記憶をなくした藤井。記憶が戻らぬまま、彼は元恋人の佳美と再び運命の出会いを果たし、結ばれる。ところが幸せな時間もつかの間、今度は彼女に病魔が襲い掛かる……。『余命1ヶ月の花嫁』の廣木隆一監督の下、切ない恋物語に挑んだのは、関ジャニ∞の大倉忠義と桐谷美玲。病のヒロインを演じた桐谷が、撮影時を振り返った。
佳美はとても強い女性!
Q:最初に脚本を読んだ感想を教えてください。
悲しいお話ではありますが、二人の何げない日常生活がすごくかわいらしく、とても幸せに描かれているので、そこは演じる上でも大切にしたいというのをまず、思いました。それに彼女の場合、二人のシーンが幸せであればあるほど、病気になってからの独りぼっちがつらくなるんですよね。
Q:今回桐谷さんが演じられた佳美は、4年間記憶喪失の藤井を待ち続け、相手のことを思うがゆえに病気になったことも隠し続ける……とても強い女性だと感じましたが、桐谷さんは佳美をどんな女性だと思い演じていらっしゃいましたか?
佳美ちゃんはとにかく藤井くんのことを第一に考えている人。たぶん、常に「藤井くんの幸せってどんなことだろう?」と考えているんじゃないでしょうか? だから、わたしも藤井くんへの思いをいつも持っていたいと思っていました。わたしは佳美ちゃんみたいに強い女性ではいられないと思うんですけど、芯の通った純粋な女の子だということを大切にしたいと思って演じていました。
Q:なるほど。それでは自分とは異なる女性ということで、感情移入するのは難しいところもありましたか?
最初からものすごく感情移入していたかと言ったら、たぶん、そうではないと思います。でも、演じていくうちに徐々に佳美ちゃんの気持ちが理解できるようになっていきました。
Q:それにしても、4年も待ち続けるってすごいことですよね!
わたしだったら、4年も待っていられず、すぐに「会いたいよ」って連絡しちゃうと思うんですよね。こんな強い女性になれたらいいなって思います。
マイペースな大倉忠義はまさしく藤井!
Q:藤井役の大倉さんとはどのように距離を縮めていったのでしょうか?
特にお互い何かをしたということはないですね。ただ、撮影も二人のシーンが多かったので、徐々に距離を縮めることができたように思います。
Q:共演してみて、大倉さんはどんな方だと思われましたか?
大倉さん、すごく藤井っぽいんですよね! マイペースでいらっしゃるところとか、藤井に似ていると思いました。あと、大倉さんって、悲しい、感動できる映画が大好きで、詳しいんですよ! 撮影中に『悲しみよりもっと悲しい物語』っていう韓国映画を教えていただいて、とても感動しました。
Q:本作では、大倉さんと桐谷さんのやり取りが自然体で、すてきでした。
二人とも、本当に撮影を楽しんでいましたからね! バイクではしゃいでいるシーンはもちろん、チャーハンを作っているだけのシーンでも楽しかったんです。だから、演技ではなく、素の表情だったんですよね。
Q:つらいシーンも多い作品だと思っていたので、撮影が楽しかったとは意外です。役づくりのために減量もしたそうですが?
体重的に何キロという感じではないんですけど、病気になるシーンを撮る何日か前から、ご飯の量を少しずつ減らしたり、スープにしたりしました。もちろん、楽ではなかったですけど、特にすごくつらいということもなかったです。
追い込まれて追い込まれて見せた、素の部分
Q:それでは、「厳しい」と評判の廣木監督の演出はどうでしたか?
厳しいときは厳しかったですね。ほとんど順撮りで撮っていて、監督は「余計なことはしなくていいから、ただ、そこにいてほしい」と考えていると感じたので、わたしはとにかく「自然に、自然に」と考えていました。それに慣れるまでがすごく難しかった。それから、監督は「こうしてください」ということは一切言わずに、テイクを重ねていくので、「どうしよう」「どうすればいいんだろう」と考えなければならない葛藤がありました。
Q:何も言われずに「もう1回、もう1回」と言われると、不安になりそうですね!
とにかく「もう1回」と言われているからやっているような状況でしたが、監督は、追い込んで、追い込んで、その中に出てくる、わたしの素の部分を見てくれていたのだと思います。それに、二人の自然体なやり取りを引き出してくれたのも、監督だと思います。監督とご一緒できる機会があるなら、ぜひまたご一緒したいです。
Q:では最後に、本作に出演したことで、自分自身についての発見があったら、教えてください。
病気や事故で命を失ったり、記憶をなくしてしまうことは、誰にでも起こり得ることなんだって気付かされました。こうやって毎日、楽しく笑って過ごせていることは、当たり前のことではないんですよね。本当に体当たりで演じた作品なので、たくさんの方に観てほしいですし、自分にとっても大切にしたい作品になったなとすごく思っています!
関わった多くの俳優、女優にとって転機となるといわれる廣木監督の作品。一方で、俳優たちが撮影中、何度も音を上げそうになったとよく聞く。今回、監督の下、女優として大きく成長した桐谷美玲。精神的にも過酷なシーンの多い本作で、ただでさえ細い彼女が減量までして本番に臨んだ。それなのに「つらいことは何もなかった。楽しかった」と撮影を振り返る彼女には「女優」という仕事に対する並々ならぬプライドがみなぎっていた。
映画『100回泣くこと』は6月22日より全国公開