第2限:ピクサー社員のオフィスに潜入!
ピクサー訪問記『モンスターズ・ユニバーシティ』編
いよいよ公開を今週末に控えた映画『モンスターズ・ユニバーシティ』。これまでに数々の名作を手掛けてきたピクサーの最新作です。
この連載では、そんなピクサーの社内に潜入!
第2回となる今回は、ピクサー社員のオフィスにお邪魔してきました!
取材・文:編集部 福田麗
ここは、ピクサーで働く日本人社員・堤大介さんのオフィス。デスクの上にパソコンがあるのはもちろん、壁には巨大なスクリーンがあり、窓際にはおもちゃが置いてあり……オフィスというよりは、まるで自室のような雰囲気です。
そこここに日本映画関連の書籍がありますね。
この環境で、普段はどんなふうに仕事をしているのかといいますと……
……ポチポチっとな。
……あ、ちょっと悩んでいるようです。
随分リラックスしていますねえ。
また何かを思いついて……
完成!
このシーンを見てみると……
映画の冒頭、マイクがモンスター大学にやって来る場面でした!
ちなみにこのシーンには堤さんなりの仕掛けがあるとのこと。
それがどんなものなのかは後で教えてくれるということなので、ちょっとだけ寄り道をして、食堂を覗いてみました。
メニューも豊富!
まだ時間が早いということもあり、人はまばらでしたが、食事はコミュニケーションの場となっているのがよくわかりますね。
さて、ごはんも食べた後、オフィスに戻る前にちょっとトイレにでも……って、あれ?
男子トイレのマークが『トイ・ストーリー』のウッディの形になっていますよ、奥さん!(誰?)
ということは、もしや……ということで女子トイレにも寄ってみました。
こちらは『トイ・ストーリー』に登場するボー・ピープじゃないですか、奥さん!(2回目)
見る前は『トイ・ストーリー』のジェシーがデザインされているのかと思ったのですが、それだとウッディと似ていて、どっちがどっちなのかわからなくなりますもんね……いや、今のままでも初めての人は相当戸惑うと思いますが。
こんなところにまで遊び心があるとは……ピクサー、恐ろしい会社!
世界有数のアニメーション会社として、アニメに関わる人ならば誰もが一度は夢見るであろうピクサー。では、そこに入社できるのは、いったいどんな人なのでしょうか?
ピクサーで働く人で、意外にも4年制大学を卒業した人はそう多くはないといいます。プロダクション関係の部署では多くの人が映画学校の出身であり、アニメーターなどには美術学校の卒業生が多くを占めています。ほかにもコンピューターグラフィックスを学んだ人もいるようです。また、インターンシップ制度も充実しており、そこを足掛かりに入社する人もいるとか。
そのほか、他の会社からヘッドハンティングされるということももちろんあります。実は、先ほどのオフィスをのぞいた堤大介さんもその一人。どういった経緯でピクサーに来たのか、聞いてみました。
「僕は6年前にこの会社に来ました。それまでは同じようにアニメーションを作る違う会社で働いていたんですが、そのときに『トイ・ストーリー3』のリー・アンクリッチ監督からメールをもらったんです。今『トイ・ストーリー3』を作っているから、光と色をやってほしいと。そのときはいたずらだと思いましたけどね」
ちなみに堤さんが在籍していた前の会社は「ブルー・スカイ・スタジオ」。『アイス・エイジ』シリーズで知られている同スタジオで、堤さんはそのシリーズ第1作のコンセプトアートを担当しています。
そしてピクサーでは『トイ・ストーリー3』のアートディレクターに抜てき。とりわけ木漏れ日に代表される光の表現ではピクサー内にも並ぶ者はいないといい、「木漏れ日というと、ダイスケだっていうイメージがピクサーでもあるみたいで」と笑います。
「僕は大学ではずっと油絵を勉強していて、いまだに油絵でも水彩でも絵を描くということをずっとやっているんです。その中でも一番気にしているのは光ですね。世界のどこを旅しても一番注目するのは光なんですよね、僕は。やっぱり光って、頭というよりは心、感情に素直に届く映像の要素だと思うんです。だからやっぱりそこが一番自分の中では好きですね。その部分で、何とか話を伝えられたらと思っています」
その堤さんにとってピクサーで2本目の映画になったのが本作、『モンスターズ・ユニバーシティ』なのです。
堤さんは本作のアートディレクターを務めています。「ディレクター」とあるようにかなり重要な役職で、主に堤さんは「色」「光」を担当していますが、中でも大事なのは「カラースクリプト」(色の台本)という仕事です。映画のストーリーに台本があるように映像にも台本があり、堤さんがそれを担当した……といえば、そのすごさが伝わるでしょうか? 完成したカラースクリプトはスタッフに渡され、その後の作業の基になるというだけあって、制作には時間がかかり、この作品の場合は2年半もカラースクリプトに関わっていたというから驚きです。
Q:具体的にカラースクリプトというのはどういうものなのでしょうか?
シンプルなスケッチのかたまりのようなものです。絵本のような感じですね。文章があって、それを絵にしていくんですが、本当に絵本のように小さいスケッチみたいなものを描いていきます。大事なのはシーンごとにどういうふうにコントラストやシンボリズムを作り、映画全体を進めていくのかということですね。
Q:具体的な例を教えていただいてもよろしいですか?
光に関してはキレイに見せるということは僕の中ではある意味簡単なので、それだけではだめなんです。光をどう駆使することで感情の部分を助けるか。例えばマイクがキャンパスに初めて来たとき、バスを降りたシーンでは影の中にいます。そして、キャンパスの敷地の中に入ると同時に光の中に入る。マイクは希望に向かって、光に向かって歩いて行くわけですね。
Q:なるほど。
その一方で、マイクが夢をかなえるためには乗り越えないといけない壁があります。それが「怖がらせ学部」という学校であり、ハードスクラブルという学長ですね。なので、そういったものには必ず後ろから光を当てています。つまり陰、逆光なんですね。もっと説明すると、マイクのゴールに立ちふさがるものはすべて陰といいますか、後ろから光が当たっているんです。それが映画全体の、光の当て方のテーマです。
Q:それを実行するために難しいことはありましたか?
ハードスクラブル学長は映画のほとんどで彼女の顔は陰になっています。これはアニメーションの世界では珍しい話で、アニメーターとしてはとても厄介な話なんです。せっかくきれいに作ったアニメーションも全部陰にされちゃうわけですからね。なので、反発もありました。だけど「彼女を表現するには絶対に陰なんです」と説得して、ほとんど陰にしました。表情がわかりにくいくらい陰に落としているんですよ。そのように光を使ってキャラクターやストーリーをどうやって後押ししていくかということを考えながらやっています。観ている人にはすぐにわからないかもしれませんが、僕らの中では難しく、かなりのコーディネーションが必要なシーンになので、これは僕の中でとても誇りに思っている作業の一つです。
Q:ほかにこだわった箇所はありますか?
あとは、マイクとサリーがどのように友達になったかという話なので、光を使ってどうやって彼らの友達としての関係を表現できるかが最初からのテーマでした。ライティングで二人の友達関係を表すというのは、映画のいろいろなところにちりばめられています。例えば、光に入っているか、影に入っているかでマイクとサリーの力関係を表したり……こういうのは僕らアートディレクターがプッシュしたからこそ、実現できたことなんです。ただ、僕らとしては観ている人にはそういうことを考えずに感じてもらいたいですね。
Q:堤さんは日本のアニメから参考にされていることはありますか?
僕は日本育ちなので、宮崎駿監督を目指してこの道を進んでいる人間ですし、宮崎さんだけではなく、日本のアニメーションはいろいろな意味で勉強させてもらっています。アニメーションでも実写でも絵画でも、僕は常にインスピレーションを探して、本や映画を観て仕事するので。僕は絵を描くのが仕事ですけど、絵を描く上で費やしている時間と同じように映画を観たり画集を見たり、外で実際に絵を描いたりということをしていますね。それがすごく大事なので。
Q:日本のアニメで堤さんが学んで、こういうところをピクサーに持ち込みたいというところはありますか?
日本とアメリカでは、アニメーションの作り方がすごく違います。一番すごいのはバジェット(製作費)ですね。アメリカの方が何十倍も大きいと思います。でも逆にアメリカが日本から学んでほしいのは、もっと作家性のある、そんなにお金のかからないインディペンデントな映画作りをアニメーションでできたら、ということですね。ピクサーのように大きなバジェットで作るというのはもちろん素晴らしいですが、アメリカのアニメーションはすごくお金がかかるというのが当たり前なので、日本のようにもっと作家性を重視した、そんなに規模が大きくなくてもある程度はもうけが出るんだという小さいアニメーション映画を作れたらと思います。
Q:逆に日本のアニメがアメリカから学ぶべきところはどこでしょう?
生意気に聞こえないように言うのが難しいですが……(笑)、日本はもっと世界に向けて勝負できる人材がそろっているのに、日本の小さい規模だけで満足してしまっているということも少しはあると思うんです。それはもったいないと思うので、ぜひそこはお互い学びながら中間のものができれば、僕らが今観ているアニメーションよりも素晴らしいものができると思います。今はまだお互いのことを、アメリカはアメリカの考え方、日本は日本の考え方となってしまっていて、そのギャップを縮めるということをなぜか誰もしていない。したとしても成功していない。何らかの形で日本とアメリカのそれぞれのいいところをつなぎ合わせていいアニメーション映画を作りたいなとは、すごく思いますね。
Q:『モンスターズ・ユニバーシティ』は堤さんにとって、どういう作品でしょう?
この作品にすごく長く携わったということもありますが、僕にとっては今までのキャリアの中で一番思い入れのある映画なんですね。やっぱりそれはマイクに、全く同じ経験をしたということで自分と重なる部分がすごくあったんです。自分に才能がないのに、目指すものに情熱を注いで一生懸命やってしまう……これは僕だけではなく、おそらくほとんどの人は何らかの形でこういった経験をしているのではないでしょうか。だからこそ、僕は日本の方々にこの話のメッセージをぜひくみ取ってもらいたい。成功の物差しっていろいろあると思うんですが、どうしても大抵の人はありきたりでメジャーな成功の物差しを使いたがる。でも、この話はちょっと違うんです。もっと違うところに実は大事なことがあるんだよ、と。日本の若い人たちに、迷っている人たちにぜひ観てもらいたいですね。
今やピクサーの屋台骨を支える一人といっても過言ではない堤さん。本作の後には、再び『トイ・ストーリー3』のリー・アンクリッチ監督とタッグを組むとのこと。先日にはその内容がメキシコのお盆にあたる「死者の日」をテーマにしたものであることが明かされましたが、今度は一体どんなすてきな光を魅せてくれるでしょうか? う~ん、楽しみです!
映画『モンスターズ・ユニバーシティ』は7月6日より2D・3D同時公開
(C) 2013 Disney / Pixar. All Rights Reserved.
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