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『爆心 長崎の空』北乃きい&稲森いずみ 単独インタビュー

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『爆心 長崎の空』北乃きい&稲森いずみ 単独インタビュー

被爆者がどんな思いをしているか、伝える大切さを知った

取材・文:高山亜紀 写真:吉岡希鼓斗

終戦から70年近くたち、戦争のことも日本に原爆が落とされたことも、遠い昔のことのように思える。しかしその事実はなくならず、今もなお原爆体験者、その子ども、そして孫たちは存在する。その現実にしっかり、確実に向き合わせてくれるのが映画『爆心 長崎の空』だ。決して特別な存在ではなく、娘として、母として普通に生きている清水、砂織たちに突然、起こった不幸。けれど、長崎で暮らす彼らにとって原爆は切り離せない……。被爆3世、2世として生きる女性を全身全霊で演じた北乃きい稲森いずみが、本作への思いを語った。

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原爆の恐ろしさを目の当たりにした原爆資料館

北乃きい&稲森いずみ

Q:最初に脚本を読んだときの感想を教えてください。

北乃きい(以下、北乃):そうそうたるメンバーの中に主演とあったので、「本当にわたしが?」とマネージャーさんに聞き返したことを覚えています。脚本を読みながら、長崎に原爆が落とされたことを教科書程度にしか知らなかったので、学んでいかなければと思い、原爆資料館に行きました。

稲森いずみ(以下、稲森):わたしも原爆のことは過去に起こった惨劇で、決して繰り返してはいけないくらいの認識しかありませんでした。でも、作品に携わった後はいまでも被爆者、2世、3世と続いていて、彼らがどんな思いで暮らしてきたのかを知りましたし、それを伝える大切さも知りました。この作品に携われて本当に良かったと思っています。

Q:実際に原爆資料館に行かれて、いかがでしたか。

稲森:わたしは半分、役を通して見ていたので、涙が止まらなくて、泣き崩れてしまいそうでした。周りの方におかしな人だと思われても困るので、必死でそれを隠して……。でもそれほど、衝撃を受けました。一言では言い表せません。

北乃:わたしは役に生かすというより、行ったことで作品に対する気持ちが変わりました。資料館には実際に触れられるものもあったので、肌で感じることができました。何がどうと言葉で説明できないくらい、たくさんのものを受け止めて……。ここに来ずして、死ななくてよかった。友達にも「生きているうちに絶対に一度は行った方がいい」と話したほどです。そういうメッセージをこの映画を通して、伝えていけたらいいなと思いました。

今なお生きている被爆者たちの気持ちを考えた

北乃きい&稲森いずみ

Q:被爆者2世、3世を演じるにあたり、どう気持ちを作っていきましたか。

稲森:わたしが演じた砂織は最愛の娘を失い、悩みに悩んで、渦のようなものに巻き込まれて落ちていく感じの役でした。そこから娘を失った原因は被爆2世の自分に、そして被爆1世の母親にあるのではないかという心の流れへと続いていくので、まずは自分の娘を愛することが大事だと思いました。それから、今なお生きている被爆された方たちの気持ちはどうなのかも考えました。長崎ロケに行ったときに、実際に2世の方にお会いしたんですが、普段はあまり考えていないとお聞きしたので、日常を演じるにはそういうものかなと思いました。もちろん、心の中のどこかにあるのだけど、それが一番、前面には出てこない、そういう暮らし方なのかもしれません。

北乃:わたしが演じた清水は、お母さんを急に亡くして「ごめんね」の一言が言えずに後悔する女の子。被爆3世ですが、演じるにあたり監督からそういったことは気にしない役だと聞いていたので、考えないようにしていました。清水と自分の性格はあまり似ていないですね。「大切な人は急にいなくなる。突然に」というせりふがあるんですけど、わたしはそう思っても、体験した人でないとわからないと思うから、口に出しては言わないです。逆の立場で言うと、被爆した方にとてもじゃないけど、「わかります」とは言えないですね。

過酷だった2月のロケ。真夏の場面で空から雪が!

北乃きい&稲森いずみ

Q:お互い、共演しての印象は?

北乃:この作品ではあまりお話する機会がなくて、この後に共演させていただいたドラマ「クレオパトラな女たち」の印象が強いんです。今になって思うと、本来の稲森さんを見たのは長崎ロケが終わって、空港で食事をされていたときくらいなんですよ。空港から東京に向かうまでの間だけ(笑)。ドラマでお会いしたら(役柄の)睦に成り切っていて、本当の稲森さんがどんな人か忘れちゃうぐらい別の方でした。

稲森:きいちゃんは、相手を本気にさせてくれる女優さん。勝負したくなるとか、そういう意味じゃなくて、その役に入らせてくれる。どの役にも勢いがあって、エネルギーを感じます。

Q:出会ってすぐ共鳴し合う清水と砂織ですが、どう距離を縮めていきましたか。

稲森:実は清水と砂織が初めて出会うシーンが初日だったんです。だから、本当にあれが初対面ですね。

北乃:稲森さんは会ったときから、もう砂織に成り切っていたんです。あのシーンで砂織は極限状態なんですけど、稲森さんは外見だけでなく、中身もそういう状態でした。あいさつをして、隣に座ったんですが、それがひしひしと感じられるんです! だから、役に入りやすかったですね。稲森さんはそれほど意識されていないと思うんですけど、その場で既に役として生きていました。

稲森:最初に聞いたときは動揺したんですけど、うまく作用したのかもしれないですね。

北乃:実はあのシーンは2月に撮影したんです。監督が「長崎の空が一番、きれいな時期だから」とおっしゃっていました。

Q:真夏のシーンを2月に、ですか!

稲森:過酷でしたね。

北乃:白い息が出ないよう、息を止めていましたもん。

稲森:お墓で撮影したので、お花がすごくきれいだったんですよ。それで、風に花弁が舞っているなと思っていたら、雪だったんです(苦笑)。

どんな世代のどんな人にも自分にあてはまる箇所がある

北乃きい&稲森いずみ

Q:ステキなせりふもたくさんありますね。

稲森:印象的だったのは、お母さんを亡くした清水に佐野史郎さん演じるお父さんが「お母さんが清水のことを愛していたことだけ、忘れなければいい」というせりふ。そこはちょっと泣いちゃいましたね。

北乃:この映画は観る時々で、感情移入する場面やせりふが、毎回違うんです。最初に見たときは、被爆者である石橋蓮司さん演じる砂織の父の「自分だけなぜ生き延びてしまったんだろう」というせりふがすごく胸に響きました。震災後、そんなにたっていないときにこの作品を観たから反応してしまったのかもしれません。自分と同い年だから清水に感情移入するとか、そういう映画ではないです。どの世代のどんな方が観ても、必ずどこか自分にあてはまる箇所がある。不思議な映画なんですよね。

Q:最後に、お二人がこの映画に込めた思いを教えてください。

稲森:人と人とのつながりの大切さ、尊さですね。人とつながる、関わっていくっていいことばかりではなくて、つらいこともあります。でも何もしなかったら、つながっていかない。だから、そういう努力や意識も必要なんだと思います。

北乃:清水と砂織が心を通わせるシーンで監督のおっしゃっていた「人の支え」をわたしも感じることができました。人は人とのつながりがないと、決して生きていけないんだと心から思いました。


やけど、がれき、人の影が映り込んだ建物……目を真っ赤にしながら、原爆資料館の衝撃体験を語ってくれた二人。そんな感受性の強い彼女たちだからこそ被爆2世、3世の苦しみやつらさが表現できたのだろう。決して風化させてはいけない原爆投下の史実、そして、今なお苦しんでいる人がいるという実情。作品を通じ、それらを伝えていく大切さを深く知ったという彼女たちの思いはきっと観客に届き、伝わっていくはずだ。

【北乃きい】ヘアメイク:彰宏(ENISHI) スタイリスト:梶原浩敬(Stie-lo)
【稲森いずみ】ヘアメイク:奥原清一(suzukioffice) スタイリスト:堀井香苗 衣装:ワンピース(ZERO+MARIA CORNEJO) ネックレス(MARIE-LAURE CHAMOREL)

(C) 2013 「爆心 長崎の空」パートナーズ

映画『爆心 長崎の空』は7月20日より東劇ほか全国公開

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