『終戦のエンペラー』トミー・リー・ジョーンズ&マシュー・フォックス 単独インタビュー
日本人の天皇に対する思いに敬意を払う
構成・文:シネマトゥデイ編集部 写真:(C)KaoriSuzuki
終戦直後の日本を舞台に、太平洋戦争の責任者をめぐるサスペンスを、アメリカ軍人と日本人女性による感動の物語を交えて描いた映画『終戦のエンペラー』。岡本嗣郎のノンフィクションを原作に、戦後の日本の運命を決定した衝撃の真実を解き明かす歴史ドラマだ。日本から初音映莉子、西田敏行、桃井かおり、夏八木勲など、数多くの実力派俳優が参加。その中にあって、アメリカ人キャストとしてマッカーサー元帥にふんした名優トミー・リー・ジョーンズと主演を務めたマシュー・フォックスが本作を語った。
あのトミー・リー・ジョーンズがマッカーサーに!
Q:これまでの映画にない、アメリカの対日政策を描いた内容がとても興味深かったです。出演を決めた理由を伺えますか?
トミー・リー・ジョーンズ(以下トミー):日本とアメリカの関係に興味があったんだ。脚本も気に入ったし、題材も好きだった。二つの文化が、どのようにお互いを理解していくのかを見るという意味で、とても良い作品になったね。
マシュー・フォックス(以下マシュー):劇中のラブストーリーにとても感動したんだ。それに、映画に描かれている歴史について僕はほとんど知らなかった。歴史を新しく学ぶのは大好きだ。ストーリーテリングと過去の事柄を学ぶ要素を組み合わせることができれば、それ以上のことはないと感じている。だからこの映画に関われて、とても誇りに感じているよ。
Q:お互い共演した感想はいかがでしたか?
マシュー:恐れ多くも、あのトミー・リー・ジョーンズだよ。素晴らしい経験をさせてもらった。彼がマッカーサー元帥を演じると聞いたときも、「適役だ」と思った。彼以外にふさわしい人物なんて思い浮かばなかったね。経験豊富で輝かしい功績を持つ人物と一緒に仕事ができたことを、光栄に思っている。
トミー:僕はマッカーサー元帥に似ていないかもしれないが、トレードマークの帽子、サングラス、それからコーンパイプさえあれば、彼になれる。あのスタイルは有名だからね。特別なことは何もしてないよ。マシューは実力のある俳優だし、準備も怠らない真面目な人だ。カメラが回っていないときの会話も楽しかったね。互いに釣りが好きだから、コツを教え合ったりした。
マシュー:トミーの情熱は徹底した役づくりからも感じられるし、すごく刺激を受けた。ベテラン俳優の情熱や仕事に対するプロ意識を目の当たりにすると、いつもたくさんの刺激を受けるよ。
歌舞伎役者・片岡孝太郎の演技に感銘!
Q:日本人キャストについてお尋ねします。マシューさんは、恋人同士を演じた初音映莉子さんとの共演はいかがでした?
マシュー:すごく楽しかったよ。初顔合わせの瞬間から、ぎこちなさは感じなかった。すぐ打ち解けたし、自然と役に集中することができたね。手応えを感じたよ。おかげで、作品にとって重要なポイントでもある、人との信頼や温かい愛情をうまく表現できた。映莉子は素晴らしい共演者だね。
トミー:とても素晴らしい役者だよ、特にアヤ(初音の役名)はね。美しい女性だ。
Q:昭和天皇を演じた片岡孝太郎さんはいかがでした?
トミー:美しい、とても立派だよ。彼は歌舞伎役者で、どんな役者よりも訓練されているし、天皇にふんする上で素晴らしい仕事をしたと思う。僕らは友達になってね、何度かディナーを共にした。次に日本に行くときには、彼を訪ねるつもりだ。
Q:お二人が共演するシーンは、本作のクライマックスでもあります。
トミー:僕にとっては、この映画のハイライトだったよ。僕は歌舞伎のファンだからね。彼と一緒に仕事ができるなんて、とてもクールな出来事だった。
Q:初めて歌舞伎を観たのはいつごろですか?
トミー:10年くらい前だったと思う。場所は歌舞伎座で、過去に勉強して知識を持っていただけのものを、実際この目で見ることができて、とてもわくわくしたよ。今は年に2~3回、(歌舞伎の)舞台を観に行くんだ。
Q:そこまで日本に興味を持つきっかけは、何だったのですか?
トミー:多分、大学で取った「世界のシアター」というクラスがきっかけだな。そこで歌舞伎や、19世紀の歌舞伎役者を描いたすてきなカラーの木版画について勉強して、日本に注目するようになったんだ。今は(幕末・明治の浮世絵師)月岡芳年の連作「月百姿」を完全なセットで集めようと思っているよ。
貴重体験! 皇居での撮影を敢行!
Q:日本では、皇居で撮影をされたそうですね。いかがでしたか?
マシュー:あれは興味深かったよ(笑)。
Q:中には入れたのですか?
マシュー:いや、皇居の前で撮影することが許可されただけだ。規制もすごかった。何も食べられないし、たばこも吸えない。限られた時間しか与えられなかったし、常に監視されていた。でも、とても神聖な場所にいる感覚を覚えたよ。そして……(撮影を)楽しんだ。
Q:どのくらいの期間、日本で撮影をされたのですか?
マシュー:ニュージーランドで10週間ほど撮影をしたと思うけど、東京は3日か4日いただけだよ。皇居前で撮影するためにね。でもこの映画にとって、そして僕たちにとっても、それは重要だったと思う。これまでに誰もやったことがないことをする機会を得て、映画に反映できたんだからね。
Q:劇中では日本語も披露されていますね。難しかったですか?
マシュー:うん、難しかった。でもこの映画では、ヨーコ(プロデューサーの奈良橋陽子)とユージン(プロデューサーの野村佑人)がいつも現場にいてくれたから、日本語のシーンをやるたび、彼らに「どうだった? ちゃんと話せていたかい?」って聞いていた。ヨーコはいつも「素晴らしかったわよ」って言うんだけど、ユージンは「ノー。もっとこういう感じじゃないとだめだ」って(笑)。でもとても楽しかったよ。今僕の娘も日本語を勉強しているんだ。すごく夢中になっている。
同じ過ちを繰り返さないために
Q:本作への出演によって、日本の人々や文化について理解が深まったと思いますか?
マシュー:そう思うよ。それに対する答えはイエスだね。
トミー:日本や日本の人々に対する意見や印象は変わっていない。でも、これまであまり考えたことがなかった日本とアメリカとの関係について学ぶことができた。
Q:日本人の天皇に対する思いをどう感じますか?
トミー:日本の人々の天皇に対する思いまでは理解できないけど、敬意を払うことはできるよ。
Q:戦争の責任がどこにあるのかを問う本作が、現在のアメリカや日本の人々の目にどう映ると思いますか?
トミー:それは個人次第だ。そうだろう? でもこの映画では、二つの文化がどのように生き残り、和解したのかについて学ぶことができる。20世紀における最悪の状況下、人々がどのように最大限の努力をしたかについて考えるのは、われわれにとって良いことのはずだよ。
マシュー:第2次世界大戦直後を舞台にした美しいラブストーリーでありながら、歴史上重要な出来事についても描いている。実ることのなかった愛。別れてしまった二人。そして、戦争も大きなテーマの一つだ。映画を観た人には、そんな時代に深い絆で結ばれた二人の愛に感動してほしい。歴史に学ばなければ、また同じ悲劇が繰り返されてしまう。二度と同じ過ちを繰り返さないためにも、未来を創る僕たちの責任について、この映画を通じて考えてほしいな。
缶コーヒーのCMで日本ではすっかりお茶の間の顔となったトミー。普段はしかめ面の多いイメージの彼だが、こと日本について語るときは多弁になる。一方のマシューも、初音との共演や皇居での撮影を経て、すっかり日本を気に入った様子。喜々として日本のことを語るその姿勢は、本作が描く、二つの異なる文化を理解し合うというテーマを、まさに体現しているかのようだった。
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映画『終戦のエンペラー』は7月27日より全国公開