オタク魂は世界共通! 映画『パシフィック・リム』公開記念 ギレルモ・デル・トロ監督×小島秀夫監督 特別対談!
太平洋から出現した巨大生命体「KAIJU」に、人型巨大兵器「イェーガー」をもって立ち向かう人類……。ギレルモ・デル・トロ監督が日本のアニメや特撮映画への愛と、圧倒的なオリジナリティーを詰め込んで作り上げたSF超大作『パシフィック・リム』がついに日本上陸。公開にあたり、かねてよりデル・トロ監督と親交の深い、世界的人気ゲーム「メタルギア」シリーズ(KONAMI)の小島秀夫監督がデル・トロ監督と特別対談。時代の先端を走る二人が、作品に込められたメッセージから、クリエイターとして見つめる未来を語った。
■オタク魂は世界共通なのさ!
Q:映画とゲーム、それぞれの世界で活躍するお二人ですが、どのように知り合われたのですか?
小島秀夫監督(以下、小島監督):もともと僕がカイル・クーパー(タイトルバック演出などを手掛けるデザイナー)さんと一緒に仕事をしていたとき、デル・トロ監督と『ミミック』で組んでいた彼から、「秀夫はデル・トロ監督とすごく(感性が)合うんじゃないか」と言われていて。それで「メタルギア ソリッド3」発売のときに、デル・トロ監督からコメントをもらったんです。その後『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』の頃に初めてお会いして、それからの付き合いですね。
ギレルモ・デル・トロ監督(以下、デル・トロ監督):小島さんがロサンゼルスにいたとき、僕のおもちゃやゲーム、小島さんの作品もたくさん保管してある「マン・ケイブ」という場所に連れて行き、そこで話し合いを持ちました。いざ話し始めると、初対面にもかかわらず旧友というか、昔なじみのような感じがしましたね。
よく人々がビデオゲームについて語るとき、映画的だと評価することがあります。でも小島さんの作品は、ゲームのルール上にありながら、ものすごく豊かで知性を持った、最高の映画を観ているような感覚にさせられる。非常にエモーショナルな物語が語られていると思うんです。
小島監督:オタク魂があるんですよ。
デル・トロ監督:オタク魂は世界共通だからね!
Q:では、映画とゲームの違いに関係なく、通じ合うものがあったのですね。
小島監督:そうですね。それに、観ている作品も非常に近いんですよ。(デル・トロ監督は)「コメットさん」とか観ている人ですからね。なかなかいないですよ。
デル・トロ監督:僕は1964年生まれなんです。
小島監督:僕は1963年。
デル・トロ監督:だからわたしたちは同じアニメを観て育っているんです。手塚治虫さんの作品や「鉄人28号」「狼少年ケン」「マグマ大使」……。
小島監督:トゥルルル、トゥルルル~!(マグマ大使を呼ぶ笛の音)
デル・トロ監督:そう! トゥルルル、トゥルルル~!(笑) それに「黄金バット」とか。だから、同じ言語で話しているようなものなんです。
小島監督:僕より詳しいときもありますよ(笑)。
デル・トロ監督:東洋文化と西洋文化というのは、すごく違うものだと考えることもできます。けれど面白いのは、互いがものすごく愛情を持っていて、何か純粋に好きなものがある場合には、それを超越することができる。ウィリアム・ギブソンやデヴィッド・クローネンバーグ監督作品といった話題で、その違いを乗り越えていくことができると僕は思うんですね。ゲームも怪獣も好きだしメカも好きだという、本能的な部分でつながりを持つことができる。それは頭で考えるのではない、感情的というか本能的なものです。
小島監督:それがオタク魂です!
■よくぞやってくれた!小島監督『パシフィック・リム』を語る!
Q:そこまでデル・トロ監督と通じ合った小島監督は、『パシフィック・リム』をどう鑑賞されましたか。
小島監督:『ゴジラ』の新作が映画館で上映されなくなって(シリーズ最終作『ゴジラ FINAL WARS』公開から)、9年がたっているんです。僕らが子どもの頃は、テレビをつければそこに怪獣がいて、特撮映画の巨大ヒーローがいて、映画館に行くと東宝や大映の怪獣映画をやっていた。それが途絶えているところで、よくぞやってくれました! と。われらのデル・トロ監督が怪獣映画を、しかもハリウッドのバジェットで世界に向けて発信してくれた。僕らはできなかったので。日本人が怪獣映画を発信してきた一方で世界市場では作れなかったところ、彼が僕らの代わりにやってくれた。そこは何とも言えない気持ちで、感謝していますね。
デル・トロ監督:ありがとう! この映画は日本に対するラブレターだと言っているのですが、非常に個人的な作品でもあります。(怪獣映画などの)ファンとして作りたいが、単なるファンムービーにはしたくなかった。やはり自分の内面にあるものを反映した作品にしたかったんです。例えば、僕がとても大好きな映画が2本あります。万人向けというわけではないけど、本多猪四郎監督の『フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)』と『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ 』です。とてもゴシックでダークな映画で、今回はその雰囲気を反映したかった。これをゴシック・テックと呼びたいと思っているのですが、流行のクールなメカが出てくるのではなく、どこかサビついた、中世のような雰囲気の作品にしたかったんです。だから、アメリカのスタジオで生まれた作品だけど、やっと日本という故郷に戻ってきたと思っていますね。「『パシフィック・リム』、故郷に帰る」と。日本とメキシコの間に生まれた、子どものようなものです。
■映画とゲームの関係、その未来とは?
デル・トロ監督:それとこの作品の言語の一つに、ビデオゲームの影響も無視できません。この作品の色彩や質感には、ここ15年で僕がビデオゲームから学んだものを前面に押し出しています。僕は怪獣やメカを見て育っているけど、これからの10年、20年におけるストーリーテリングにおいて、ビデオゲームと映画が非常に速いペースで組み合わさっていくことになると思う。だから本作には、過去を振り返るのではなく、未来を見据えていきたいという思いも反映しているんです。
Q:未来といえば、小島監督も本作を「娯楽映画の未来を見せてくれた」と評されていますね。
小島監督:それは二つの意味があって、映画というのはバジェットが掛かるので、いわゆるマーケティング(市場調査)から製作がスタートします。けど今回は、クリエイターが本当に好きなものを作ってくれた。それが世界中に広がっていくということで、もう一度映画とは、エンターテインメントとは何なのか、そして世界に対して何を伝えるのかを、同じような仕事をしている僕も教えてもらったというのが一つ。もう一つは、僕も彼も住む場所は違うんですけど、世界中のいろいろなものを吸収して、それは映画でありマンガであり特撮であり、ゲームであり……。昔はゲームは違うと言われましたけど、そうではなく何でも自身が吸収したものを、自分の内面を通して吐き出したら、これまでと違う全く新しいものが出てきた、本作がその最初の事例となる作品だということです。それが太平洋を越えて(日本に)来たという意味での称賛ですね。
Q:小島監督の「メタルギア」が世界で愛されたようにですね。
小島監督:同じですね。
デル・トロ監督:小島さんの言う通りで、オリジナルの怪獣映画もまさにいろいろなものを組み合わせた、西洋と東洋の産物だったと思います。かつて東宝の田中(友幸)さんが、予算もスケジュールもあるが映画がないというとき、レイ・ハリーハウゼンの『原子怪獣現わる』がアメリカですごく成功していた。ああいった、怪獣が都市を破壊するような作品が作れないかということで、円谷英二さんや本多猪四郎監督に連絡を取って、プロジェクト「G」が始動しました。
最初は巨大なタコが日本を襲う話だったのが、恐竜やキングコングのようなものにしたらどうかと話が進み、ゴジラが生まれた。そのゴジラが全ての怪獣の父となり、日本を象徴するというものになった。これは本当にすごいことです。
■ギレルモ・デル・トロ×小島秀夫!コラボレーションも!?
Q:「メタルギア ソリッド」のハリウッド映画化も決定し、また小島プロダクションのLAスタジオも設立されるそうですが、お二人のハリウッドにおけるコラボレーションの可能性は?
小島監督:それはもう、やるでしょう!
デル・トロ監督:(小島監督と拳を合わせ)ぜひ!
小島監督:僕はゲームで彼は映画を作っているので、どういう形になるのかはわかりません。分子レベルで分解して一緒に作るのか。でも何かしら一緒にやりたいと思っています。
デル・トロ監督:まず対話というものが一番大事なんです。僕が尊敬して憧れるアーティストたちとのね。最初は小島さんの作品と対話をして、それが僕の作品にも影響を与えた。そして現在、このように直接対話ができている。それだけでも素晴らしいことで、それがすでに共同作業といえるものなんです。でも、何かしらやりたいですね。
小島監督:僕らの間に太平洋はありませんよ(笑)。
デル・トロ監督:オタク魂だ!
映画『パシフィック・リム』は全国公開中
■写真:奥山智明
■取材・構成:シネマトゥデイ編集部 入倉功一