『ダイアナ』ナオミ・ワッツ 単独インタビュー
王室を離れ自立を求めたプリンセス
取材・文:細木信宏 / Nobuhiro Hosoki
交通事故により36歳という若さで他界した元英国皇太子妃ダイアナの最後の2年間を、『ヒトラー ~最期の12日間~』のオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督が映画化。チャールズ皇太子との別居後、王室との確執が表面化する中、ダイアナ元妃が心臓外科医ハスナット・カーンと出会い恋に落ちるさまが描かれる。ダイアナ元妃を表情からしぐさまで演じ切ったナオミ・ワッツが、本作への熱い思いを語った。
口元に粘着テープを付けて役づくり
Q:伝記映画でダイアナ元妃を演じてみていかがでしたか?
本作で描いたのは彼女の最後の2年間だから、それほど伝記映画という感じはしなかったわ。わたしたちは、あくまで多くの人が知らなかった彼女の恋に焦点を絞って製作したの。彼女の人生の転機になったのは、BBCのテレビ番組「パノラマ」で放送されたマーティン・バシールによるインタビュー(注:ダイアナ元妃がチャールズ皇太子の不倫、自身の自傷行為などを明かしたもの)ね。あのインタビューで彼女は、相当な批判と共に多くの賛辞を受けたわ。彼女があのインタビューに応じたのは、そうしなければならなかったから。彼女は人生を変えるために(過去の人生に)言及しなければならなかったの。それは、ある意味で「わたしはできる限り自由な人生を生きたい。わたしにはその権利がある」という主張だったといえると思う。
Q:そのインタビューシーンを演じるためにどのような準備をされたのですか?
あのインタビューは1万回くらい観た気がする。iPad、iPhoneに音源だけを入れて、ジョギングや入浴のときにも聞いていたわ。なぜなら、彼女の声は映像なしで聞くと、映像があるときとは全く違って聞こえることがわかったから。また、映像からは、彼女の顔の動きが、わたしが話すときとは違うことに気付かされた。わたしは話していると自分から見て右に顔が動くけれど、彼女は左なの。だから、何週間もこのインタビューを聞きながら、粘着テープを口元に付けて、顔が右に動かないようにしながら練習したわ。
知られざるダイアナ元妃の素顔の数々
Q:ダイアナ元妃については昔からよく知っていたのですか?
生まれてから14歳までイギリスで育ったから、彼女の結婚式はテレビで見たわ。でも当時は新聞を読んでいなかったから、彼女をよくは知らなかった。その後オーストラリアに移住したけれど、彼女はそこでも有名だったわ。ただイギリスのタブロイド紙のように、ダイアナ元妃のスカートの長さまで書き立てるようなことはなかったけど(笑)。そして女優としてアメリカに移った後の、例のインタビュー放送や彼女の死に関してはよく覚えている。それほど大きな事件だった。特に彼女の死はとてもショックだったし、あの死に関しては怒りを覚えたわ。
Q:役づくりのためのリサーチの過程で驚かされたことはありましたか?
ダイアナ元妃のユーモアのセンスには驚かされたわ。彼女は人の関心をそらすために、わざと不適切なジョークを言うこともあるほどちゃめっ気があり、機知に富んでいた。それと、彼女には反骨精神があったの。反骨精神を持った人に惹(ひ)かれていくことは確かね。
Q:ダイアナ元妃とウーナ・トッフォロ(ジェラルディン・ジェームズ)の関係について教えてください。
ウーナとはとても親しい間柄だった。ウーナの夫が心臓発作で倒れたときの担当医師がハスナット・カーン(ナヴィーン・アンドリュース)で、ウーナがハスナットをダイアナ元妃に紹介したの。ダイアナ元妃には、ウーナのように親しい関係にあった人が結構いたらしいわ。子どもの頃に両親が離婚するなど人生を通して悲しい経験をしてきたダイアナ元妃だけど、多くの友人がいた彼女がわたしは好き。悲しい経験は彼女を傷つきやすくさせ、幸せを得るためにいつも葛藤することになるけれど、それでもどうにか良い方向に進もうとする彼女は素晴らしいわ。
ダイアナ元妃が心臓外科医に恋した理由
Q:ダイアナ元妃はなぜ心臓外科医ハスナット・カーンに惹(ひ)かれたのだと思いますか?
彼女は彼の意見や精神に惹(ひ)かれたの。彼はとても賢い男性で、伝統を重んじていた。ダイアナ元妃とハスナットには、人を癒やすことに関心があるという共通点があった。もちろんそれを達成するための方法は違ったけど。彼はメディアやプレスには全く興味がなかった。二人の関係は厳重に隠されてきたわ。それはダイアナ妃のためだけでなく、彼のためでもあったの。
Q:劇中では、ダイアナ元妃がハスナットに会う際、ウィッグを着けて変装していました。これは事実なのですか?
そうみたい。わたしたちは、ダイアナ元妃が通っていたヒーリングの施設の人たちからそのことを教わったわ。
Q:人命を救うハスナットに触発され、ダイアナ元妃も対人地雷廃止運動などに関わりますが、この行為を「パパラッチを利用した慈善活動」として批判する人もいました。これについてどうお考えですか?
彼女のアフリカでの活動は実際に映像で記録されていたから、本作もその映像を基に製作していったの。ただ問題なのは、彼女はこのような慈善活動をしていても、決して心地良さを感じていなかったということ。それは、彼女にはいつも批判が付きまとっていたから。要するに何をしても彼女に勝ち目はなかったのよ……。
出演の決め手は監督の熱意
Q:出演を決めたのは、オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督の説得によるところが大きいのですか?
オリヴァーはラブストーリーを中心に描くつもりで、それが指針であることが(彼とのミーティングで)わかったの。だから伝記映画に出演するという恐怖からは距離を置くことができた。事実、地球上で最も有名な女性を演じることが「素晴らしい挑戦になるわ!」と考えることが、どれほどばかげているか自分自身でもわかっていたから。それと、ダイアナ元妃の真実の姿を世間に知らせた方がいいとも思ったの。
Q:ヒルシュビーゲル監督とのタッグについてお聞かせください。
過去の作品でもそうだけど、わたしは監督によって出演作を決めているの。それは、優れた監督はある題材を良質な作品として高めることができるけれど、平凡な監督は良い題材でも台無しにしてしまうことがあるから。オリヴァーが監督した映画『ヒトラー ~最期の12日間~』は傑作だった。撮影中の彼の演出の仕方は素晴らしく、とても信頼できたわ。
Q:監督は具体的にどんな演出をされたのですか?
わたしがダイアナ元妃に変貌していくように、彼もまたダイアナ元妃のとりこになっていった。わたしと監督はダイアナ元妃のキャラクターを現場でつくり上げていったわ。いつでも意見が一致するとは限らなかったけど、でもそんな相違点があったからこそ良いコラボレーションになったと思うわ。
偶然にも本件取材日に、ダイアナ元妃の息子であるウィリアム王子に第1子男児が誕生した。ダイアナ元妃が残した普遍の愛は、今後も受け継がれていくのだろう。ダイアナ元妃が王室を離れて一人の女性として自立していく姿を映し出した本作は、ナオミの熱演によって、生き生きとした魅力にあふれた秀作に仕上がっている。
(C) 2013 Caught in Flight Films Limited. All Rights Reserved.
映画『ダイアナ』は10月18日よりTOHOシネマズ有楽座ほかにて全国公開