『101回目のプロポーズ ~SAY YES~』リン・チーリン&武田鉄矢 単独インタビュー
勇気を出して愛を伝えたら、一生の幸せになる
取材・文:斉藤由紀子 撮影:尾藤能暢
日本はもとよりアジア全土で大ヒットした伝説のドラマ「101回目のプロポーズ」が、上海を舞台に22年ぶりによみがえった。純朴な中国人青年ホアン・ダー(ホアン・ボー)のひたむきさに惹(ひ)かれていく美しきヒロインのイエ・シュンを演じたのは、台湾の人気女優リン・チーリン。武田鉄矢が演じたオリジナル版の主人公・星野達郎も、イエ・シュンたちに恋のアドバイスをする人物として登場する。上海での撮影以来、久しぶりに再会したというチーリンと武田が、作品に対する思いを熱く語った。
中国のトレンドも反映させたリメイク
Q:中国ではすでに観客動員数660万人を記録する大ヒットとなった本作。いよいよ日本公開となる今のお気持ちを教えてください。
リン・チーリン(以下、チーリン):オリジナルのエッセンスを壊さないようにくみ取りながら、今の中国のトレンドなども反映させて創り上げました。例えば、クライマックスで登場する歌のオーディション番組は、実際に中国ではやっているテレビ番組なんです。そんなところも観てもらいたいです。
武田鉄矢(以下、武田):大昔のドラマが中国でリメイクされると聞いて、僕も本当にうれしかったです。星野達郎の物語としては終わっているんだけど、それをさらにリメイクしてもらったことで、終わらないストーリーになりました。リンさんも含め中国のスタッフが大事に撮影してくれたので、本当に感謝しています。
Q:チーリンさんは、オリジナル版を台湾でご覧になっていたそうですが、武田さんとの共演はいかがでしたか?
チーリン:(日本語)本当にうれしかった。最初に聞いたとき、「本当に来るの!?」ってビックリしました。撮影が1日しかなかったのが残念。もっとご一緒したかったです。
Q:日本語が上達されましたね!
チーリン:(日本語)勉強したんですけど、今、すごく緊張しています(笑)。
武田:もともとお上手なんでしょうけど、今回来日されてからずっと日本語に巻き込まれているので、グングン上達しているんですよ。
チーリン:(日本語)いえいえ。記者会見のときも日本語でがんばってみたんですけど……(苦笑)。
武田:リンさんの日本語がすごく上手なので、日本の記者たちは完璧にしゃべれると思っていて、みんな難しい言い回しでガンガン質問してくるんですよ。しかも、リンさんが一生懸命返す言葉が、ちゃんと質問の答えになっているんだよね(笑)。すごく勘がいいんです。
チーリン:(日本語)なんか、参ります(笑)。
武田:参っちゃったかー(笑)。でも、彼女のような国際派スターは、どこの国でも通用してしまう資質を持っているんでしょうね。
武田のアイデアに感涙!
Q:武田さん演じる達郎がイエ・シュンとホアン・ダーに会うシーンでは、言葉の通じないホアン・ダーと達郎のやりとりが秀逸でした。武田さんがアイデアを出された部分も多かったとか?
武田:レスト・チェン監督がセリフを付け足して構わないと言ってくださったので、事前に何をどう言うか打ち合わせをしてから撮影に臨んだんです。上海に日が昇って夜が更けるまで、一日中あの短いシーンを撮っていました。
Q:「カッコいい男も20年たつと僕と同じ、ただのおっさんだ」の名言は、武田さんの言葉ですか?
武田:ああ、そうですね。だいたいわたしです。
チーリン:(日本語)すごくステキ! いい言葉でした。武田さんのスカーフのアイデアも本当に良かったと思います。
武田:イエ・シュンとホアン・ダーに愛についてコンパクトに説明するために、スカーフを使うことを思い付いたんですよ。大きなスカーフを二人で畳んでほしいと頼むと、両端を持った彼らは一度離れてピンと張るんだけど、畳むために寄り添うことになる。つまり、これから二人は、離れたり寄り添ったりしながら、愛というスカーフを畳んでいくんだよ、と。あのスカーフは、僕が成田空港で買っていった私物なんですけどね(笑)。
チーリン:(日本語)本当に感動してしまいました。あの映画の中で大好きなシーンです。武田さんのおかげです。
武田:リンさんは理解力がスゴイから、現場で涙ぐんでくれるんですよ。ホアンくんも日本語はわからないんだけど何かを感じていくという、非常に難しい芝居をうまくしてくれました。カメラさんや照明さんも急に動き出したりして、現場もすごく盛り上がったシーンでしたね。
オリジナルへのリスペクトを実感
Q:主人公ホアン・ダー役のホアン・ボーさんも素晴らしく魅力的な方でしたね。
武田:星野達郎の役をリメイクするなら、うんとアブノーマルに演じたほうが美女と対面したときにコミカルになるので、役者としては狙いたくなるはずなんです。でも、ホアンくんは奇抜さを狙うのではなく、非常にリアリティーのある演技をしていましたね。中国の気のいい働き者の青年ということが全身から伝わってくる。
チーリン:彼自身とてもユーモアがあって、性格もすごく優しい誠実な方なんです。撮影の間ずっとご一緒して、人と人との触れ合いの大切さを教えてもらったような気がします。ホアンさんを人間としてとても好きになりました。
武田:ホアンくんは通訳さん抜きでコミュケーションを取ろうとしてくれるんですよ。中国ですごく人気のある俳優さんだから、上海でも休憩中に外に出るとファンがサインを求めてくるんだけど、彼は僕と一緒だったからそれどころじゃないって感じになっちゃって。誰にでも愛想のいい人なのに、そのときだけはそそくさとサインをして、僕をジーッと見るんだよね(笑)。そんなところからも、日本で生まれたドラマをちゃんとアジアの皆さんがリスペクトして、自分たちの中に取り入れてくれているんだなと実感しました。
女性からも愛を伝えるべき! チーリンが熱弁!!
Q:本作で描かれた結婚観を、中国の皆さんはどう受け止めたのでしょう?
武田:独身の皆さんは「自分もいい恋をしよう!」って元気になり、カップルは愛が深まって腕を組んで帰って行ったそうです。中国には「身の程を知った結婚をしなさい」という厳しい格言があるんだけど、その格言をこの映画が良い意味で壊したのだと思います。一番大好きで愛している人に「愛している!」と叫ぶのは絶対に悪いことじゃないし、可能性はゼロじゃない。そのメッセージは、中国の皆さんにとっても励ましになったようですね。
チーリン:映画を観た後、映画館の中でプロポーズをした人もいたみたいですよ。今の若い人たちは、結婚相手に条件を求めがちだと思うんですけど、この映画では「条件なんか関係ない」ということを伝えています。片思い中の人がこの映画を観れば、勇気を出して愛を伝える機会になるはずだし、恋人や結婚相手がいる方は、相手に対する大切な気持ちを振り返ることができると思います。
武田:女性のイエのほうからプロポーズするシーンがあるんだけど、今の中国では考えられないんじゃないかな。
チーリン:(日本語)女性も本当に好きな相手がいたら、自分から勇気を出して愛を伝えるべきです。それが一生の幸せになるのだから。
Q:チーリンさんご自身も、本当に好きな人なら自分からプロポーズすると思いますか?
チーリン:(日本語)わたしは……はい、すると思います!
武田:いいねえ。今の決心したような表情がすっごく良かった(笑)。
自らの気持ちを何とか日本語で伝えようとするチーリンと、彼女を優しくフォローする武田。最後には、スタッフを交えて記念写真を撮り合い、「また会いましょう!」と何度も繰り返しながら別れを惜しんでいた。その和やかな光景を見ながら再確認したのは、「101回目のプロポーズ」という作品の持つ強烈なパワーだ。言葉や文化、凝り固まった概念など、あらゆる壁を軽々と壊し、関わる人々を最高の笑顔にする日本の名作が、もっと多くの国でリメイクされることを願わずにはいられない。
【武田鉄矢】 ヘアメイク:市瀬ひとみ スタイリスト:川岸みさこ(クレエ カワギシ)
(C) 2013 NCM FUJI VRPA HAM
映画『101回目のプロポーズ ~SAY YES~』は10月19日より全国公開