『魔女の宅急便』小芝風花、広田亮平、清水崇監督 単独インタビュー
“自分の魔法”を見つけてほしい
取材・文:小島弥央 撮影:吉岡希鼓斗
スタジオジブリによってアニメ化されたことでも知られる、角野栄子の名作児童文学を初めて実写映画化した『魔女の宅急便』。主人公のキキを演じた小芝風花と、とんぼを演じた広田亮平、ファンタジー映画に初挑戦した清水崇監督が、本作にかける熱い思いと、有名作品と比べられるプレッシャーの中で奮闘した日々、そして実写版ならではの見どころを明かした。
オリジナルの世界観を確立!
Q:この作品にはどうしてもスタジオジブリの『魔女の宅急便』(1989)のイメージが付きまとうと思うのですが、実際のところいかがでしたか?
清水崇監督(以下、清水監督):やっぱり僕自身もアニメのイメージがあったので、スタッフに指示を出しながらもふと口をついて出るのはジブリ版の劇伴音楽だったりしました。でも、それを払拭(ふっしょく)して、ゼロから自分のオリジナルの世界に持っていけることこそが、困難かつ楽しみではあったので、「やりたい」と即答していました。原作でもアニメ版でもキキは頭にリボンを着けていますけど、実写でそれをやったらちょっと“痛い”ですよね、13歳とはいえ。それに、アニメ版では平気で誰もが受け入れていますが、スウェーデンの町並みで、日本人が日本語のみでやり取りするのは実写では無理が生じます。日本映画で、アニメ版とは全く違ったリアリティーある架空の町や人物を自分なりにどう抱けるのか? というのが、この世界観を作る上でのハードルであり、監督としての醍醐味(だいごみ)でもありました。
Q:キキの実家のセットは、スタッフの方が驚くほど作り込まれたものだったそうですね。
清水監督:映画では見えていない部分や大幅にカットした部分ばかりですけど、実写での架空の町だからこそ、人物や文化の背景、登場人物の過去や生態、文化や風俗などが大切なんです。その辺、楽しんで作りました。キキの実家はお母さんが魔法で飛べるなら、もともと階段なんて必要ない建物です。ですが、“飛べない”人間のオキノさんと結婚したので、壁の出っ張りを利用して後から階段をあてがえたのだろうとか……飛べるなら大きめの天窓があってしかるべきだろう……でも、幼いキキのために封鎖している親心もあろう……とか。
小芝風花(以下、小芝):一つ一つが本当に細かくて、どれを触っても『魔女の宅急便』の世界なんです。「ここは映しちゃダメ」というようなものもないし……。家も全部、一から作ってくださって、本当に美術さんってすごいなと思いました。
広田亮平(以下、広田):(キキが居候する)グーチョキパン屋さんも、たくさんパンがあっておいしそうでした(笑)。
実写版キキが誕生するまで
Q:出演が決まったときの心境や周囲の反応はどうでしたか?
小芝:絶対に合格しないと思っていたので、「合格したよ」と教えてもらったときは本当にうれしくて号泣してしまいました。でも、『魔女の宅急便』には原作もアニメもあってそれぞれのファンがたくさんいて、一人一人が『魔女の宅急便』のイメージや思い入れを持っているんですよね。改めてそのことを考えると「新しい作品を作るのがわたしでいいのかな?」とすごく不安になりました。監督と話していても「わたしじゃダメなんじゃないかな」という気持ちでいっぱいになって……。でも、母が「監督やスタッフさんに選んでいただいた限りは、悔いの残らないように精いっぱいやりなさい」と言ってくれて、「監督が選んでくれたんだから、大丈夫」と思うようになりました。
広田:ジブリ版がすごく有名なので、自分がとんぼをやると決まっても「アニメのとんぼをやる」としか認識されていないんです。だから、僕の衣装はこんな感じなんですけど、「ボーダーじゃないの?」とかみんなに言われるんですよ(笑)。でも、そういう周りのイメージがあるからこそ、この映画ではみんながイメージしていない、自分なりのとんぼを演じられたかなと思っています。
Q:小芝さんは映画初主演ですね。現場ではどのように演出されたのですか?
清水監督:キキにしても、とんぼにしても、監督としてぼんやりした理想はあるんですけど、そんなオッサン監督のイメージに固めてしまったら、10代ならではのみずみずしい表情や姿は描けない。二人には「映るのは君で、僕ではない」というシビアな言い方をして、監督の自分が感じているのと近い責任感や自信を抱いて臨んでほしい……と「自分でいいから好きにやってみて」と自主性を引き出したくて必死でした。映画の撮影にしては割と順番通りに撮れたので、狙い通り、小芝とキキ、広田君ととんぼの成長がかぶって、映画の中でも彼らは成長して見えると思います。
小芝:最初はどうしていいかわからなくて、逐一「ここはこう動いていいですか?」と聞いていたんですけど、監督が「それでは誰がやっても同じキキになってしまう。そのままでいてくれ」と言ってくださったので、戸惑いながらもだんだん自分の意見を言えるようになりました。それに監督は、わたしがどうしたらもっと良くなるかを撮影以外のところでもチェックしてくれたり、現場で冗談を言って和ませてくれたり……。でも、いじわるなんですよ。「宝くじが当たったら、次はキャストを全員変えて作り直す」とか、そんなことばかり言うんです(笑)。
実写版ならではの魅力とは?
Q:清水監督はホラーのイメージが強いので、今回のファンタジー映画を意外に思う方も多いですよね。
清水監督:自分としては、監督デビューのきっかけがホラーだっただけで……むしろ、「霊能者との番組」とか組まれるたびに「なぜ? 怖がりだった俺が……?」と頭を抱えていたくらいなんです。自分じゃ、ホラーもファンタジーの一要素と捉えていましたし、いつか……自分の挿絵と文で絵本を描いてみたいと思っているくらいなので。だから、この企画の話をされたときは「やりたいです」と即答しました。
Q:最後に、実写版ならではの見どころを教えてください。
広田:リハーサルのころから自分なりのとんぼ像を作り上げてきました。キキの前では、周りの弟たちや妹たちに対してしっかりと威厳のある兄でいるところも見てもらいたいです。
小芝:撮影に入ったときに、原作者の角野栄子さんとお会いする機会があって、そのとき「魔法って誰にでもあるのよ」と言われたんです。最初はどういう意味かよくわからなかったんですが、本作に深く関わるにつれて「好きなことや、得意なことも魔法なのかな?」と思うようになりました。この映画を観た人にも“自分の魔法”を見つけてもらえればなと思います。
清水監督:実写版だからこそ伝わる、生々しさや重み、痛みがあります。そこを感じてもらえるか否か? が僕のこの映画の根本になるでしょう。合成やCGやVFXはさておき……「僕が愛してやまない」キキ(≒小芝)の、全てが新鮮で、怖いもの知らずの姿や表情を、いかに一緒に愛していただけるか? です! そんなキキをスタッフも撮影中は愛してくれたので……。
小芝:え、今は愛されていないみたいじゃないですか~(笑)。
清水監督:俺だけは愛しているけどね(笑)。
小芝:本当ですか? もう、照れる(笑)。
清水監督:とにかく……まずは観てくれたお客さんにキキやとんぼを愛してもらえたら……です! そこに関しては自信を持って実写版の魅力です。これまでのどれとも全く違う『魔女の宅急便』です!
劇中衣装でインタビューに応じた小芝と広田。どこかのほほんとした雰囲気を漂わせる二人が、沈みゆく夕日の前にたたずみ、笑顔を見せ合う姿はまるで映画の続きを観ているかのようだった。そして、そんな二人に的確なツッコミを入れる清水監督の言葉には愛があふれ、親心のようなものさえ感じられた。彼らにとって本作は、有名作品と比較されることを承知の上で、それでも戦い抜き、成長した証しといえるだろう。
映画『魔女の宅急便』は3月1日より全国公開