英国スターに続いてハリウッドを席巻中!魅惑の北欧イケメン&名優図鑑
型破りシネマ塾
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英国スターに続いてハリウッドを席巻中!魅惑の北欧イケメン&名優図鑑
今年2月に開催されたスーパーボウルの全米中継で、サー・ベン・キングズレー、マーク・ストロング、トム・ヒドルストンが出演する英国の自動車メーカー「ジャガー」のCMが放送された。そのCMの冒頭で、キングズレーは視聴者に問い掛ける。「ハリウッド映画の悪役全てを英国人が演じていたことに気付いていたか?」。いや、割と誰でも承知だと思います、とドヤ顔のサー・ベンに心の中でツッコミを入れつつ、逆にこう問い返したくなる。「ハリウッド映画やテレビシリーズでヒーローから悪役まで、最近は北欧出身の俳優が幅を利かせているのに気付いていました?」。というわけで、まずは押さえておきたい北欧俳優の魅力をライターの独断と主観によりご紹介します!
文 / 冨永由紀
「デンマークで最もセクシーな男」マッツ・ミケルセンをはじめ、人気沸騰中のイケメンたち
王道スター系の代表格は、現在日本でも放送中のテレビシリーズ「ハンニバル」(※スター・チャンネル)でハンニバル・レクターを演じており、「北欧の至宝」とも「デンマークで最もセクシーな男」とも呼ばれるマッツ・ミケルセンだ。赤い血や肉という猟奇的なモチーフとクールなスーツ姿で戯れるミスマッチは退廃的な美しさ。2006年、『007/カジノ・ロワイヤル』で血の涙を流す冷酷非道な悪役ル・シッフル役で世界的に脚光を浴びた。
今年49歳ということはトム・クルーズやブラッド・ピット、ジョニー・デップよりも年下なのだが、50代の彼らがどこか青年らしさを残しているのに対し、マッツは『キング・アーサー』(2004)でハリウッド進出を果たした時にはすでに「大人の男」の風格があった。頬骨が高く整った顔立ちに不穏なムードが漂う。ハリウッドはそこに反応して不気味な役を振りたがるが、北欧人にとってはそれこそセクシーポイント。体温が高そうで、胸板厚く野性味のある体から放つフェロモンは幼稚園児(『偽りなき者』(2012))から宮廷王妃(『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(2012))まで夢中にさせる。ちなみに1歳年上の兄・ラールス・ミケルセンも俳優で、1月にイギリスで放送された「SHERLOCK(シャーロック)」第3シーズン(2014)に出演している。
『ロボコップ』(2014)で主役に抜てきされたスウェーデン出身のジョエル・キナマンは34歳。父親がアメリカ人でネイティブと変わりない英語力が武器だ。デトロイトの家族思いの刑事を演じても無理は感じさせず、ロボットと合体した異色のヒーローを好演した。テレビシリーズ「キリング/26日間」でも刑事役だが、甘さ控えめのシャープな美貌はアクションやサスペンス向き。トム・ハーディらと共演の次回作『チャイルド44(原題)/ Child 44』も楽しみだ。
テレビシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」(2011~)でジェイミー・ラニスターを演じるニコライ・コスター=ワルドー(デンマーク出身)も男らしい無骨さが魅力的。あれこれと手を掛けた感のない天然の美しさで20代のころから主演作もあり、『ブラックホーク・ダウン』(2001)『ウィンブルドン』(2004)などにも出演しているが、国立演劇学校仕込みの演技力で役に成り切ることでかえって観客の印象に残らなかった。そんな皮肉な状況も「ゲーム~」で本格的なブレイクのきっかけをつかんで打破、マッツと同様にハリウッドと北欧圏でキャリアを並行させている。
『ファーゴ』のピーター・ストーメアらクセのあるカメレオン俳優たちも勢ぞろい
北欧の俳優は大抵マルチリンガル。母国語と似ている近隣国の言葉と英語、さらにドイツ語、フランス語など語学が堪能な人も少なくなく、さまざまな国の作品でどこの国の人間にでも化けてしまう。そのカメレオン性は脇に回る役者たちに顕著。年を重ねるごとに不気味な悪役から気のいい男まで、変幻自在になっていく。
イェスパー・クリステンセン(デンマーク出身)は鋭い目つきで、笑顔が不気味な北欧版クリストファー・ウォーケンといった趣。『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)のミスター・ホワイトや、『ペイド・バック』(2010※日本未公開)の産婦人科医役が印象深い。後者では、感じのいい町医者が実はナチスによる人体実験に関わった外科医だったという役どころで、狂気と正気を使い分ける人間の恐ろしさを体現。『メランコリア』(2011)の寡黙な執事役もすてきだった。
後述のステラン・スカルスガルドと共に1990年代からハリウッドに進出していたのはスウェーデン出身のピーター・ストーメア。母国では高名なシェイクスピア俳優だ。英語圏の作品ではクセのある役どころで重宝がられ三枚目役も多いが、純白スーツに眉なし姿で悪魔を演じた『コンスタンティン』(2005)が絶品。スウェーデンは『未来を生きる君たちへ』(2010)や『ホビット 竜に奪われた王国』(2013)に出演のミカエル・パーシュブラント、『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(2009)や『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011)のミカエル・ニクヴィストら、演技で勝負の実力派の逸材に恵まれている。
人気急上昇のアレキサンダーを筆頭に世界を股に掛けて活躍中のスカルスガルド一家
血縁に同業者が多いのも北欧俳優の特徴の一つかもしれない。代表格は父と息子たちがそろって世界を股に掛けた活躍を見せるスウェーデンのスカルスガルド一家だ。
父親のステラン・スカルスガルドは『マイティ・ソー』シリーズの天文物理学者が記憶に新しい。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997)の数学者や『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)の医師など知的な役柄が似合うが、ひょうひょうとしていながら腹に一物ありそうな様子を常に漂わせ、決して型にはまらない自由さがある。作品に緊張感をもたらすキーパーソンとして欠かせない存在だ。現在62歳で、最初の結婚でもうけた5男のうち4人は俳優になっている。
ハリウッドで父と並ぶ活躍を見せているのは37歳の長男、アレキサンダー・スカルスガルド。テレビシリーズ「トゥルーブラッド」(2008~)でブレイクしたのは32歳と、ちょっと遅咲きなのは、子役としてデビューしたものの13歳から7年間仕事を離れていたから。ニューヨークで演技を学んでから俳優業に復帰した。長身、金髪碧眼の二枚目で『メランコリア』(2011)や『メイジーの瞳』(2012)など、頼りない男がハマり役と思っていたが、『ザ・イースト』(2013)では環境保護テロリストのリーダーにふんし、人を強く惹(ひ)きつけるカリスマ性を披露した。カルバンクラインの広告モデルも務めるイケメンだが、素顔はユーモラスな発言をよくする三枚目な性格だ。今年1月には、チャリティレース参加中の南極から、ブーツにサングラスのみ着用でトイレの便器に座る姿を友人のインスタグラムを通して全世界に発信。風貌はあまり似ていないが、俳優としてのあり方に父親譲りの性根を感じる。
次男で33歳のグスタフ・スカルスガルドの名付け親は、ステランが『ファニーとアレクサンデル』(1982)で共演したピーター・ストーメア。兄と同じく子役でデビューした彼はその後も活動の拠点を北欧に置き、アカデミー賞外国語映画賞候補になった『コン・ティキ』(2012)などに出演している。三男だけは俳優の道を選ばなかったが、四男で24歳のビル・スカルスガルドは『アンナ・カレーニナ』(2012)や動画配信「Netflix」製作のホラードラマ「ヘムロック・グローブ(原題) / Hemlock Grove」に出演。五男で18歳のヴァルター・スカルスガルドも父や兄の出演作で子役からキャリアをスタートさせ、スウェーデンやドイツなどでテレビを中心に活動している。
富永由紀プロフィール
映画ライター。最初に好きになった北欧俳優は『ベニスに死す』のビョルン・アンドレセン。最近のお気に入りはパペット・アニメ『ムーミンズ・アンド・ザ・コメット・チェイス(原題)/ Moomins and the Comet Chase』でムーミンの声担当のスカルスガルド家の長男アレキサンダー。同作には今回ご紹介した北欧オールスターズが大挙出演してます。