第3回:映画の街ウェリントンは『ホビット』ゆかりのものがいっぱい!
ニュージーランド訪問記
現在公開中のシリーズ第2部『ホビット 竜に奪われた王国』は、美しき架空の世界“中つ国(Middle-earth)”を舞台にしたファンタジーです。ロケ地となったニュージーランドはまさに本当の“中つ国”というべき国ですが、その中心に位置し、映画製作の拠点になったのが首都ウェリントンです。2012年には第1部『ホビット 思いがけない冒険』のプレミア開催を記念して、期間限定で「ザ・ミドル・オブ・ミドルアース(The Middle of Middle-earth)」と改名したことでも話題を呼びました。連載第3回では、そんな映画の街ウェリントンの魅力、またウェリントンがいかにして映画の中心地に成り得たのか、関係者への取材から迫りました。(取材・文・構成:編集部・市川遥)
『ホビット』感満載のウェリントン空港!
ウェリントン空港に近づく飛行機の窓からは有名な「ハリウッドサイン」を模した「ウェリントン」の看板が見えます。風の街としても知られるウェリントンだけあって、「トン(TON)」の部分が吹き飛ばされそうになっているなどオリジナルとの違いも! 滑走路側から見る空港の建物には「ザ・ミドル・オブ・ミドルアース」の文字も確認できました。
そして、空港で出迎えてくれるのは巨大なゴラム! 魚を捕まえようとしています。
『ロード・オブ・ザ・リング』および『ホビット』シリーズのWetaワークショップ制作とあって、近くで見るとちょっと怖いくらいのリアルさです。ちなみにこのオブジェを手掛けたのは、大橋将行さんという日本人の造形アーティストです。
『ホビット 竜に奪われた王国』の公開に併せて、ワシに乗ったガンダルフのオブジェも仲間入りしました。
ガンダルフがりりしいのはもちろんのこと、ワシの羽根1枚までよくできています。
空港だけでなく、『ホビット』感は飛行機の中から満載です。ニュージーランド航空(日本-オークランド)の機内安全ビデオは現在、Wetaワークショップが全面協力した『ホビット』仕様となっており、客室乗務員が登場人物に成り切って非常用設備の説明をするほか、ピーター・ジャクソン監督、ドワーフのフィーリ役のディーン・オゴーマン、ゴラム、原作者J・R・R・トールキンのひ孫にあたるマイク&ロイド・トールキンがカメオ出演を果たしています。
また、ニュージーランド航空では、『ホビット 竜に奪われた王国』の公開に先駆けて、邪竜スマウグが描かれた機体を公開しました。これは、第1部では目しか登場しなかったスマウグのお披露目の場となりました。
ドワーフ族きってのイケメン兄弟キーリ&フィーリ役のエイダン・ターナーとディーン・オゴーマン、ジャクソン監督も満足げです。
映画産業の中心地としてのウェリントン
ウェリントン・ミラマーのWetaワークショップに隣接した、ミニミュージアム「Wetaケーブ」。『ロード・オブ・ザ・リング』 『ホビット』ファンには見逃せないスポットです。
門をくぐると『ホビット 思いがけない冒険』でビルボたちの前に立ちはだかったトロール3人衆がお出迎え。
Wetaケーブという名前の通り、室内は洞窟(ケーブ)のように装飾されています。Wetaワークショップが手掛けた作品の貴重な展示品から購入可能なグッズまでずらり。製作の裏側を映したショートフィルムも上映しています。
ゴラム像の後ろには、ホビット村バギンズ家の家系図、袋小路屋敷の見取り図、トーリンの地図など。眺めるだけで楽しい!
サウロンの口、死者の王、ホビット族のメリーなど『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのキャラクターのかぶともそろっています。
また、Wetaケーブを出てすぐの建物では 「ウィンドウ・イントゥー・ワークショップ(Window into Workshop)」という約45分のツアーも開催されています。Wetaワークショップで働くスタッフが映画に出てくる武器完成までの過程などを詳しく説明してくれるというもので、内容はとても充実! ところどころ実際のワークショップが見えるように窓が開けてあり、タイミングが合えば、制作中の姿を見ることができるかもしれません。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでナスグルが振り回していた武器(アクション用の軽量版でも重い)や『ホビット』シリーズのドワーフ役の俳優陣が四肢を大きく見せるために着けた偽の皮膚(ぶよぶよ)を触らせてもらえるなど、参加型のツアーになっています。
スタッフの女性からは当初『ホビット』のメガホンを取る予定だったギレルモ・デル・トロ監督にまつわるこんな裏話も。
「2年間ギレルモのもとで働いたの。コンセプトアート、彫刻もたくさん作って、キャスティングに入ったところだった。今とは全く違うメンバーよ。そして全てお蔵入りになった……。ちょっと悲しいわ」。
ジャクソン監督がメガホンを取るのがベストだったとは思いますが、ギレルモ版の『ホビット』も見てみたかったですね!
ウェリントンのミラマー一帯には、Wetaワークショップをはじめ、『ホビット』シリーズの製作に携わった映画制作会社が集結しています。視覚効果のWetaデジタル、美術部門・衣装部門の3foot7(『ホビット』シリーズのために作られた会社で、プロジェクトが終われば畳まれます)、ストーン・ストリート・スタジオ、編集のパークロード・ポストプロダクションなどです。Wetaワークショップのゼネラルマネージャー、ティム・ラウンダーはそれぞれの制作会社の関係についてこう説明します。
「ピーター・ジャクソンがここで映画を作りたいと思ったら、全て必要なものがそろっているんだ。こうした会社が『ホビット』といった大作では一緒に働くんだけど、それと同時に個々に小さなプロジェクトも進めている。だからそれぞれの会社の関係は兄弟みたいな感じといえるだろうね」
Wetaワークショップは、創設者のリチャード・テイラーとタニア・ロジャーが「アーティストたちがニュージーランドで安定したキャリアを築けるように」と尽力した結果、現在では新しいプロジェクトを常に複数抱えているそうです。今明かせるのは、特撮人形劇「サンダーバード」のリメイク版と『アバター』続編3作品(ジェームズ・キャメロン監督)だけとのこと。ジャクソン監督の作品以外にもそれぞれの会社が独自の取り組みをしている点が、ウェリントンの映画産業の継続的な発展を可能にしているといえそうです。
また、何といってもウェリントンの映画産業に最大のインパクトを与えたのは、ジャクソン監督その人でしょう。ジャクソン監督とのタッグで知られ、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』ではアカデミー賞編集賞を受賞したジェイミー・セルカークにジャクソン監督について聞きました。
ジェイミー:僕は1966年から1979年までテレビの仕事をしていて、ピーターと出会ったのは1986年。彼は新聞社で働きつつ、週末に撮影をして、3~4年かけて映画『バッド・テイスト』(1987)を作っていたんだ。とても面白い映画だった。ある意味普通じゃなかったから批判も多かったけど。僕はフィルムコミッションから「この若い男を助けてやってくれ。素晴らしい映画だから」と言われてピーターに会って、『バッド・テイスト』のポストプロダクションを一緒にやったんだ。そして、それはすごくうまくいった。それでそのまま『ミート・ザ・フィーブルズ/怒りのヒポポタマス』(1989)を製作することになって、リチャード・テイラーが加わったんだ。それからずっと一緒にやっている。ピーターは気さくな男だから一緒に働くのが楽しいんだよ。
ジャクソン監督をずっと近くで見てきたジェイミーですが、彼がこれほどビッグになると当時から予想していたのでしょうか?
ジェイミー:いいや。でもどうにかなるとは思っていた。『乙女の祈り』(1994)は今でも僕のお気に入りなんだけど、それまでの軽いテイストとは全く違った脚本で、ストーリー展開が素晴らしかった。ピーターは素晴らしい仕事をした。この作品で世界に出たんだよ。
『乙女の祈り』はジャクソン監督に第51回ベネチア映画祭銀獅子賞、第67回アカデミー賞脚本賞ノミネートをもたらした作品であると同時に、ケイト・ウィンスレットの映画デビュー作でもあり、映画史を語る上で欠かせない作品となりました。
ジェイミー:マイケル・J・フォックス主演の『さまよう魂たち』(1996)も興味深い作品だ。誰も僕たちがこれを実現できるとは思っていなかった。つまり、初めてアメリカから製作費が出た作品なんだよ。2,800万ドルもね! どうやって使ってやろうかと思ったよ(笑)。これは僕たちの進む道を示した映画だと思う。劇場公開ではそんなにいい成績を残せなかったけど、DVDはすごく売れたんだ。ニュージーランドを有名にした作品だよ。
ジェイミーやリチャード・テイラーと共に映画館ロキシーシネマを経営するバレンティナ・ディアスも、その当時のことはよく覚えているそうです。
バレンティナ:クック山のそばに小さな家を持っていたんだけど、映画の関係者がその家を借りに来たの。マイケル・J・フォックスが主演の映画だって聞いて本当に驚いたわ。当時はニュージーランドで国際的な映画が作られることも、マイケルみたいな有名なスターが来ることも信じられなかったから!(笑)
それから18年、ジャクソン監督は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ、『キング・コング』、『ホビット』シリーズなどのビッグプロジェクトを次々と成功させ、映画界でニュージーランドが占める位置を確固たるものにしました。それによって、ニュージーランドでの国際的な映画の製作が当たり前のことになっただけでなく、『アバター』などハリウッドの非ニュージーランド人監督の作品までもがこの地で製作されることになったといえるでしょう。
映画を観なくても立ち寄りたい!『ホビット』ゆかりの映画館
ロキシーシネマ 1928年にザ・キャピタル・シアターとして産声を上げ、その後ショッピングモールになり、2011年4月1日に再び映画館としてオープンした劇場。その際、正面の表面だけは昔からのものを利用しましたが、その他は全て建て替えられました。映画の黄金期である1930年代をテーマにしたアール・デコ調の内装は、Wetaワークショップのホビット穴を作ったチームが手掛けました。それだけに、新しい建物でありながら、映画館に一歩入れば1930年代にタイムスリップしたかのような雰囲気!
ジェイミー、バレンティナのほかWetaワークショップの創設者であるリチャード・テイラーとタニア・ロジャーら映画人が地域のコミュニティーのために共同で経営していますが、今やその美しい内装で観光スポットとなりました。『ホビット 竜に奪われた王国』公開中の現在は、2階のグランドロビーへの階段がホビット穴仕様になっています。
シックなグランドロビーが……、
『ホビット』イベント時にはホビット村に変貌! ホビット村で実際に使われた小道具をそろえ、ドワーフたちがビルボの袋小路屋敷で食べたようなごちそうも用意されました。ニュージーランド人の俳優を中心にキャストも駆け付けたそうです。
天井の絵は1930年代の「フラッシュ・ゴードン」をモチーフにしています。
リチャード・テイラーがデザインしたオブジェ。マティーニを手にしていることから、「マティーニ・カップル」(写真には写っていませんが、右側にもう1体います)と呼ばれています。
1930年代をイメージしたゴージャスなウォーターフォールカーテン。この劇場のためだけにデザインされました。
スピーカーもデザインの中に組み込まれていてオシャレ!
ロキシーシネマの前にはガンダルフが立っています。
エンバシー・シアター 1926年に建てられたエンバシー・シアターは、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』と『ホビット 思いがけない冒険』のワールドプレミアが開催されたことでも有名な歴史ある映画館です。
タイルがとってもすてき!
コンセッションのランプ一つとってもかわいいです。
右側の壁に掛けられている写真に写っているのは……、
フロド役のイライジャ・ウッド! 奥の方までレッドカーペットやワールドプレミアの写真がずらりと展示されており、当時の熱狂がうかがえます。
エンバシー・シアターの前に建っているのは、Wetaワークショップが2005年に発表した彫刻「トライポッド」。ニュージーランドの映画・テレビ業界をたたえて制作されたもので、頭は映画用のカメラになっています。
CQホテル前にあるこちらもWetaワークショップによってデザインされたもの。その名も「Heated Sofa(温められたソファー)」。コンクリートの椅子だから冷たいんだろな~と思い込んで座るとびっくりしますよ。
このようにウェリントンには『ホビット』やWetaワークショップゆかりのものがたくさん! さらに、一緒に街をまわってくれたウェリントン在住の女性は『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』などで2度のアカデミー賞に輝き、今年のアカデミー賞にもノミネートされたサウンドエンジニアのめいであることが判明するなど、ウェリントンの映画産業の大きさには驚かされてばかりでした。
映画『ホビット 竜に奪われた王国』は公開中
(C) 2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.
『ホビット 竜に奪われた王国』が生まれた場所!ニュージーランド訪問記~バックナンバー
■第1回:制作会社Wetaワークショップを直撃!
■第2回:本当の“中つ国”!『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』のロケ地に潜入
『ホビット 竜に奪われた王国』キャストインタビュー
■『ホビット』で敵同士となった「SHERLOCK(シャーロック)」コンビが語る!「二人にとって素晴らしい経験だった」
■オーランド・ブルーム、レゴラスの長い髪に「イライラすることはある
■『ホビット』レゴラスが思いを寄せる女性エルフとは?エヴァンジェリン・リリーが語る
■ルーク・エヴァンス、『ホビット』オーディション後1年半放置されていた!
『ホビット 竜に奪われた王国』関連サイト
■『ホビット 竜に奪われた王国』オフィシャルサイト
■『ホビット 竜に奪われた王国』特集:一緒に冒険に出たい!あなた好みのステキ男子を探せ!ワイルド&スイートな6人のイケメンたちを徹底マーク
■ニュージーランド政府観光局オフィシャルサイト
■ニュージーランド航空オフィシャルサイト