第22回 香港インディペンデント映画祭の魅力に迫る
ぐるっと!世界の映画祭
1997年の中国への返還により、中国の巨大市場に飲み込まれてしまった感のある香港映画界。しかし近年、新たな息吹が生まれています。それを象徴するのが2010年にスタートした香港インディペンデント映画祭。第5回大会(2014年1月18日~26日)に特集企画「日本インディ最前線」のゲストキュレーターとして参加した、映画『Fly Me to Minami~恋するミナミ』のリム・カーワイ監督がレポートします。(取材・文:中山治美、写真:リム・カーワイ、鶴岡慧子、香港インディペンデント映画祭)
年間を通して活動
1997年に発足し、自主映画の製作・宣伝・配給を行ってきた非営利団体「影意志」が主催。他国同様、香港の劇場は娯楽大作が占めているが、世界の優れたインディペンデント映画を紹介すべく香港アートセンターなどの協力を得て運営されている。若手映像作家の人材育成と支援の目的が大きく、映画祭直前にドキュメンタリー制作のワークショップも。
またクラウドファンディング・プロジェクトを設け、その支援を受けて製作された短編映画は他の国際映画祭でも上映されている。「第1回に小川紳介監督、今回はイランのマフマルバフ・ファミリーを特集するなど作家性を重視したセレクションは徹底しています」(リム監督)。
低予算でも高品質
リム監督はマレーシア出身だが日本映画界にも精通していることから今回のキュレーターを任された。映画祭からの要望は「今の日本を代表し、かつ香港初上映」。加えて予算がないため、英語字幕付きの作品に絞られた。
選ばれたのは、今泉かおり監督『聴こえてる、ふりをしただけ』、三宅唱監督『Playback』、鶴岡慧子監督『くじらのまち』、万田邦敏監督の短編『面影』と濱口竜介監督短編集。いずれも国際映画祭に選出された実績を持つ。「今泉監督はCO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)の助成金、鶴岡監督は卒業制作など製作体制が異なる作品を選んだ。日本の自主映画がいかにして作られているかを示していると思う」(リム監督)。
日本に羨望(せんぼう)のまなざし
観客は映像製作を学んでいるような30歳代の若者が中心で、上映後のQ&Aもマニアックな内容が多かったという。「日本の自主映画状況に羨望(せんぼう)を抱いている人が多いですね。低予算だけど一般公開の機会にも恵まれ、かつ国際的映画祭にも選ばれている。
また大学生の作品でも有名俳優が出演しますよね? 他国じゃまずあり得ません。それにアジアではまだまだ映像製作は富裕層のものであり、一般の人が製作する場合は『香港藝術発展局』のような公的機関から助成支援を受けるか、映画会社に持ち込むかのいずれかです。最近ようやく日本のように、仲間を集めて低予算で作る人たちも出てきました。今回の特集はやる気さえあればできるんだと、刺激になったと思います」(リム監督)
リム監督は大阪観光特使!
リム監督のもう一つの仕事は、最新作『Fly Me to Minami~恋するミナミ』の上映だ。同作品は韓国・ソウル、大阪・ミナミ、そして香港の3都市を舞台にしたラブストーリーで、本作をきっかけにリム監督は大阪観光局より大阪観光特使に任命されている。つまり、大阪の魅力を映画を通して伝え、観光誘致を促進させるという任務も託されている。
「『アジアの人々の出会いと擦れ違いがよく描けていて、大阪に行きたくなった』という声をよく頂きます。実際、本作を上映してくれた台湾の台南国際映画祭のスタッフ6人が昨年末のクリスマスに来阪。香港インディ映画祭のスタッフも5月末に遊びに来る予定です」(リム監督)。現在、香港をはじめアジア公開の可能性を探っているという。
レジデンスに宿泊
香港へは各都市から直行便で約3~5時間。リム監督を含め、日本から参加した鶴岡監督や三宅監督らの渡航費と宿泊費(3泊分)は全て映画祭側の招待だ。とはいえ宿泊は、香港アートセンターが管理しているアーティスト用のレジデンス。
これもまた、観光では味わえない貴重な体験だ。食事は映画祭スタッフのアテンドで飲茶や火鍋を楽しんだという。「お金はなくても手作り感覚あふれるアットホームさで、十分“おもてなし“をしていただきました」(リム監督)。
香港自主映画の夜明け
「香港の自主映画はまだまだこれから。僕自身、自主映画でもプロの俳優やスタッフを集められるので、日本が最も製作しやすいという印象があります。ただ、香港では映画=商業という認識が強いけど、日本はそうではなく、人に見せることを意識した方が作品に広がりが出るのでは? と思います」(リム監督)。
「影意志」のマカオ支社が昨年できたことがきっかけとなり、今年5月末には、大阪にてマカオ映画祭を行う予定。リム監督を中心にアジアの輪が広がっているようだ。