『オー!ファーザー』岡田将生&忽那汐里 単独インタビュー
まるで本物の家族のようでした
取材・文:高山亜紀 写真:金井尭子
どこにでもいそうな普通の高校生・由紀夫には秘密があった。それは父親が4人もいること。伊坂幸太郎のベストセラーがついに映画化。主演は『アヒルと鴨のコインロッカー』『重力ピエロ』に続き、これが3作目の伊坂作品となる岡田将生。クールに見えて、実は友達思いで好奇心いっぱいの由紀夫を繊細に演じている。一方、彼にぐいぐい接近していくクラスメート・多恵子をテンション全開で演じたのは忽那汐里。抜群のコンビネーションを見せた二人が、和気あいあいとしていて、まるで本物の家族のようだったという撮影の日々を振り返る。
4人もお父さんがいる家庭は理想の家族構成
Q:由紀夫役を熱望したそうですね?
岡田将生(以下、岡田):自分自身で「高校生役も、もうそろそろかな」と勝手に思い込んでいた時期に、たまたま台本を読ませていただいたんです。そのときはまだ伊坂さんが原作だとは知りませんでした。読んでみたら、この由紀夫というのが高校生であることも忘れるような達観している存在だった。これだったら24歳の僕でも表現できるんじゃないかと思って、絶対にやりたいと手を挙げさせてもらいました。
Q:忽那さんは話を聞いて、どう思いましたか。
忽那汐里(以下、忽那):初めて台本を読ませていただいたときには、4人もお父さんがいて、誰が誰やらよくわからなくなりそうでした。でも、それでいてすごく面白かったんです。「これって映像にしたら、ちゃんと家族に見えるのかな? 見てみたい!」と思いました。
Q:4人もお父さんがいるなんて、考えられないですよね。
岡田:お父さんが4人なんて、想像もつかなかったんですが、台本を読んでいくと、奇想な設定だからこそ、家族や絆、いろんなものが描けるんだということがすごく伝わってきました。それをぜひお芝居で表現したいと強く思いましたね。
忽那:今回、観た方に聞くと、「こういう家族、あってもいいのかな」と言ってくださる方が多くて。自分もまさに「こうだったらいいのに」って、思いながら演じていたので、うれしかったですね。なかなかあり得ない環境ですけど、それでもこの家族が無理なく自然に一緒にいる感じがいいと思いました。特に出来上がった作品からそれを強く感じました。流れている空気感なのかな。本当に4人分の愛情があって、逆に欠けることなく、それどころか増しているぐらいの愛を感じました。
Q:その4人分の愛情を受けた感覚はどうでしたか。
岡田:4倍ですからね。それこそ、現場に行くと、お父さんたちの愛を感じました。5人でいるときと、一対一でいるときではまた愛情の出方が違うんです。じかに伝わってくる感じ。由紀夫を演じていながら、うらやましいなと思っていました。
二人もあぜん! 河原雅彦のアドリブ三昧
Q:お父さんの役者さんたちとはどのように接していましたか。
岡田:皆さんとは本当によく話をさせてもらって、待ち時間にしゃべらなかったことがなかったぐらいですね。本物の家族のような感覚で、みんなで趣味の話をしたり……。それこそ(佐野)史郎さんと忽那さんはカメラが趣味で、僕はあまりやったことがなかったので、現場でいろいろ教えてもらいました。僕は機械類に弱くて、PCとかもダメなんです(苦笑)。
忽那:わたしが撮影に参加した期間はほんのちょっとだったにもかかわらず、皆さん、温かく接してくれました。わたしから見ても、お父さんたちと岡田さんの距離感はすごく自然で良かったですね。待ち時間も、誰かに気をつかうでもなく、しゃべったり、ぶらぶらしていたり……。
Q:楽しそうな現場ですね。
岡田:河原(雅彦)さんはすごかったですね。三人のシーンなんて、アドリブばっかりだったよね?
忽那:河原さんが自転車をこいで登場する場面は特にすごかったですね。何回も撮影しているうちに、河原さんが本気で疲れちゃったみたいで。
岡田:その疲れたのも全部、生かしちゃうんです。「年だから、つらいんだよ」とか、本番にカラスが鳴いてしまったんですが、「カラスがうるさいなぁ」とか言って。本当に楽しくて、刺激的な毎日でした。お父さん4人の役者さんは皆さんベテランなので、日々、芝居合戦のようで、舞台のような感覚で面白かったです。
Q:普通に見えて、意外にスーパーな由紀夫ですが、演じる難しさはありましたか。
岡田:今回は一風変わった家族の形を借りながらも、家族の絆を見せられたらいいなと思っていました。だから、お父さんたちとの時間をどれだけ密にして、芝居できるかということに気を付けていたんです。難しさはあまり意識せず、お父さんたちの芝居をちゃんとぶれずに受け止めていれば大丈夫と思っていました。僕は受け手で、主役はあくまでもお父さん4人です。
岡田将生が結婚願望を激白!?
Q:この作品は男性が思う理想の子育てかなと思ったんですが、岡田さんは父親になったら、やってみたいことはありますか。
岡田:今回は特に家族っていいなと思いました。子供が欲しくなりましたし、世話したくなりましたね。やってみたいことは……ピアノをやらせたいですね。ピアノが弾けたら、かっこいいじゃないですか! やってほしいなぁ。でも、子供のやりたいように自由にやらせてあげるのもいいなと思います。
Q:自分のお父さんのことを思い出しました?
忽那:このお父さんたちは理想ですよね。うちの父は不器用な方で、娘と接したりするのはあんまり得意じゃないと思うんです。雰囲気としては、(佐野史郎演じる)悟さんに近いかな。表情にもそんなに出さないし、冗談もあんまり通じない、厳格な感じの父親です(笑)。こんな家庭だったら、笑いが絶えないだろうなって思いました。
Q:二人にとってお父さんの存在とは?
岡田:いろんなお父さんがいると思いますけど、自分の父親が理想ですね。子供を優先して、家庭を守るために一生懸命働いてくれる。最高の父親です。
忽那:劇中、由紀夫がトラブルに巻き込まれたときに、お父さんたちが「だてに4人いるわけじゃない、心配しないでいいんだよ」っていうセリフがあるんです。どう見ても、対処法があるように見えないのにそう言っちゃうのがまさにお父さんだなと思いました。どんなときでも子供たちに不安を感じさせないようにどっしりと構えている。なんだかわからないけど頼れてしまう。それがお父さんなんだと思います。
Q:最後に伊坂作品の魅力を教えてください。
岡田:その空間にまるで自分がいるように引き込まれてしまうところでしょうか。本作なら、お父さんが4人いる家庭が、意外とどこかにあるんじゃないかと思えてしまう。あと、心にスッと入ってくるようなセリフが好きですね。今回もこれまで同様、すごく大切に、大事にセリフを言いました。一番好きなのは、やっぱり最後の「寂しさも4倍なのかな」。由紀夫としての人間性がにじみ出ているセリフなので、特に大切にしました。
忽那:これまでいくつもの作品を観てきましたが、最後まで展開が読めない。本作もそうですが、最後の最後で一ひねり、どんでん返しがあるのが伊坂さんらしい作風だと思います。そして、観た後にじんとくる。特に今回は家族ものに青春が盛り込まれたサスペンスコメディー。こんな家族構成でこんなお話って、この映画でしか見られないと思います。新感覚の家族をこの作品で観ていただけたらと思います!
スチール撮影中、カメラマンが「見つめ合ってください」とリクエストすると、動揺しまくっていた二人。「お芝居だと平気なのになんでだろう」と照れ合っていた姿が初々しかった。二人が机を並べたのはドラマ「太陽と海の教室」以来、5年ぶりらしい。確実にキャリアを重ねているのに、透明感は損なわれないまま。そんないつまでもピュアな二人だからこそ、ティーンエイジャー役でも違和感なく、むしろ共感して演じられるのだと思う。
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映画『オー!ファーザー』は5月24日より全国公開