『ホットロード』能年玲奈&登坂広臣 単独インタビュー
お互いの芝居によって本気の感情が引き出された
取材・文:石塚圭子 写真:尾鷲陽介
連載終了から30年近くたった今なお、時代を超えて読み継がれる伝説的少女コミックを実写映画化した『ホットロード』。母に愛されていないのではないかという不安を抱えて生きる主人公・和希を『あまちゃん』で国民的女優となった能年玲奈、和希が惹(ひ)かれていく不良少年、春山役を三代目J Soul Brothersのボーカルで今回が映画初出演となる登坂広臣がそれぞれ演じている。『ソラニン』や『僕等がいた』シリーズなど恋愛青春映画の名手といわれる三木孝浩監督の下、二人が全身全霊で役に懸けた熱い思いを語った。
和希と春山が強く惹かれ合った理由
Q:主人公の和希と春山は“青春時代の痛み”を体現する象徴的なキャラクターですね。
能年玲奈(以下、能年):不良という設定自体を前面に出すのではなく、お母さんに自分を見てほしいから、悪いことをしてしまう。そんな和希の、素直になれずに気持ちがいっぱいいっぱいになってしまう感じを大事にしたらいいのかなと思いました。
登坂広臣(以下、登坂):春山は『ホットロード』ファンに愛されているキャラクターで、同性の僕が見ても憧れる、男としての理想像の一つだと思います。春山の不器用さ、真っすぐさ、孤独、どこか闇を抱えている部分などを大切にしました。原作者の紡木たく先生と三木監督は「春山を演じようとせず、そのままでいてくれればいい」と言ってくださったので、その言葉を信じて、やらせていただきました。
Q:和希と春山、それぞれの魅力はどこにあると思いますか?
能年:春山は正直、わたしの好きなタイプの男の人とは違うんですが(笑)、原作と台本を読んで、和希にとって春山がどれだけ大切な存在かは、すごくわかりました。和希の中で、春山は初めて“自分の領域”に踏み込んできた人なんじゃないかなって。
登坂:春山が和希に最初に惹(ひ)かれたのは、多分どこか自分と同じ匂いを感じたから。でも和希を深く知るにつれ、自分にはなかった、いっさい汚れていない、純粋できれいな心があることがわかって、彼女にどんどん本気になっていったんだと思います。
登坂にとって能年は“ストイックな女優”!?
Q:今回、初共演してみた感想はいかがですか?
能年:和希が春山に頭突きするシーンや殴るシーンがあったんですけど、登坂さんが「遠慮せず、思いっきり来てください」って、言ってくださったおかげで、わたしも本当に思いっきりできました。登坂さんがすごく優しい方で、よかったなぁと思いましたね。
登坂:いやいや(笑)。僕は能年さんに対して“ストイックな女優さん”というイメージがありますね。リハーサルで初めてお会いしたとき、すでに和希という役に入っているのを感じました。台本もボロボロになるくらいまで読み込まれていて。
能年:それは、わたしが結構大ざっぱなところがあるから(笑)。
登坂:能年さんが演技で思いっきり来てくださったからこそ、僕も本気の感情を引き出してもらえたと思います。気持ちの部分で本当に引っ張っていっていただけたので、すごく心強かったですね。
観る者の心を震わせる号泣必至の名シーン
Q:純愛、親子愛、友情の絆、命の尊さなど、大切なテーマがいくつも織り込まれた本作。お二人が個人的にグッときたところはどういったシーンですか?
能年:春山についてきてもらって、初めてお母さんに自分の感情を吐露するシーンは、すごく大事にしなければいけないなと思って、意気込んで挑みました。お母さん役の木村佳乃さんとご一緒できて、本当によかったです。あと「わたしの友達」って思いながら、友人のえり(竹富聖花)を抱き締めてあげるシーンも、友情をしっかり確認するところが好きです。
登坂:僕も結構数多く思い浮かびますね。でも一番は、春山が「死にたくない」って言うシーン。それまで命を大事にしてこなかった春山が、守りたい大切な存在ができたことで、和希のために死にたくないと本気で思う。自分にとって和希が全てだっていう、春山の心の声だったのかなと思って、すごく印象的でした。
能年:あと、和希が初めて春山と出会うシーンでは、ムカッとする感じと惹(ひ)かれる気持ちが同居している気がして、集中して頑張ったところでもありますし、いいシーンになったんじゃないかなって。なんか、すごくたくさん言っちゃって、すみません……(笑)。
俳優として目指すもの
Q:登坂さんは、本作で素晴らしい存在感と演技を披露され、今後はさらに俳優としての仕事のオファーも増えそうですね。
登坂:僕は普段音楽活動をやらせていただいていて、それが自分の芯になっています。もちろん、この作品と出会えたことで、グループをもっと知っていただける機会にもなりましたし、自分自身も表現者として成長させてもらって、とても感謝しています。ただ、まずはグループとしての高みをもっと目指していきたいというのが正直な気持ちですね。お芝居に関しては、今のところは白紙というか、先のことは全く考えていないんです。
Q:能年さんが役者として、これから目指していきたいことを聞かせてください。
能年:わたしが和希を演じると知って、ビックリされた方もいました。その中で、あえてわたしがこの役をやる意味がないとダメだと思ったし、和希はわたしとは正反対の女の子なので不安でしたが、たとえ正反対の役でも、わたしだと認識してもらえる演技をしたい! と思い直しました。今までも、そう決めて演じてきていたんですけど、もっとしっかり思うようになって。なので、これからは、どんな役をやっても“能年玲奈”だという意味がある演技ができる女優になりたいです!
スクリーンの中でキラキラした輝きを放ちながら、多くの人の共感を呼び起こす、思春期の少年少女の葛藤や苦しみを演じきった能年玲奈と登坂広臣。インタビューに現れた二人は、どこか作品の世界観に通じるシャイで繊細な雰囲気を漂わせ、演じたキャラクターのイメージを彷彿(ほうふつ)させる。ウィスパーボイスながら自分の思いをしっかり伝えようとする能年と、真面目な表情と丁寧な語り口に誠実さがにじみ出る登坂は、大人になった和希&春山のようでもあった。
映画『ホットロード』は8月16日より全国公開