絶叫!戦慄!仰天!残暑を吹き飛ばすコワい女列伝
今週のクローズアップ
市川海老蔵&柴咲コウ主演の『喰女ークイメー』の公開(8月23日)を機に、映画に登場する歴代のコワい女たちを大特集。世の男性たちはこんな女たちに出会ったら要注意! 世界を震撼(しんかん)させてきた彼女たちの実像に迫ります!(文・構成:編集部 石井百合子)
FILE01 『喰女ークイメー』(2014)の美雪
彼女が文句を言わなくなったら要注意!?
舞台劇「真四谷怪談」の主人公、お岩&伊右衛門と、それを演じる役者・美雪&浩介。一人二役に挑んだ(柴咲コウ)と(市川海老蔵)の熱演、そしてフィクションと現実世界がシンクロしていくストーリー展開が見事な『喰女ークイメー』。「女は怖い生き物」という三池崇史監督の女性観が反映されているかのようなサスペンスホラーだ。柴咲がグロテスクなメイクを施してお岩さんを怪演するダイレクトなショッキング描写が際立つ舞台劇のパートもさることながら、肝となるのは美雪が恋人の浩介と、浩介の浮気相手への嫉妬(しっと)を募らせる現実世界。
人気女優である美雪の力で浩介は大役に抜てきされたにもかかわらず、彼は美雪よりもずっと若い女優と関係を持ち、美雪のもとへは帰ってこない。浮気に感付いていながらも言葉にしないのは、女のプライドゆえ。食べ切れないほどの料理を作って浩介の帰りを待ち、ゴミ箱には妊娠検査薬が山積み、突如洗面所の鏡に頭突きしたり、自分を裏切り続ける恋人への抑圧した激情を爆発させるシーンの数々は絶叫もの! 特に印象的なのは、お岩とも美雪ともつかない女性が浩介の車のフロントガラスを突き破るシーン。美雪の怨念を肌で感じ取っている浩介の罪悪感が生んだ妄想なのか。次第に精神を病んでいく美雪に安らぎが訪れることはあるのか……? 観客をけむに巻くようなどんでん返しともとれるラストが見ものだ。
FILE02 『ミザリー』(1990)のアニー・ウィルクス
両足をハンマーで打ち砕くシーンはトラウマ必至
雪道で事故に遭った人気作家ポール(ジェームズ・カーン)は、彼の熱狂的ファンだという女性アニー(キャシー・ベイツ)に助けられ一命を取り留めたものの、「死んだ方がマシなんじゃないか」というぐらいの恐ろしい体験をするハメになる。初めは手厚く看護するアニーだったが、彼女がひいきにしていたシリーズ最新作でヒロインが死ぬことを知った途端、豹変(ひょうへん)! ポールはアニーに監禁され、彼女が気に入るように書き直しを強要される。
ポールが治りかけた両足をアニーにハンマーで打ち砕かれ絶叫するシーンはあまりにも有名だが、まさに愛と憎しみは紙一重。ポールを自分の所有物のように扱い、飼いならそうとするさまにゾッとさせられる。アニーは、「この世で最も彼を理解しているのはわたし」と、都合のいい妄想を膨らませることで自身を肯定するストーカー心理を具現化したかのような人物だ。本作でアカデミー賞主演女優賞を受賞したキャシー・ベイツの怪演にビビりっぱなし!
FILE03 『危険な情事』(1987)のアレックス・フォレスト
妙齢の独身女性を誘うときには覚悟を……!
「たった一夜のアバンチュールのはずが……」と、世の男性を震撼させたサスペンス。「コワい女」といえば、真っ先にこの作品を思い浮かべる人も多いはず。妻と6歳の娘と共に順風満帆(じゅんぷうまんぱん)の人生を送っていたエリート弁護士ダン(マイケル・ダグラス)は、出版記念パーティーで編集者のアレックス(グレン・クローズ)と出会い、成り行きで一夜を共に。ダンはその場限りのオトナの関係と割り切っていたが、妙齢で出産のリミットも迫るアレックスはその後も執拗(しつよう)にダンに責任を取れと迫る。
ある時は目の前で手首を切り、妊娠を告げ、自宅に押し掛けて妻と談笑をしたり、アレックスのストーカー行為はエスカレートし、ついにはダンの娘がかわいがっていたウサギを煮るという凶行に及ぶ。妻と娘が帰宅すると、なぜか鍋が沸騰していて妻が恐る恐るフタを開けるとそこには……! というこの恐ろしいシーンは一度見たら忘れられない。『ブリジット・ジョーンズの日記』でヒロインが恋人に捨てられ、落ち込んだときにこのアレックスに自分を重ねているように、「負のベクトルに向かってしまった哀れな独身女性の末路」という痛~い作品であると同時に、「快楽には代償が伴う」という普遍的な教訓をあらためて教えてくれる一本でもある。
FILE04 『この子の七つのお祝いに』(1982)の真弓
呪詛の言葉を吐く岸田今日子がブキミ過ぎ!
フィルモグラフィーを見ると、魔性の女から“極妻”まで、「コワい女」の役が圧倒的に多いのが岩下志麻。鬼才・増村保造がメガホンを取った本作は、彼女の出演作の中でも『鬼畜』『悪霊島』などに並ぶ最恐の1本だ。タイトルからしてコワい『この子の七つのお祝いに』で彼女が演じるのは、幼いころに自分と母親を捨てた父親に復讐(ふくしゅう)を果たそうとするカリスマ占い師・ゆき子。復讐を遂げるために、自分の愛する人まで手にかけなくてはならない悲哀を漂わせつつ、不気味なのが殺人に使用する凶器。野菜の芯を取りのぞく時などに使用される「かんな棒」というマニアックなもので、相手をめった打ちにしても細いのでなかなか致命傷とならず流血しながらじわじわ息絶えていくという残虐な代物。と、殺人描写も念入りでスプラッタ物としても秀逸だ。
しかし終盤に大どんでん返しが用意されており、復讐劇の黒幕である母親・真弓の死の真相が暴かれると、事態は一転してゆき子は「悲劇の女性」と化す。真弓を演じるのが岸田今日子なので、勘がイイ人ならフラッシュバックで登場するシーンから、「この女には何かある」と察知するかもしれないが、ゆき子をはるかに超えるコワイ女が登場してくる。ゆき子の父親が、一時の気の迷いだったとしてもなぜこんな女と関係を持ったのか、というツッコミはさておき、真弓が「殺してやる、殺してやる……」と、呪詛(じゅそ)の言葉を吐きながら大根や豆腐に針を刺すシーンはトラウマになること必至。ちなみに、岸田は『ムーミン』シリーズの声優としても知られていますが、『砂の女』などブキミな役も多数あります。
FILE05 『黒い家』(1999)の菰田幸子
「乳しゃぶれ!」欲望のままに生きるサイコパス
大竹しのぶが発する「乳しゃぶれ!」の一声も話題を呼んだ本作は、実際に生命保険会社に勤務していた作家・貴志祐介の、保険金殺人を題材にしたベストセラーサスペンス小説を、故・森田芳光監督が映画化。内野聖陽演じる生命保険会社勤務のサラリーマン・若槻が、契約者である菰田重徳(西村雅彦)&幸子(大竹しのぶ)の家で首をつった少年の姿を目撃する冒頭からして衝撃的だが、お金のために両腕を切ったり、わが子に手をかけるという凄惨(せいさん)な世界でありながらも一切、感傷的な描写を排してブラックコメディーに仕上げたことによって、この事件の異常さが浮かび上がるところが秀逸だ。
やがて重徳が事故で腕を失い、障害保険を請求。若槻の会社が悪質な顧客の対処に出向くつぶし屋を派遣したことから幸子の暴走が始まる。大学の研究室で心理学に携わる若槻の恋人いわく、幸子は情性が欠如したサイコパス。眉一つ動かさず無表情で話す彼女は、バストを強調するけばけばしい服装、ボウリングに熱中する様子などから、本能的な欲望をむき出しにしているような感がある。留守中の若槻のマンションに侵入して荒らしまくる姿もさることながら、幸子の不気味さを最も表しているのが、彼女の家。大人のおもちゃが転がっていたかと思えば、“拷問部屋”には無数の刃物、血痕が……! 床下からはつぶし屋の死体がのぞく、身の毛のよだつカオスの世界だ。クライマックスの誰もいない会社で若槻に襲い掛かる幸子は、『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスさながらで夢に見そうな恐ろしさ。ちなみに、2007年には韓国でリメイク版も製作されている。
FILE06 『紅夢』(1991)の卓雲
癒やしキャラを装った狡猾な女狐
中国の名匠チャン・イーモウがコン・リーを主演に迎えて撮り上げた『紅いコーリャン』『菊豆(チュイトウ)』と並ぶ“紅の3部作”。父親に先立たれ、義母と共に貧しい生活を送る19歳の頌蓮(コン・リー)は、地元の素封家の当主に嫁ぐことに。第1夫人の大太太(チン・スウユエン)、第2夫人の卓雲(ツァオ・ツイフェン)、第3夫人の梅珊(ホー・ツァイフェイ)に続く、第4夫人となった頌蓮には四院という住居をあてがわれる。毎夜、四つの住居のいずれかに赤いちょうちんがともることになっており、それは大旦那である陣佐千(マー・チンウー)の寵愛(ちょうあい)を得ることができるという印。そして同時に、夫人たちの権力を象徴するものでもあった。
籠の鳥となった夫人たちは大旦那の寵愛を受けることだけが人生の喜びであり、この赤いちょうちんをめぐってすさまじいバトルが繰り広げられるのだが、この人間模様が一筋縄じゃいかないドロ沼状態。舞台の人気女優だった梅珊が露骨に頌蓮に対抗意識を燃やす一方、唯一頌蓮に優しかったのが卓雲だった。しかし、後日召使いの部屋で頌蓮を呪った人形が発見され、それが卓雲の仕業だったことがわかる。梅珊いわく卓雲は「菩薩のような顔をしたさそり」。梅珊が妊娠したときにはお茶に堕胎薬を仕込まれたこともあったという。味方だと思っていた人が、実は自分に想像を絶する憎しみを抱いていた……目に見えない悪意ほど恐ろしいものはない。表面ではにこやかに振る舞い、愛されキャラを装うことで相手を油断させる。そんな狡猾(こうかつ)さはいかにも女性的で、同性からするとこのタイプが一番怖い。
FILE07 『譜めくりの女』(2006)のメラニー・プルヴォスト
完全なる復讐計画を実行する陰険な美女
ピアニストを目指すメラニー(デボラ・フランソワ)は、幼いころに名門音楽学校の入学試験で、審査委員長のアリアーヌ(カトリーヌ・フロ)の無神経な態度によって動揺し、大失敗。成長したメラニーは、アリアーヌの夫で弁護士ジャンの事務所で働くようになり、やがて息子の子守としてジャンの家に入ることになる。事故に遭って情緒不安定なアリアーヌの支えとなり、彼女の信頼を勝ち得たメラニーは「譜めくり」に抜てきされ、アリアーヌにとってなくてはならない存在になっていく……。
このメラニーの特徴は、とにかく「陰険」なところ。ピアニストになる夢を絶ったアリアーヌへの復讐を誓うメラニーは、アリアーヌの三重奏団のチェリストに色仕掛けで迫りチェロのエンドピンで彼の足を串刺しに……! そしてアリアーヌの息子には過度にテンポの速いメトロノームでピアノのレッスンを仕込み、指にダメージを。さらに演奏会の直前に姿を消してアリアーヌを動揺させた揚げ句、自分を頼り切っているアリアーヌを巧みに誘惑し、積み重ねてきたこれらの悪行の数々がラストで実を結ぶ。恐ろしくも鮮やかな「完全犯罪」であり、見方によれば「逆恨み」ともとれるが、アリアーヌの最大の罪はメラニーをすっかり忘れてしまっていたこと。淡々とした作風だが、たとえ悪気がなくてもささいなことで一人の人間の人生を変えてしまうという落とし穴に心底震撼させられるサスペンスだ。
FILE08 『屋敷女』(2007)の名もなき女
大きなハサミで妊婦を血祭りに上げる謎の女
クリスマスイブの夜、翌日に出産を控える妊婦サラ(アリソン・パラディ)のもとへ、「2分だけでいいから入れて……」と現れた女(ベアトリス・ダル)。黒のドレス&黒の手袋を身に着けたその女は、いつの間にか家に侵入し、大きなハサミで眠るサラの腹を切り裂こうとする。へそと顔を切り裂かれたサラは血まみれになり破水しながらも、謎の女と攻防を繰り広げるハメに……。
冒頭でサラの身を案じて訪れた母親を誤って殺害してしまうシーンからして、バッドエンディングが予想されるが、とにかく終始血の量がハンパない。なぜ、この女はサラを狙うのか? 素性も目的もわからないのが不気味だし、職場仲間、警官とサラの家を訪れた人間を次々に血祭りに上げていくさまがとことん残酷。監督(ジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ)が三池崇史の『オーディション』など日本のホラー映画の多大な影響を受けたのもあって、目玉、頭、急所、膝裏などに容赦なくハサミを突き立てる “痛い”描写のオンパレード! 火かき棒、鏡の破片、包丁といった日用品で応戦する終盤のサラのリベンジ、そしてドンデン返しのラストまで息もつかせぬスリルに肝を冷やすこと必至。
ちなみに、本作同様のダルの血まみれ熱演では、「奇病に侵されている」という設定ではあるものの、性的な興奮が絶頂に達すると相手を「食べてしまう」という『ガーゴイル』でふんした悲劇の女性もスゴいです。
FILE09 『何がジェーンに起ったか?』(1962)ジェーン・ハドソン&ブランチ・ハドソン
憎しみの絆で結ばれた元女優姉妹
『飛べ!フェニックス』『北国の帝王』などの名匠ロバート・アルドリッチ監督が、ライバル同士だったといわれるベティ・デイヴィス&ジョーン・クロフォードという二大女優を、かつてスターだった女優役で競演させたサイコサスペンス。かつて名子役として一世を風靡(ふうび)したジェーンは成長してからは鳴かず飛ばずで、姉のブランチがスターとなった。しかし、ブランチは自動車事故に遭い、生涯車いすの生活を送ることとなる。
自分の助けなしに生きられなくなったブランチを、ジェーンは執拗にいたぶる。ある時は外に助けを求めようとしたブランチをベッドにくくりつけ、ある時はブランチがかわいがっていた小鳥を食事に出すなどジェーンの言動は徐々に常軌を逸していく。もはや自分が過去の人になっていることを受け入れられないのか、突如「カムバックする」と言いだし、子役時代の舞台衣装を身に着けて意気揚々とするジェーンは不気味だが、本当に恐ろしいのは終盤に明らかになるブランチの自動車事故の真相だ。人間の負の感情を静と動で描いたヘンリー・ファレルの原作&ルーカス・ヘラーの脚色はもちろん、デイヴィス&クロフォードの鬼気迫る熱演に圧倒されっぱなし!
FILE10 『エスター』(2009)のエスター
愛くるしいロシア人養女の正体に驚がく!
赤ん坊を死産した悲しみにうちひしがれるケイト(ヴェラ・ファーミガ)と、ジョン(ピーター・サースガード)の夫妻は、崩壊しかけた関係を修復するために9歳のロシア人少女エスター(イザベル・ファーマン)を養子に迎えることを決意。絵描きと歌が得意なその愛くるしい少女は、夫婦の家にやって来るやいなや、凶暴化していく……。
風呂に入るときは必ずカギを掛け、歯医者を嫌い、首と両腕に巻いたリボンを決して外さない。夫婦の寝室をのぞいて以来、ケイトに対抗意識を持つようになり、長男ダニエルと長女マックスを支配。そしてある日、自分の過去を知る児童養護施設のシスターを撲殺! 厚化粧&セクシーな装いで「抱いてほしい」とジョンを誘惑したり、エスターの異常な言動は謎を呼ぶばかりで、「一体彼女の目的は何なのか?」と終始ハラハラ。そしてついにエスターの秘密が明かされるラストの衝撃といったら……! サスペンス&ミステリーに造詣が深い人でも、この展開は読めないはず。エスターにふんしたイザベル・ファーマンの憑依(ひょうい)演技が見ものです。