『リトル・フォレスト 夏・秋』橋本愛 単独インタビュー
17歳の自分をそのまま演じていた
取材・文:編集部・森田真帆 写真:金井尭子
東北の山間で自給自足の生活をしながら、生きるエネルギーを蓄えていく女性を描いた五十嵐大介の人気漫画を森淳一監督が映画化した『リトル・フォレスト』。1年にわたって撮影された本作は、美しい東北の四季を映し取るため、夏・秋・冬・春の4部構成となっており、季節通りに「夏・秋」が公開される。都会暮らしから戻り、自然に寄り添って生きるヒロインを演じるのは、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」のアイドル志望の美少女ユイ役で一躍お茶の間の人気者となった橋本愛。自然が大好きという彼女が、本作の撮影を振り返った。
久慈から車で3時間、岩手県の大きさにびっくり!?
Q:ドラマ「あまちゃん」は海のイメージだったので、山を舞台にした映画というのは新鮮ですね。
この映画のお話を頂いたのは、まだ「あまちゃん」の撮影期間中でした。そのとき現場がスタジオでの撮影がずっと続いていたときで。わたしハウスダストアレルギーで、くしゃみも出ちゃうしつらいんです。だから、外に出たくて仕方なくて(笑)。地方ロケしたい欲が高まっていたころだったので、新鮮な空気を吸いたいなと思って、すぐに決めました。
Q:しかもロケ地は、「あまちゃん」と同じ岩手県という!
岩手県っていうと、「あまちゃん」と同じ景色が思い浮かぶかもしれませんが、全然違って山ばかりでした。久慈でのロケ中に、この作品の撮影があって、車でロケ地に移動したんです。そのとき3時間くらいかかって、同じ岩手でもこんなに遠いんだ! 岩手県おっきいなあって正直びっくりしましたね。でも自然が本当に大好きなので、空気もおいしくてとても気持ちいい現場でした。
Q:最近は、映画はもちろん、ドラマの主演も務められていてとても忙しいと思います。そんな中で1年かけて撮影するというのは大変ではなかったですか?
いろんな作品と並行して撮影していたんですが、正直どれだけ大変だったかはあまり覚えていないんです(笑)。この映画は1年かけて撮っていたので、通常そういう現場ってスタッフさんとも結束したりするじゃないですか。でもこの作品のスタッフさんは皆さんちょっと変わっていて、いつお会いしてもすごくいい距離感で仕事ができるんです。その一方で、演出部の中にはお父さんみたいな存在の方もいたりして、面白い現場でした。
初めての農作業の感想は?
Q:農作業をして汗を流す橋本さんがとても美しくて、キラキラしていました。
現場ではどんな作品になるのか全く想像できなかったんです。監督からは、自然に農作業をしていてって言われていたので、ドキュメンタリーみたいな感じになるのかなと。でも出来上がった作品を観たら、すごくおしゃれな映画になっていて、いい意味で裏切られたような、すごくびっくりしました。
Q:農作業は、お手の物でしたね!
小学校くらいのときって、夏休みの宿題とかでプチトマトを育てたりしますよね。それ以来、農作業って一度もやったことがなくて(笑)。だからほとんどが初めての経験だったんです。一度もしたことないことばかりだったんですが、撮影の直前に作業の仕方をたたき込まれた感じです。すごく面白いことに農作業ってコツさえつかめば、すぐにできるようになるんです。
Q:くるみを割る橋本さんがものすごく勢いがよかったので、ドキドキしちゃいました。
あれって、トンカチでつぶしていくから観ているほうはビクビクしちゃいますよね(笑)。わたしも「外れちゃうかしら」って思いながらやっていたんですが、結局一度もけがをせずに済みました。
自分で作るご飯に、満足感!
Q:作中に出てくるご飯がどれもとてもおいしそうでした。やっぱり自分で作る料理はおいしかったですか?
おいしいよりも先にものすごい満足感がありました。わたし、実家にいるときは祖母がすごくきれい好きで、台所には祖母以外立っちゃ駄目だったんです(笑)。だから上京してから自分で作るようになったんですけど、自分で何かを作ったときって理由なしにおいしく感じるんですよね。それに畑からとれた素材ってスーパーで買った野菜とは味がまったく違うんです。これまで食べられなかった物も食べられるようになりました。
Q:カモを絞めるシーンもこなされた橋本さんですが、撮影で大変だったシーンはありませんでしたか?
魚釣りのシーンはけっこう大変でしたね(笑)。わたし、魚つかむのとか本当にダメなので。なんかつぶれちゃいそうじゃないですか(笑)。無知からくる変な優しさも邪魔して、釣れても全然つかめなくて……あのシーンは何回やったか覚えていないくらいです。今も思い出すだけで、指がブルブル震えちゃうくらいなんですよ。幼なじみ役の三浦貴大さんは自分でさばいたこともあるみたいで、ポンポン釣っていましたね。
“役づくり”ではなくそのままの自分
Q:いち子を演じるとき、何か意識したことはあったんですか?
今はキャラクターとしてつくり込んでいくことが多いんですが、あのときの演技は自分が17歳のときのそのままで演じていた気がします。ただ、唯一気を付けたところがあるとすれば、わたしはいち子よりも、「ここでやっていく自信がない」という母親の福子の気持ちのほうがわかってしまったので、どれだけいち子の気持ちを鈍感にしていくかを意識するようにしていました。
Q:ドラマや映画でさまざまな役柄を演じている橋本さんですが、どんな役を演じるのが好きですか?
自分が演じているときは、それがどんな役でも楽しいとはあんまり思わないんです。どちらかというと、作品が出来上がったときのほうが楽しいかな。
Q:今後はどんなことに挑戦していきたいですか?
ドラマや映画の主役を頂いたり、今自分が求められたりすることが不思議で仕方ないんです。本当にまったく実感もなくて、わたしで務められるのかという不安ばかりあります。だからこれから先、こんなことがしたいとか言える余裕はなくて、今は頂いた仕事を一生懸命頑張ろうと思っています。
14歳で出演した映画『告白』から4年、今年18歳になった橋本愛は、今やすっかり女優としてのオーラをまとっていた。17歳のときに撮影した本作を、まるで遠い昔のように振り返る姿からは、彼女がどれほどの忙しい日々を走り続けているかがうかがえた。多忙な日々の中で、自然の中に身を置いて撮影した本作は彼女にとっても癒やしになっていたのだろう。スクリーンに映る橋本の表情はキラキラと輝きを放っていた。
スタイリスト:大石裕介(DerGLANZ) ヘアメイク:大川雅之
衣裳協力:イヤリング・リングnymphs
映画『リトル・フォレスト 夏・秋』は8月30日より全国公開