『まほろ駅前狂騒曲』瑛太&松田龍平 単独インタビュー
「まほろ」はバランスが大切な作品
取材・文:編集部 小松芙未 写真:高野広美
三浦しをんのベストセラー小説を実写化した「まほろ」シリーズは、2011年の映画『まほろ駅前多田便利軒』から始まり、2013年のテレビドラマ「まほろ駅前番外地」と続いて今作で3作目。便利屋を営む多田と同級生の行天に今回舞い込む依頼は、行天の娘を預かることと、怪しい団体の実態調査。そして、バスジャック事件に巻き込まれるという災難も……。より深みを増した今作の撮影秘話やシリーズの魅力について、多田役の瑛太と行天役の松田龍平が語った。
ヒーローのような気持ちになれる
Q:何げない日常を個性豊かなキャラクターで描く「まほろ」シリーズは観客にとって癒やしの作品でもあると思うのですが、演じているお二人にとってはどんな作品ですか?
瑛太:行天と多田便利軒の中でお酒を飲みながら会話をしてゆっくりと時間が過ぎていくような感覚はとても心地よいです。多田には依頼者とちゃんと向き合って人を救いたいという思いがあるので、解決して人に喜んでもらうと、まるでヒーローのように良いことをしたなという気持ちに毎回なれます。
松田龍平(以下、松田):同じ役を何回もやるとハードルがどんどん上がって、前作よりもっとという感じになると思うのですが、「まほろ」に関してはそれが本当にないんです。意識した役づくりもなくて、自分でも結構「ビックリ!」みたいな(笑)。そういう意味で、とても特別な作品だなと実感しています。
Q:意識せずに行天というユニークなキャラクターを演じていると聞いて、すごいなとこちらもビックリしました。
松田:今回は特に何も考えられなさ過ぎてちょっと焦るぐらい頭が真っ白で、大森立嗣監督に「龍平、本番だよ~」と言われて「あっ、本番か」と気付くような感じでした(笑)。何かを足したり減らしたりするようなことではなくて、これ以上に何かを求めることもなければ逆もないというか、それは不思議な感覚でした。
Q:瑛太さんは、映画、ドラマ、映画と積み重ねてきたからこそ、今作で出せたものはありますか?
瑛太:2作品をやってきたことによって、多田を演じる上で角度というか、役の幅が広がっている状態から入れる感じはありますよね。選択肢が増えて、自由に演じられるということが今回はありました。
無責任度は半端じゃない
Q:今作のテーマの一つにトラウマと向き合うということがあると思いますが、その問題に対してどういうふうにアプローチをしようとか、気を付けようということはありましたか? 行天は触れたくないものに触れるわけですが。
松田:気を付けたことはなく、トラウマについてあまり考え過ぎずに行天をやりたいなと思っていました。実はドラマも行天のバックボーンやトラウマを描くのだったらやりたくないと思っていたんです。今回が今までと違うのは、多田と行天がちょっと逆転しているところ。今までは行天が常識やいろんなものに縛られて判断している多田を見てぶち壊すというか、常識外れなことを平気でやることによって多田の心を動かしたところがあったと思うんです。でも今回は、行天は子供がダメなのに無理やり二人きりにさせたりする多田がいる。多田の無責任度は半端じゃないなって(笑)。
瑛太:はははは(笑)。
Q:でも観ている側としては、「よし行け、多田!」という感じはありました。
松田:任せ方がゆるいじゃないですか。「頼んだよー」みたいな。もうちょっと「任せたぞ」的な説得力はないのかなって。さらっと任せるから、何かいやらしいなって。
瑛太:いやらしいかな。
Q:多田としてはわざとそう仕向けたところはありますよね。
瑛太:そうなんですよ。全部計算というか。
松田:(爆笑)
瑛太:行天がちゃんと過去と向き合うための場を提供しているということ。そこがいやらしいのかもしれないですけどね。
松田:いやらしかったですね。任せるだけ任せて自分は女性に会いに行ったりね。
瑛太:うん。
松田:真木よう子さん演じる柏木亜沙子さんとか。ドラマを観ている人はそこがつながったりするから面白いかもしれないですね。
子供を持つ親として
Q:今回子供というのも一つのテーマですが、ご自身が人の子の親であるからこそ作品に好影響をもたらしたことはありますか?
瑛太:子供が誕生することや失うことは人生に大きな影響を与えると思います。そのあたりは実際にいないより、いたほうが想像はしやすいんじゃないかなと思います。
Q:笑いどころも多いですが、お二人で間を合わせているから、思わず声を出して笑ってしまうようなシーンが生まれるのでしょうか?
瑛太:特に間やテンポをどうすると相談したことはなかったです。映画第1弾のときには自然にちょうど良い間が生まれていたので、今回は多田と行天の関係に時間の経過もあるし、自然に生まれていったものという感じです。
松田:間を合わせることはなかったですが、瑛太さんがテストと本番で全然違う芝居をするので……。
瑛太:そんなことないだろ(笑)。
松田:大変でした(笑)。
瑛太:自分たちには笑いの意図はなく、普通にやっているだけなのですが、おかしなシーンほど真剣にやるようにはしています。
多田&行天の40代、50代
Q:多田と行天のキャラクターや二人のコンビネーションに観客は魅了されていますが、瑛太さんから見た行天と松田さんの魅力、松田さんから見た多田と瑛太さんの魅力を教えてください。
松田:多田って優しいなと感じながら芝居をしていました。「まほろ」はバランスが大切な話なので、どちらかに傾き過ぎていてもダメ。子どもに対してトラウマを抱えている多田と、虐待を受けていた行天が、子どもと向き合うという今回の話はすごく面白いと思いました。台本を読んでわからなかったことの答えを撮影で発見できたりして、やりがいがありましたし、瑛太さんにはとても助けられました。
瑛太:前作だとしっかり者の多田と自由奔放な行天というような感じでしたが、今回は違う感覚が生まれていて、行天が言動に表さないところで何かを残していく姿はすごくいいなと思いました。それは龍平にもどこか通じるところがあって、自由奔放やマイペースといったイメージがあるかもしれませんが、実はそうでもないんです。龍平といると周りがつい笑ってしまうようなちょっとしたハプニングが起きる。本人を前にして言うのもあれだけど、龍平は日常の中に物語を作って生きている感じです。友達としても一緒にいて面白いですよ。
Q:多田と行天のコンビを40代、50代になっても見たいと思う人はたくさんいると思いますが、お二人は今後もシリーズが続くことをイメージできますか?
瑛太:映画を観る人が継続を希望してくれたら続くかもしれませんが、でも僕はやりたいと思っています。
松田:俺は長い髪の毛のにおいが気になるので、髪を短くした行天だったらいいかな。でも、観たいって言ってくれる人がいればやりたいです。
話すテンポや声のトーンが似ている瑛太と松田。互いが自然体でいられる相性の良さがなければ、このシリーズは続かなかっただろうと思わせる。また、瑛太と松田だからこそ生まれたのが、少し力の抜けたところが魅力の多田と行天というキャラクター。今作で新たな一面を見せる多田と行天から目が離せない。
瑛太
ヘアメイク:原田忠(資生堂) スタイリスト:猪塚慶太
松田龍平
ヘアメイク:中村兼也(BERONICA) スタイリスト:纐纈春樹
映画『まほろ駅前狂騒曲』は10月18日より全国公開