『小野寺の弟・小野寺の姉』向井理&片桐はいり 単独インタビュー
姉弟よりももっと近い関係で再共演希望!?
取材・文:柴田メグミ 写真:尾鷲陽介
早くに両親を亡くしてから、一軒家で共に暮らす33歳の進と40歳の姉・より子。二人の不器用な恋と日常を優しく見つめた『小野寺の弟・小野寺の姉』は、映画『ガチ☆ボーイ』や、映画化もされたテレビドラマ「怪物くん」「妖怪人間ベム」の人気脚本家、西田征史の初長編監督作だ。W主演を務めるのは、原作小説執筆時から監督が念頭に置いていたという向井理と片桐はいり。まるで似ていない二人を、監督はなぜ配役したのか? 劇中のみならず、あうんの呼吸を見せた二人が爆笑&驚きの撮影秘話を明かした。
単なる仲良し姉弟じゃない不思議な関係
Q:舞台版に続いての共演となりますが、映画化の話を聞いたときのお気持ちをお聞かせください。
片桐はいり(以下、片桐):スピンオフを先にやった珍しいケースですね。小説があって、それに沿った形で映画があって、舞台はスピンオフという。
向井理(以下、向井):舞台は映画の後の設定だったので、初めは混乱しました(笑)。
片桐:映画をやると言われたときから、「いつかこの人と姉弟になるんだな」と思って過ごしてきました。途中、向井さんにイジメられたりしながらね(笑)。
向井:イジメてはいないでしょ? そんなことありました? いや、全然ないはずです(笑)。
片桐:2年程前に共演した(テレビドラマ「ハングリー!」の)ときの(向井の)役が、上司みたいな役だったんですよね。
向井:そうそう、雇い主みたいな。
片桐:だから飼い犬のような扱いを受けていましたけど。
向井:それは役柄ですよね(笑)!
片桐:いえ、普段から割とそうでしたよ。
向井:そんなことないですよ、営業妨害だ(笑)!
片桐:営業妨害? フフフ……。まあそんな感じでしたから、向井さんに逆襲する機会をうかがっていました(笑)。
Q:片桐さんがお姉さん役と聞いて、向井さんはいかがでしたか?
向井:不思議な二人ですよね。でも西田さんに(「ママさんバレーでつかまえて」の現場の)NHKで言われましたから、割とすんなり受け入れていましたね。「(監督は)そういうふうに見ていたんだ」とビックリはしましたけど、西田さんならきっと面白いものになるだろうし、共演するのをずっと楽しみにしていました。
片桐:そもそも、姉弟に見えるわけがないというか(笑)。
向井:似ている姉弟ではないですよね(笑)。
片桐:にもかかわらず、最後にはちょっと似ているような気がしてくるから不思議ですね。
向井:そうそう、見えてきますよね。よくわからないけど似ているんですよね、雰囲気か何かが。
Q:姉弟2人の関係については、どんな印象を持っていますか?
向井:ある種の痛々しさがあるからこそ、面白さにつながっていくのかなと。単なる仲良し姉弟じゃなくて、この二人だから出てきちゃう毒がある。そういった負の部分が垣間見えるところが、この作品の魅力なのかなと思います。
恋愛ベタだけど面食いな姉と弟
Q:それぞれの恋愛模様もまた、リアルで切なくて胸に響きました。2人とも恋愛ベタでありながら面食い、みたいな。
向井:最低ですね、恋愛ベタで面食いって……(笑)。
片桐:最悪な感じね。その不利益は大きいよ、お姉ちゃんにとっては特に。より子の場合は恋愛といえるのかどうか。まず自分が幸せにならないと弟が結婚に踏み切れない、という気持ちが強い人だと思うので。そういう切羽詰まったところが、かわいそうだなと思いました。わたし自身は普通にいっぱい失敗してきているので「こんなこと100回くらいあったなー」って思いながら演じていましたけど(笑)。向井さん、どうですか、恋愛のプロとしましては?
向井:役柄としてはすごくリアルだと思いますけどね。やっぱり姉の存在があるから踏み出せない。そこの(恋愛の)リアリティーについては、西田監督自身に昔、何かあったからなのかなと。じゃないと、あんなにリアルには描けないですよね。
片桐:なるほど。監督は(異性を)勘違いさせてきたんですかね。
向井:(恋愛ベタな面と)両方あるかもしれないですね。
ラストの解釈でその人の大切な何かが見える!?
片桐:結構、ほのぼのした終わり方にも思えますが、この映画をハッピーエンドと見るか、その逆と見るかで、その人自身の大切なものが何なのかがわかるんじゃないでしょうか。
向井:観るタイミングや、置かれている環境にもよるでしょうけれど、切ないのか幸せなのかという解釈は、本当に人によると思います。ハッピーエンドって人それぞれですしね。観た後に、続きが気になる人も多いでしょうし、そういう意味でも、定期的にやりたいですね。
片桐:寅さん並みにね!
向井、次はSM嬢の片桐と共演を希望!?
Q:続編も気になりますが、もし続編以外で再共演されるとしたら、どんな関係の役柄がいいですか?
片桐:(向井さんが)わたしの男ですね。
向井:今度は、より距離の近い役柄で、ということですか?
片桐:うん、近親相姦(そうかん)。
向井:え~、何ですかそれ(笑)! 姉弟は忘れましょう。
Q:あるいはこんな片桐さんが見たい、向井さんが見たいという役柄は?
片桐:わたし、向井さんのこの弟役が大好きなんです。だからずっと弟キャラをやってほしいです。ずっと(同じキャラ)というのは俳優にとってありがたくない話だとは思うのですが、いちファンとして思いますね。
向井:“進キャラ”? 僕も、より子さんはすごく好きですね。姉弟でわあわあ言い合いをしていても、仲がいい。身近で見ていて愛着を持てるキャラ。昭和を背負っているみたいな。
片桐:背負っている?
向井:僕も昭和がすごく好きで、懐かしい幼少のころの記憶は全て昭和なんです。テレビもまだリモコンじゃなく、ガチャガチャ回すやつだったり。それも小野寺家の象徴ですからね。昭和の空気にすごく溶け込んでいるより子さんというのはイコール、はいりさんの魅力だと思う。だからちょっと前の時代の昭和や大正がすごく……。
片桐:大正!?
向井:大正、カッコいいですよ。抑圧された時代から自由になる、ルネサンスじゃないですけど、花開いていくロマンみたいなものがカッコいい。ファッションもモダンで、色が鮮やか。そんなひと昔前の時代を背負った女性が似合うと思います。
片桐:この髪型のままでもイケるかしら?
向井:もちろん、おかっぱでイケます! はいりさんは背が高いから着物も似合うはずだし、SM嬢でもアリだと思います。
片桐:じゃあ、監督はぜひ鈴木清順監督に(笑)。恋愛物でもいいですねえ。
向井:どうして恋愛に持っていくんですか(笑)?
片桐:ダメなの?
向井:敵味方として闘う……愛憎劇とか。
片桐:愛憎!? うーん、それもいいですね。
取材部屋で互いの存在を確認するなり、自然に頬が緩む向井と片桐。撮影の待ち時間にもインタビュー時と変わらずイジったりイジられたり、軽口をたたきながらもいたわり合う二人の姿は、まさに小野寺の弟と姉そのものだ。片桐が「大好き」という姉思いの向井の弟キャラは、片桐が体現する弟思いのより子がいればこそ。「映画の成功はキャスティングで8割決まる」なる、某映画人の言葉を証明する顔合わせを、いち映画ファンとして喜ばずにいられない。
映画『小野寺の弟・小野寺の姉』は10月25日より新宿ピカデリーほか全国公開