高倉健さん追悼特集:わたしが選ぶ高倉健映画ベスト3
11月10日に急逝した高倉健さんの死を悼み、急きょ追悼特集を実施! 1960年代に任侠(にんきょう)映画のスターとして一世を風靡(ふうび)し、のちに東映を退社後、降旗康男、山田洋次、佐藤純彌ら名だたる名匠たちと組んで人情ドラマやクライムアクション、社会派サスペンスなど幅広いジャンルで活躍。205本もの作品に出演した、日本を代表する映画スターの名作をプレイバック。健さんを愛してやまない6人のライターが、必見のベスト3を選出しました!
金澤誠
初めての高倉健映画:『八甲田山』(1977)
おそらく初めて観た高倉健映画はテレビの東映任侠映画で、初の劇場映画は『ザ・ヤクザ』(1974)なのだが、『八甲田山』は映画俳優・高倉健の印象が残った初の作品だった。舞台の青森がわたしの故郷なので、特に思い入れが深い。
ベスト3
1位:『駅 STATION』(1981)
ストイックに自らの生き方を貫く男という、“ザ・高倉健”のイメージを表現したのが、この映画と『夜叉』(1985)であろう。さまざまな女性との触れ合いを通してある刑事の人生が描かれていくが、彼が自分の筋を通して行動したために、関わった女性たちはかなしい運命をたどっていく。そのかなしみを抱えながら生きていく“孤影”に、高倉健その人が重なる。降旗康男監督、木村大作撮影監督というゴールデントリオがそろった初の映画でもある。
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2位:『昭和残侠伝 死んで貰います』(1970)
任侠スター・高倉健の、一つの頂点だと思う。マキノ雅弘監督の演出、相手役・藤純子が醸し出す情感。ファンタジーとしての映画的な任侠世界を、全員が見事に作り出している。マキノ&高倉映画では『侠骨一代』(1967)もいい。
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3位:『あ・うん』(1989)
現代アクションの代表作『網走番外地』シリーズもそうだが、コミカルな味わいも高倉健の魅力であった。そのラインに通じる演技の“軽み”が味わえる。笑い顔がいいのだ。また親友の娘を送り出すラストは感涙必至。
●プロフィール
映画ライター。「キネマ旬報」「acteur(アクチュール)」「T.」「DVD&ブルーレイVISION」などに執筆。実は最も思い入れのある高倉健映画は現場に密着した『鉄道員(ぽっぽや)』。握手した高倉さんの手のぬくもりが忘れられない。
相馬学
初めての高倉健映画:『野性の証明』(1978)
小学6年生の時に公開された映画。薬師丸ひろ子目当てで観た当時の子供には正直、理解し難かったが、今ならわかる。ドラマのスケールの大きさを主演として引き受ける、健さんの背中の広さ。教わることが多かった。
ベスト3
1位:『昭和残侠伝 血染の唐獅子』(1967)
任侠映画を代表するスターが健さんであるならば、本作は文句なしにその頂点。昭和の任侠美学が、今も受け継がれる下町の哲学と化していることがよくわかる。純子史上最も愛らしい富司純子も、新伍史上最もイカしたプレーボーイの山城新伍もイチイチと泣かせ、健さんの男ぶりを引き立てる。脚本が健さんと同じく今年急逝した鬼才、鈴木則文であることも奇妙な縁。『昭和残侠伝』シリーズに傑作は多いが、男泣きしたい夜にはコレに限る。
2位:『遙かなる山の呼び声』(1980)
名作西部劇『シェーン』(1953)の日本的翻案という予備知識を抜きにしても美しい人情劇。健さんの任侠気質を生かしつつ、ヒューマニズムを貫く山田洋次監督の演出が光る。北海道の雄大な風景も効果的で健さんがデッカく見える。
3位:『新幹線大爆破』(1975)
ヤン・デ・ボン監督(『ブラック・レイン』(1989)の撮影)が『スピード』(1994)の参考にしたと思われる速度制限爆弾サスペンス。健さんが爆弾犯という悪役も珍しいが、もちろんワケありだ。全共闘世代の無念を背負っての熱演が泣ける。
●プロフィール
「DVD&ブルーレイでーた」「週刊SPA!」などの雑誌や劇場プログラム、シネマトゥデイなどのウェブ媒体の敷居をまたいでお仕事中。往年の東映映画を愛しつつ、洋画のアクション&スリラーにも目配せするケチな野郎であります。
轟夕起夫
初めての高倉健映画:『飢餓海峡』(1965)
実はこれ、「高倉健映画」ではない。助演です。地方の刑事役。でも“アーリー健さん”を厳しく鍛え、演技開眼させていった巨匠・内田吐夢監督との代表作の1本で、三國連太郎ふんする怪物的な犯人を前に、熱血が少々空回りしちゃうところも“青い”魅力に。
ベスト3
1位:『ならず者』(1964)
ソフト帽にスーツ姿もバッチリな殺し屋の健さん、香港でワナにはめられる、の巻。いやあ~、全編キザなセリフを吐き、しかもフィルムノワールしててシビれまくり。病で喀血(かっけつ)したその血へどを、口から吸い出し命を救った娼婦(南田洋子)とのエピソードにはジ~ンと胸熱です。監督は『網走番外地』シリーズの名コンビ・石井輝男。このムーディーな映画、ジョン・ウー先生が大好きで、いろいろ影響されて『狼/男たちの挽歌 最終章』を作ったのは有名な話!
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2位:『侠骨一代』(1967)
任侠(にんきょう)映画の枠内で“いなせ”な健さん像を創り、育てたキング・オブ・エンターテイナー、マキノ雅弘のメロウな(熟した)監督作。死んだ母親とそっくりのヒロイン(藤純子=現・富司純子の二役)との純な触れ合いにグッとくる。母思いな点は“リアル健さん”を見るよう。
3位:『新幹線大爆破』(1975)
国家権力相手に闘う、1970年代の“アウトロー健さん”といえば、佐藤純彌監督との一連の映画だ。新幹線を「走るブラックメール」に変えたのは造反有理! そこには元・町工場経営者の魂の叫びが。この健さん、今ならアベノミクスに報われない人々の、心の代弁者である。
●プロフィール
文筆稼業。新作の邦画では『百円の恋』推しです。「キネマ旬報」「映画秘宝」「acteur(アクチュール)」「ケトル」などで執筆中。取材・構成を担当した『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)が発売中。
中西愛子
初めての高倉健映画:『幸福の黄色いハンカチ』(1977)
母が昔から健さんのファンで、わたしは物心ついた時から母の好きな俳優として健さんを認識していた。でも子供には渋すぎた。わたしが健さんの映画を初めて観たのは、後追いで、大学生の頃。実直な存在感が印象深かった。
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ベスト3
1位:『遙かなる山の呼び声』(1980)
健さんと倍賞千恵子のコンビは、映画の中で奏でられる男女のあり方の一つの理想郷だと思う。『幸福の黄色いハンカチ』もそうだったが、罪深い男としっかり者の待つ女、ってどうにも古いよと感じつつ、健さんが体現する男を観ていると「いつまでも待つから!」と女心がくすぐられる。この映画では、北海道の風景に映えるたくましい健さんの姿がカッコいい。有名なラストシーンはもちろん、ほのかに官能的な大人の男女の機微にグッとくる。
2位:『夜叉』(1985)
この頃の健さんと共演する女優さんたちの、迫力ある女っぷりときたら。良くも悪くも、現代の人より業が深くていちずな感じ。健さんの存在がそうさせるのか。田中裕子にふらっとしてしまう隙を見せる健さんがまたいい。
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3位:『あなたへ』(2012)
公開時、一人劇場に足を運んだくだんの母。一番好きなシーンが、健さんが写真館の前で亡き妻の少女時代の写真を見るところと、わたしと一緒で驚く。スターの生き方を貫きつつ、普通に年を重ねられてもいた。最高にすてきです。
●プロフィール
映画ライター。「キネマ旬報」「acteur(アクチュール)」「月刊シネコンウォーカー」など、映画誌、情報誌を中心に執筆。先日、東京フィルメックスで観たドキュメンタリー『ジャ・ジャンクー、フェンヤンの子』に衝撃を受けたばかり!
中山治美
初めての高倉健映画:『野性の証明』(1978)
健さんというより、本作でデビューした薬師丸ひろ子の可憐(かれん)さに衝撃を受け観賞。彼女が「お父さ~ん!」と叫びながら健さんに向かって走ってくる予告編は今も鮮烈に覚えている。というわけで健さんは、彼女を命懸けで守る頼もしいお父さんという印象だった。
ベスト3
1位:『ホタル』(2001)
元特攻兵が、同僚だった朝鮮人日本兵の墓参りに韓国へ行く……それまでの日本映画、いや、歴史的にもあまり触れられてこなかった存在をつまびらかにした意欲作。健さんは『ブラック・レイン』で日本人俳優のハリウッド進出への道を開いたわけだが、常に新たな道を切り開こうとしていたおとこ気を山岡という役を通して実感するだろう。筆者も韓国ロケに同行。監督取材中、ひょっこり顔を出して記者たちを驚かせるという健さんのおちゃめな一面を見せてもらった思い出深い作品。
2位:『ミスター・ベースボール』(1992)
野球とベースボールの違いを描いたコメディー。健さん演じる監督は星野仙一がモデル。星野時代の元コーチに取材したところソックリとのこと。野球のユニホームまで着こなしてしまう、実はコスプレ王であることを証明。
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3位:『ゴルゴ13』(1973)
健さんがモデルといわれるデューク東郷が主人公の人気漫画を実写化。しゃれのわかる人物であったことがよくわかる。作品的にもまだ自由な雰囲気あふれていたイランで撮影と、貴重な映像資料でもある。デュークだけに珍しく健さんの濡れ場もアリ。
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価格:4,500円+税
販売元:東映
発売元:東映ビデオ
●プロフィール
映画ジャーナリスト。「デイリースポーツonline」「47NEWS花まるシネマ」「GISELe(ジゼル)」「週刊女性」などで執筆中。三池崇史、キム・ギドクら鬼畜系監督映画とゲイリー・オールドマンらオヤジ俳優映画が好き。
森直人
初めての高倉健映画:『夜叉』(1985)
中学か高校の頃、ビートたけし目当てでテレビ放送を観たことを記憶しています。当時10代の自分にとって、健さんは「かっこいい」というより、ちょっと怖いくらいの重みや深みを持った大人のイメージ。これ以前の出演作を追体験していったのはハタチを過ぎてからです。
ベスト3
1位:『冬の華』(1978)
健さんにとって『幸福の黄色いハンカチ』らと並ぶキャリア後期の幕開けに位置する名作。出所してきたばかりの無骨なヤクザが、自分が殺した男の娘を「あしながおじさん」的に見守る。まさに「不器用ですから……」(日本生命CM)の名フレーズそのままのキャラクター。作風は降旗康男監督のフランス映画趣味が最もよく生きたもので、ジャン・ギャバン主演の映画をクロード・ルルーシュ監督が撮ったような。ちなみに海辺のシーンなど、北野武監督の『HANA-BI』(1997)はこの作品の影響が強いのではないかと勝手に思っています。
2位:『昭和残侠伝 死んで貰います』(1970)
コミカルな味わいのある『網走番外地』シリーズも大好きなんですが、やはりストイックな任侠(にんきょう)映画から1本挙げたいなと思い、『昭和残侠伝』シリーズの中でとりわけ印象の強かった第7作を。活劇俳優としての健さんが鮮烈にスパークするキレキレの傑作。
3位:『狼と豚と人間』(1964)
偏愛している初期の怪作。スラム出身のアウトロー3兄弟を三國連太郎さん、北大路欣也さんと共に演じる健さん。ザラザラしたモノクロ画面にたたきつけられる、若き日の深作欣二監督によるギラギラしたハングリー精神と破壊的なエネルギーがたまらないです。
●プロフィール
映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ 廃墟のなかの子供たち』(フィルムアート社)など。「朝日新聞」「週刊文春」「TV Bros.」「週刊プレイボーイ」ほかで定期的に執筆中。今年のマイベストワンは『6才のボクが、大人になるまで。』です。