『くるみ割り人形』有村架純&松坂桃李 単独インタビュー
熱い監督と一緒に作り上げた「かわいい」世界観
取材・文:高山亜紀 写真:奥山智明
1979年製作の人形アニメーション『くるみ割り人形』をアーティスト、増田セバスチャンがリ・クリエイト。アナログとデジタルが見事に融合した、摩訶(まか)不思議極彩色ミュージカルエンターテインメントに生まれ変わった。主人公、クララの声を担当した有村架純と、彼女が慕ういとこのフリッツ、そして彼とうり二つの若き将校・フランツの2役の声を担当した松坂桃李が、人形アニメーションならではの声優の難しさを明かした。
アトラクションのように楽しいエンターテインメント
Q:作品をご覧になった感想をお聞かせください。
有村架純(以下、有村):わたしは観た途端、自分もその世界に一瞬にして巻き込まれたような感覚になりました。まるで、アトラクションに乗ったような気分でした。たった1本の映画の中にものすごい量の、さまざまな感情が渦巻いていて、風が一瞬で駆け抜けていったような感じでした。
松坂桃李(以下、松坂):こんなに映像がきれいなのかとびっくりしました。監督がこだわっていたかいがあって、人形にちゃんと命が吹き込まれていましたね。しかも、旧作『くるみ割り人形』の持っていた温かみがしっかりと受け継がれていたので、何だか作品に包み込まれたような、温かな気持ちになりました。
Q:今回のクララ、フリッツそしてフランツにはどういったイメージで声を当てていましたか。
有村:わたしが最初にイメージしていたクララと、監督のイメージしていたものに差があって、その差を埋めるのに2時間くらい稽古をしました。一番いいと思えるクララの声が見つかるまで、監督も一緒に探してくださったのですが、なかなか自分では「これで大丈夫なのかな?」という戸惑いがぬぐい切れなくて。最終的には監督の「大丈夫! OK!」という言葉を信じて、どうにか乗り切ることができました。
松坂:監督から、「舞台のように誇張しながらも、その中に優しさと強さを感じられるように」と言われていたので、そう意識しました。また、監督が「若くたくましい将校」のイメージを明確に持っていらしたので、そこを目指して、なるべく若々しい声を出すようにしました。僕は有村さんと比べて分量も少ないせいか、リハーサルなしで、いきなりブースに放り込まれたので、やりながら、合わせていく感じでした。
二人もびっくりした監督の熱血演出法!
Q:熱いこだわりを感じさせる監督ですよね。
有村:自分のこだわりを持っていらっしゃる方だからこそ、こういった作品ができるのだと思います。本当にこの作品には、増田セバスチャンさんの世界観がいっぱい詰め込まれていると思います。
松坂:監督の中にすでにビジョンが出来上がっているのだろうなというのは、すごく感じました。
Q:監督自ら、ブースの中に一緒に入って演出をされたとか?
松坂:そういうことって、なかなかないですよね。僕もこれまで何回か、声の仕事をやらせていただいたことがあるのですが、監督自らブースに来て、実際に「こういう感じで」と実演することは、あまり経験がなかったので、ちょっと面白かったです(笑)。
有村:映画を監督されるのが初めてだったそうで、「一緒にやっていこう」というスタンスがすごくうれしかったです。わたしもそんなに経験豊富ではなかったので、安心してできました。
Q:監督のことで、印象的だった言葉やエピソードはありますか。
有村:いろいろ模索していく中で混乱して、「ちょっと整理してもいいですか」とリハーサルを30分くらい中断したことがあったんです。もやもやしたままやるのは嫌だったとはいえ、ご迷惑をお掛けしてしまったんですが、監督が最後に「有村さんもクララと一緒に旅をしていたんじゃない?」と声を掛けてくださったんです。迷ったりしたことは結果的に決して無駄じゃなかったと、その一言に救われました。
松坂:僕はそんなすてきな言葉をもらっていないなぁ(笑)。監督はシーンごとにブースに来て、「いいね! 次はこういうのもやってみようか!」と、その場で一度確認するんです。それを何度か繰り返していったのですが、毎回、毎回、監督がトコトコとブースにやって来る姿がとてもいとおしくて、それが忘れられないですね。とても親身になって、受け止めてくれる方なんだなと心強かったです。
今も昔も変わらないのは作品への熱い思い
Q:アフレコ経験があっても、人形は特に難しそうですね。
松坂:今のアニメーションって、とてもリアルに作られているので、口の動きや、顔の表情一つとっても、感情がわかりやすいんです。でも、人形となると、ある程度、動作に制約があるので、ちょっとした動きも見落とせない。例えば目の動きなどにも、心の変化があるので、自分の想像をより一層、膨らませないといけないのだなと思いました。
有村:わたしもそれはすごく感じました。人形だと口の動きもわかりにくいんです。同じ声の表現でも作品によって、全然違うんだなと実感しました。
Q:オリジナルが35年前の作品と聞いて、どう思いましたか。
松坂:今回も監督は相当こだわって、追撮されたりしているそうですが、当時なんてもっと大変だったと思います。1個、1個、人形を作るにも、動かすにも、カメラに収めるにも何でも全て。当時の人たちの熱い思いが細部にまで込められた作品だからこそ、監督もそれに負けじとたくさんの仕掛けを施したのだと思うんです。そういう意味では今も昔も作品に対する、愛情の注ぎ方というのは変わらないのだなと思いました。
有村:松坂さんのおっしゃる通り、昔の作品を観ると、すごく長い時間をかけて、作品を1本撮る印象があります。しかも、今みたいに技術が発達していないから、例えばビンタするお芝居でもふりではなく、本気でビンタしていたりしますよね。そういうふうに思い切り体で表現するような芝居に憧れます。魂を込める芝居をもっとやってみたいなと思いました。
幼い頃に観ていた思い出の作品は、ちょっと意外!?
Q:監督はオリジナル作品を実際に35年前、劇場で観たそうですが、お二人が今でも鮮明に覚えている、幼い頃に観た作品はありますか。
有村:わたしは「トム・ソーヤの冒険」をよく観ていました。そこに出てくる洞窟が実際にあって、観光地になっているんです。いつか、そこに行ってみたいです(笑)。
松坂:僕は何だろうなぁ……。あ、「たこやきマントマン」ってご存じですか?
有村:知っています、知っています!
松坂:知っている? すごい! 懐かしいなぁ。あれは子供ながらに斬新でしたね。いわゆる、たこ焼きの戦隊ヒーローなんです。たこ焼きが動くんだっていうあの衝撃が忘れられないですね。すごく好きだったわけではないんですが、今パッと出てきたのがそれでした(笑)。
Q:監督はかわいさにこだわって作品を仕上げたと思いますが、お二人が「かわいい」と思った箇所は?
松坂:人形1個1個、それからネズミがかわいいですね。特にネズミの兵士たちの動きがとてもかわいいんですよ。「パッ、パッ、パッ」みたいな。ああいう人形劇ならではの動きが監督の言う「かわいい」に当てはまるのかもしれないですね。僕はそこがすごくいいなと思いました。
有村:わたしはクララの目から涙が出るところです。いとおしくなって、かわいいなと思いました。クララという女の子が一つの旅を終えて、少女からちょっと大人の女性へと成長する。自分自身もやりながら、そんな気持ちになっていたと思います。すごくいい経験になりました。
松坂:声優の仕事では、頼れるものは声しかないので、自分の声のコントロールがいかに大事か、それがいかに芝居に影響するかということにいつも気付かされます。どんな声なら、感情が伝わるのか。抑揚をつけたり、声色を変えたり、ドスを利かせたり、あるいは静かに話すのか。ちょっとした技術で感情の揺れ幅を左右してくる。とても勉強になりますね。
二人の話を聞いているだけで、増田セバスチャンがこの作品に懸けた、熱い思いと膨大な時間と手間が容易に想像できる。そして、その熱意にしっかり応えようと、クララ同様、少女から大人に成長した有村架純と、若くたくましい青年であり続けた松坂桃李。見事、二人が命を吹き込んだ映像の基は彼らが生まれてもいない35年前のもの。先人たちはすっかり新しく生まれ変わったこの極彩色ファンタジーを、いったいどのように受け止めるだろう。
映画『くるみ割り人形』は3D/2D同時公開中