『ザ・レイド GOKUDO』イコ・ウワイス&松田龍平&遠藤憲一&北村一輝 単独インタビュー
未経験ゾーンに突入した壮絶アクションの現場
取材・文:シネマトゥデイ森田真帆 写真:奥山智明
SWAT部隊とギャングの抗争を、東南アジアの伝統的な格闘術シラットをベースにしたノンストップアクションで描き世界中の映画ファンを熱狂させたギャレス・エヴァンス監督作『ザ・レイド』の続編『ザ・レイド GOKUDO』。日本映画が大好きだというエヴァンス監督からの熱い出演オファーに応え本作に参加した松田龍平、遠藤憲一、北村一輝が、前作に続き、激しくも美しい戦いを見せた主演のイコ・ウワイスと共に本作の魅力を語った。
日本人キャスト驚がく!7か月に及ぶ撮影期間!
Q:本作はとても長い時間をかけて完成したと伺いました。主演のイコさんはどのくらいの期間、撮影に参加されていたんですか?
イコ・ウワイス(以下、イコ):撮影そのものは7か月間です。あとはアクションの振り付けやトレーニングも入れたら1年以上はかけました。
遠藤憲一(以下、遠藤):7か月って、未経験ゾーンだね……。
北村一輝(以下、北村):撮影だけで7か月はなかなかないですね。
松田龍平(以下、松田):日本だと撮影にかける期間はだいたい1か月から2か月だから……絶対に不可能ですね。
遠藤:刑務所の運動場で展開する泥だらけの乱闘シーン、あの撮影だけで8日間かけて撮影したってさっき聞いたんですよ。もうびっくりしちゃって。しかも、朝の8時から次の日の朝6時まで撮っていたって! すごすぎるでしょ。
北村:でも、7か月じっくり撮影ができるというのは、それだけの間、作品にも自分の役柄にも関われるということだからね。時間をかければいいってものじゃないけれけど、たぶん、演技にしても面白いものが出てきそうな気がするから俺はやってみたいかな。
遠藤:1冊の台本に1年ちょっとかけるなんて、普通はできないからね。確かにやってみたい。
松田:(連続)ドラマの撮影ですよね。朝ドラとか大河とか……。でも出来上がりは2時間半だから、相当カットされたんでしょうね。イコは特にそうだったかも。
イコ:確かに、尺の問題がありましたから結構カットはされています。
大迫力のアクションシーン!だけどケガ人ゼロ!
Q:実際に映画を観た印象はいかがでしたか? 特に日本人キャストの皆さんは、完成して初めて、出演されたシーン以外の場面を観られたということですが。
遠藤:初めて観たときに頭に浮かんだのが、何人くらいケガをしたんだろうってことだった。だって、誰かを投げ飛ばすシーン一つとっても、わざわざ硬そうなテーブルの上にバーンって投げ付けるんだもん! あえて何かの角にぶつけたり、痛いようにたたきのめすでしょ。だけど、イコに撮影中どのくらいケガ人が出たのか聞いたら、みんな擦り傷くらいで、ほとんどケガをしなかったっていうからびっくりしちゃって。
イコ:ケガ人はほとんど出ませんでした。青あざができたことはありましたけど(笑)。
北村:でも遠藤さん、たぶんイコの中のケガと、僕らが思っているケガはレベルが違うと思いますよ。あばら骨が折れたくらいじゃ、ケガのうちに入らないんじゃないかな。
松田:自分が出演している映画って、普段はあまり客観的に観られないんだけど、この作品はすごく楽しめましたね。自分も映画でアクションをしたことがあるからわかるんですが、一瞬で終わるシーンも実はものすごく時間をかけて撮影しているものなんです。だから、さっき遠藤さんが挙げた泥の中の戦いも、観ているだけで相当大変だったんだろうなって、感じられました。
北村:エヴァンス監督は、アクションも撮影の仕方も、すごく計算されていますよね。カーアクションのカメラワークも素晴らしいし。僕、撮影の合間にイコのアクションシーンをのぞきに行きましたが、日本だったら絶対にOKが出るだろうなと思うカットでも、エヴァンス監督は何テイクも撮っていましたね。そのたびに全く同じ間で、同じ高さにキックするなんてことは素人にはできないことなんです。だからイコも、カメラが回る前にものすごく集中していて。あそこまで気合を入れないと、あれだけのアクションはできないんだと思いましたね。
ノーCGノーワイヤー!イコの根性に感服!
Q:皆さんがおっしゃる通り、イコさんのアクションは本当に素晴らしくて、正直なところCGを使っていないというのが信じられないくらいでした。
イコ:CGはもちろん、カメラワークで動きを速く見せるような細工もしていません。それによくワイヤーアクションについても聞かれるのですが、僕はワイヤーも本作では一切使っていないんです。
遠藤:あの速さだから、相手として絡むのは本当に厳しいものがあるよね。もし続編があって、アクションもやるってことになったら、俺は銃か刀でしか太刀打ちできない。あと劇中、イコが壁をものすごい勢いで殴るシーンがあったでしょ。あれって、本気で殴っているの? やっぱり壁がすごく柔らかかったりするものなの?
イコ:あれは本当に硬い壁なんです(笑)。あのシーンもCGで加工しているのかって言われるんですが、特に早送りをしているわけでもなく、あのままのスピードで壁にパンチをしていました。
遠藤:ウソだろ!?
松田:それは痛そうですね。
イコ:普通のことですよ。
北村:ほら、やっぱり痛みの基準がおかしい!
遠藤からの素朴すぎる質問に、一同爆笑!
Q:日本人キャストは、松田さん、遠藤さん、北村さんだけでした。皆さんが演じられた「後藤組」の雰囲気はいかがでしたか?
遠藤:みんなシンプルに、日本の映画の現場でやっている演技をジャカルタでもやっていたから、すごく演じやすかったよ。日本の組事務所のセットにしても、正直最初に入ったとき、ずいぶんこざっぱりしているんだなあって思ったけれど、実際、ヤクザの事務所って、たぶんあんなふうに殺風景なはずなんだよね。もしあれ以上手をかけてしまうと、今度はチャイニーズマフィアの事務所みたいになっちゃう。だから、今思い返すと正しい美術だったなって。
北村:それに、どんなにシンプルなセットでも、遠藤さんがいるだけで十分極道の事務所ですよ。顔が怖すぎるから(笑)。
松田:僕もそれは思いました(笑)。映画を観て、遠藤さんの存在感は、さすがだなって。
イコ:遠藤さんの演じられた後藤組長は本当に怖くて、一部の現地スタッフはみんな本気で怖がっていましたよね。僕は良い映画も悪い映画も、結局はキャラクター次第だと思っているんです。「後藤組」の皆さんは、この映画を本当に素晴らしいものにしてくれたと思います。
遠藤:そういえばさ、刑務所でイコがご飯を食べるシーンでね、左手でご飯をガーッて食べている途中で、右手に持っている食べ物を、すっごくソフトに優しく口にするんだけど、あれは何? おいしかったの? 柔らかいの?
北村:何ですか、その質問は!
松田:柔らかさを感じていたんじゃないですか?
遠藤:そういうことじゃなくて、あの食べ物の存在自体が気になる!
イコ:あれは大豆の発酵食品です。あのシーンは、ずっとセリフのことを考えていたので……。たしかご飯を食べた後に、それを味わいながら、この次のセリフは何て言うんだっけ? って考えていたんだと思います。
松田:でも、確かにイコのあの食べ方は優しかったな。
遠藤:そうなんだよ、妙に優しいんだよ! でもライスを食べるときはすっごく速いの! あそこ、もう1回観てみよう!
突然飛び出した後藤組長こと遠藤の質問に、一同は大爆笑。イコいわく、日本人キャストたちは全員、エヴァンス監督に借りていた出演作から受けた印象と百八十度違ってフレンドリーだったため、逆に驚いてしまったのだそう。それでも、カメラの前に立てば焼け付くような殺気を放つ遠藤、クールなその息子役の松田、そしてそんな二人を冷静に見守る北村と、後藤組の面々がスクリーンに登場するたびに映画にピリッとした緊張が走る。国境を超えて一本の作品に情熱を注いだ四人の表情には、本作に対する誇りがみなぎっていた。
(C) 2013 PT Merantau Films
映画『ザ・レイド GOKUDO』は全国公開中