『バンクーバーの朝日』妻夫木聡&勝地涼&池松壮亮 単独インタビュー
野球が好きという気持ちが作り上げた作品
取材・文:須永貴子 写真:高野広美
戦前、カナダ・バンクーバーに実在した野球チーム「バンクーバー朝日」。若き実力派・石井裕也監督が『ぼくたちの家族』に続いて妻夫木聡を主演に迎え、日系2世の青年たちが野球を通して生きる希望を見いだし、人間の尊厳を獲得していく感動作を作り上げた。「バンクーバー朝日」のメンバーを演じた妻夫木、勝地涼、池松壮亮らが、野球を通じて生まれたチームワーク、栃木県足利市に作ったオープンセットでの撮影についてなど語り合う。
野球初心者・妻夫木の上達に一同感心
Q:それぞれの役をどのように解釈して演じましたか?
妻夫木聡(以下、妻夫木):レジーは心の中にふつふつと燃え上がるものはあるけれど、いろいろな理由からそれをうまく表現できない男なんです。日本人的なものを物語る存在であり、「こういう人間だ」みたいなはっきりした輪郭がないように思ったので、最後までいい意味で悩みながらやりました。ケイ(勝地涼)は監督から「盛り上げ役をしてほしい」って言われていたよね。
勝地涼(以下、勝地):「ケイにかかっているからな」ってプレッシャーもかけられて「怖い!!」って(笑)。まだそれほどチーム内のコミュニケーションが取れていなかったころ、合宿でみんなと一緒に練習したんです。あのとき、(池松)壮亮がすごく声を出してくれて、「よし! 俺も頑張ろう!」って思ったのを覚えています。ケイは、ずーっと不満があって、小心者のところもある。でも、どこかに熱いものはあると思って演じていました。
池松壮亮(以下、池松):僕自身は特に何もやっていないんですけど、みんなと一緒にいいチームを作ることに気持ちが向かっていた気がします。
Q:だから合宿で声を出したんですか?
池松:昔野球をやっていたので、癖というか、条件反射です(笑)。
Q:妻夫木さんは野球がほぼ初心者とのことですが、経験者のお二人から見て、上達具合はいかがでした?
勝地:最初はそうですねぇ……不安でしたよ。
妻夫木:アハハハハ(笑)!
勝地:僕もブランクがあったから、思ったほど動けなくて「やばい!」と思って、一緒に練習していたんですけど、妻夫木くんはどんどんうまくなっていきましたね。野球経験があれば、過去に付いた癖とか型に戻るだけだけど、何も経験がないのにあそこまで上達したのはすごいと思います。
池松:1年くらい前、『ぼくたちの家族』の撮影中に初めてキャッチボールをしたときは、それはもうド素人な感じでしたけど(笑)、今回は日々進化する感じがすごかったです。
妻夫木:最初は焦っていましたね。暇さえあれば練習しなきゃと思いつつ、ケガをしたら元も子もないので、バランスを見てはいたんですけど、合宿中にケガをして、野球ができなくなってしまって。あのとき、心から「野球やりてぇなー!」って思ったんです。うまくならなきゃという気持ちよりも、自分が野球を好きな気持ちの方が大きくなっていることが、なんかうれしかったんですよね。ケガをして落ち込んだけど、野球を楽しむ方向に吹っ切れた。野球との距離感が縮まった出来事でした。
合宿と飲みが作り上げたチームワーク
Q:「バンクーバー朝日」としてチームワークが良くなったのはいつごろですか?
妻夫木:合宿が大きかったよね。
勝地:ですね。
妻夫木:最初は個々で、たまにチーム内でスケジュールが合う人と2~3人で練習していたんですけど、僕は全員で合宿がしたいとお願いしていて。それが1泊2日で実現して、その夜に初めてみんなで飲みました。
勝地:学校で新しいクラスが始まったときの探り合うみたいな時間を過ごせたことで、すごく仲良くなれたんだと思います。クランクインしてから、雪で撮影が中止になった日があったんですが、その日に集まって飲めたのも良かったですね。
池松:撮影以外の時間も暇さえあれば一緒にいようとする空気がありました。「今日はどこに飯食いに行く?」「明日は?」といったやりとりも楽しかったです。撮影中、手の空いている人たちでお店を探して、撮影が終わったときに全員にお店を発表するんです。日に日に自然とチームになっていましたね。
Q:亀梨和也さんと上地雄輔さんは、チーム内でどんな立ち位置でしたか?
妻夫木:カメ(亀梨)が演じたロイは一匹オオカミで、チームからちょっと浮いた存在なんです。カメ自身にも妙な孤独感があって、優しくていいやつなんだけど、ロイに通じる雰囲気を持っている気がしました。それは、KAT-TUNというグループを背負っていることとか、それまでの人生で積み重なったものだと思うんですけど、それがうまいことロイと重なり合っていたし、ラストで見せる彼の笑顔が素晴らしかったと思います。
勝地:雄ちゃん(上地)は、実際に経験者だけあって、まさにキャッチャーですね。冗談でみんなを盛り上げる一方で、一歩引いた感じもある。一番お兄さん的な感じでした。
池松:二人(妻夫木と勝地)にも、ポジション的な資質があると思います。うまく説明できないけど、勝地さんみたいな感じのセカンドいますよね。
勝地:セカンドってちょこまかしたイメージだよね(笑)。
思い出深いのは野球絡みのシーン
Q:好きなシーンや大変だったシーンを教えてください。
勝地:ゲッツーのシーンは、申し訳ないくらいミスりました。
妻夫木:僕のカットが撮れていても、石井監督は実際にゲッツーとして成功しないとOKを出さなかったんです。
勝地:自分にカメラが向いた瞬間、「どうやって動けばいいんだっけ?」という状態になって、一塁に投げるのがすごく怖くなってしまったんです。実際に緊張しているケイが映っていると思います(笑)。
妻夫木:あのシーンの“リアルな”ケイだよね。
勝地:作品を観て「いいなあ」と思ったのは、たぶんアドリブなんですけど、レジーが「右足からかなー」って独り言を言いながらバントの練習をするシーンで、その姿が魅力的なんです。それを気に掛けないロイとの二人の空気が、すごく好きです。
池松:フランクが出場していないシーンの撮影は球場の外から声だけ聞いていたんです。みんなに僕の顔が見えてもおかしいと思って。あのとき、試合に出ているみんなを「いいなあ」って思った感覚はすごくよく覚えていますね。
妻夫木:レジーたちにとって唯一の救い、生きる糧となったものが野球だと思うんです。だから、「俺、野球やれるんだったら生まれてきてよかったな」っていうセリフは本心だと思うし、一番響きました。
幸福でぜいたくな撮影体験
Q:メンバー全員の前で、レジーの妹エミー(高畑充希)が、「私を野球に連れてって」を歌うシーンが感動的でした。
妻夫木:あれはやばかったなー。俺らもちょっと泣いていたもんな。
勝地:ケイはキャラクター的に泣いちゃダメなのに、我慢できなくて泣いちゃっていました(笑)。
Q:カメラに背中を向けている人を含めて、あの空間全体を切り取る撮り方が印象的でした。
妻夫木:石井監督は、役者の感情を切らせたくないんだと思います。重要なシーンは、そこでの空気を大事にするために、基本長回しで撮っているんです。
Q:オープンセット、照明、衣装。ディテールが作り上げる空間が演技者に与える効果も大きかったのではないでしょうか。
妻夫木:本当に素晴らしいオープンセットでした。バンクーバーで日本人街跡に行ったんですけど、水はけが悪くてちょっと濡れた感じとか、ゴミが端っこにたまっている感じとか、ボコボコの地面とか、そっくりでした。セットはそのくらいすごくリアルだったんです。リアルを生かしながら、僕らなりのバンクーバーをちゃんと描けていたんじゃないかなと思います。
勝地:360度見渡してセットという環境は、幸せだけどプレッシャーでもありました。歩くだけのシーンでも石井監督にすごく細かく注意されましたし、緊張したり、ワクワクしたり、たまらない現場でした。
池松:ぜいたくですよね。本当に幸せでした。
劇中でキャプテンのレジーを演じた妻夫木が勝地や池松に話を振りながら、終始和やかに進んだインタビュー。バンクーバー国際映画祭に出席した際に訪れた日本人街跡や、実在の「バンクーバー朝日」のユニフォームを目にした妻夫木の話に、二人が興味深そうに耳を傾ける一幕も。本作ですっかり野球にはまった妻夫木が「でも34歳で野球始める人なんていないでしょー」と発言すると、勝地&池松が「いるよ(笑)!」と即答し背中を押す。そんなやりとりからも彼らのチームワークの良さがうかがえた。
(C) 2014「バンクーバーの朝日」製作委員会
映画『バンクーバーの朝日』は12月20日より全国公開