『96時間/レクイエム』リーアム・ニーソン 単独インタビュー
名優が演じる最後のスーパーダディー
取材・文:山口ゆかり
元CIA工作員としてのスキルを駆使し、愛する家族のためなら容赦なく相手をなぎ倒す父親の姿を描いて大ヒットとなった第1弾『96時間』(2008)。その勢いが第2弾『96時間/リベンジ』(2012)へと続いた人気アクションシリーズも、いよいよ本作『96時間/レクイエム』で幕を閉じる。製作・脚本のリュック・ベッソンと3度目のタッグを組み、“無敵の父親”ブライアン・ミルズを演じたリーアム・ニーソンに話を聞いた。ブライアンとは真逆のようで重なるリーアムの素顔とは?
追う者から追われる者に
Q:本作のオープニングは、シリーズ前2作とは違って家族の誘拐からではないのですね。意外でショッキングな展開でした。
とても良い、しっかりしたストーリー展開だね。同じことばかりしているのは観客に対する侮辱でもある。幸運にも脚本家のリュック・ベッソンとロバート・マーク・ケイメンも同じように考えていた。特に、ブライアンに対する刑事役には、どっしりした役者が必要だった。彼を演じたフォレスト・ウィテカーは素晴らしいよ。
Q:これまでは追う者だったのが、今回は警察から追われる身になります。それは気に入っていますか?
うまい設定だと思うね。ひねりがあるよ。それでも、これまでの追う者としてのスキルを使うのは一緒だ。何しろ、親しんだ(映画製作)チームとやることだしね。チームにはイスラエル・スペシャル・フォース(イスラエル国防軍の特殊部隊)出身者もいるんだよ。そのすごいスキルを使うのは変わらない。
Q:これまで守ってきた元妻レノーア(ファムケ・ヤンセン)が殺されるところから、容疑者として追われる展開となりますね。脚本でレノーアの死を知ったときはどう思われましたか?
話の組み立て上、しょうがないよね。『96時間/リベンジ』から続けるには、何か深刻なことでなくてはいけない。でも、ここであまりストーリーを明かしたくはないな。ミステリーの部分を残しておきたいから。まあ、予告編でわかっちゃうんだけどね。「おおっ、彼女、死んじゃったよ!」とか、映画を観る前からだいぶ知られちゃうんだから(笑)。
ビデオ公開と思ったら、まさかのシリーズ化
Q:圧倒的なスキルを持った主人公が活躍する『96時間』シリーズは、『007』シリーズと似たところがあります。かつて『007』のオーディションを受けたというのは本当ですか?
いやいや、オーディションは受けていないんだ。『シンドラーのリスト』(1993)の後で、ジョディ・フォスターとノースカロライナにいたころ(『ネル』撮影時)だった。『007』の方から電話がきて「興味ありますか?」と言うから、「もちろん、あります」と答えたよ。今思うと、たくさんの人にそうやって電話していたんじゃないかな。
Q:そこで話が進まなかったおかげで、『96時間』に参加する時間もとれて大ヒットシリーズになりましたし、ほかの素晴らしい映画にも出演することができたわけです。かえって良かったと思いますか?
でも、オファーがあっても、ボンドはやらなかったと思うよ。
Q:なぜですか?
ショーン・コネリーがあれほど素晴らしいボンドをやっているんだよ。自分自身のボンドがうまくいくかは疑問だね。その役を生きなくてはいけない。もし、やれと言われていたら、そこは真剣に考えなくてはならない。
Q:でも、結果的に似たタイプのブライアン・ミルズを演じ続けることになりましたね?
最初はこぢんまりした映画の話だったんだよ。シリーズになるとも思わなかったしね。劇場公開じゃなく、最初からビデオとかになると思ったくらいさ。小さなヨーロッパスリラー、とてもシンプルなストーリー。そしたら20世紀フォックスがやることになって、こうなったんだよ。
Q:どんな人が観ていると思いますか?
たくさんの女の子と、たくさんの父親(笑)。
ブライアンとは違うリーアムの素顔
Q:ブライアンは家族を守る男らしい父親ですが、昨今の父親に求められる役割は変わったと思いますか?
根本のところでは変わっていないのではないかな。夫であれ、ボーイフレンドであれ、パートナー、家族に真摯(しんし)に向き合い、リスペクトすること。例えば、男同士、女同士で結婚ということでも、それは変わらないと思う。
Q:ブライアンは敵をバッタバッタとなぎ倒しますが、あなたは暴力反対で、銃規制の活動家でもありますよね。
僕は今ではアメリカ国籍だけど、アメリカではいつも学校で誰かが変になって銃を撃ちまくって子供たちが死んでいる。何とかしなくてはいけない。
Q:ブライアンと違うといえば、あなたは高い所が苦手で、テクノロジーも苦手だそうですね。
苦手だねえ(笑)。今時はオンラインでショッキングなイメージがどんどん流れてくるしね。何か対策を講じるべきだよ。スティーブ・ジョブズの最後の言葉を知っている? 病室のベッドに横たわって「ワァオ」と言ったそうだ。何が見えていたのかわからないけど、スクリーンを見ていたんじゃないよ。僕らが彼の作ったiPhoneに「ワァオ」と言っているときに、彼は全く別のものに「ワァオ」と言っていた。最高だね。
『96時間』シリーズの魅力の一つが主人公ブライアン・ミルズの無敵な強さ。家族を守るためなら銃をぶっ放し、爆弾を仕掛けることもいとわず、最新テクノロジーを駆使して敵の裏をかく姿には、快哉(かいさい)を叫ばずにはいられない。そのブライアンを演じたリーアムが、実は銃規制活動家でテクノロジーは苦手と正反対。だが、そんなブライアンを演じ切り、次はマーティン・スコセッシ監督が遠藤周作の「沈黙」を映画化する『サイレンス(原題) / Silence』の神父役が控えている。さまざまな役を印象深くつくり上げていくプロフェッショナルな姿勢はブライアンとの共通項といえそうだ。
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映画『96時間/レクイエム』は1月9日よりTOHOシネマズ日劇ほかにて全国公開