読み物連載第2回 あいつらが帰ってきた! 3年の時を経て、団地の少年たちはいま…!?【5人の俳優が12年間同じ役を演じ続けた!】『ピカ☆☆ンチ LIFE IS HARD だから HAPPY』
団地の少年たちが
青年になるまで
それぞれの5つの青春物語
東京最後のマンモス団地、品川区の離島「八塩団地」に育った5人の少年たち。くだらないことをダラダラと一緒に楽しむ最高の仲間だった。やがて高校卒業を迎えた5人は、屋形船襲撃事件を最後のメモリアルとして、それぞれの道を歩き始めた。
大学受験に再チャレンジするシュン、板前修業の道に進んだボン、地元スーパーに就職を決めたハル、八塩限定暴走族「鮫洲一家」を一時解散したチュウ、そして、カリフォルニアへと旅立ったタクマ。これまでみたいに一緒にはいられなくても、絆は途切れない。根拠もなく、それを信じていた。……あれから3年。
突如、スケボーに乗った人影が八塩の街を横切る。そう、タクマが帰って来たのだ。はしゃいでタクマを迎えるハル、シュン、チュウ。だが、そこに、ボンの姿はなかった。実は、八塩の地に超高層ビル「八塩ヒルズ」の建設計画が持ち上がり、その是非を巡ってボンだけ意見が対立し、仲間割れしてしまったのだ。
バラバラに過ごしていた3年の間に、各々が少しずつ大人になり、以前のような関係ではいられなくなっていた。そして、現在の八塩団地は、八塩ヒルズの建設を推進する自治体と、反対派の住民グループ“八塩ピース”の間で、激しい戦いが繰り広げられている。大きな変革期を迎えた八塩団地と、人生の岐路に立った5人は、またひとつ大きな波を越えなければならないことになる。
[前回までのお話「第1回 少年たちの物語は、東京の巨大団地から始まった!」
八塩団地の平均ランク住民が集まる普通棟に住む「平凡を絵に描いたような高校生」だったシュンは、あれから青山学園大学入学を目指して浪人生活を送っていた。
二浪の末、めでたく合格……となれば格好もついたのだが、残念ながら、またしても受験失敗。死んだ魚のような目で「もぉ…、死んじゃおっかな…」と落ち込むシュンのもとに、運命のチラシが飛んでくる。「えっ……あお……がく!?」。それこそが、葵学(あおいまなぶ)の編み物教室だった。「あおいまなぶ」=「アオいガク」=「アオガク」と勝手に脳内変換したシュンは、勢い込んで編み物教室に入学。
すると、これまで隠れていた才能が一気に開花、シュンの編み物スキルはどんどんアップしていく。葵先生直伝の「クロッシェ、クロッシェ、立ち上がりぃ」のラブリーな掛け声をモノにして、主婦たちに編み物を教える立場に。更には「SHUN MEN」という手編みブランドを設立し、いつの間にやら「八塩のニット貴公子」となっていた。
自分で編んだものしか身に付けず、常に白いニット服で全身コーデのオシャレ男に変身したのだ!シュンの父は海賊DJから出世して八塩地区のケーブルテレビに出演するキャスターになっており、今は八塩ヒルズ建設反対運動を熱く伝えている。一応、シュンも“八塩ピース”の一員だったりするけれど、どちらかと言えば「やっぱ、タクマが帰ってくるまで、あの部屋を守らなきゃ」って気持ちだけで参加したようなもの。八塩ヒルズ建設が決まったら、タクマの貧乏棟は取り壊されてしまうからだ。
軽い気持ちのシュンとは違って、ハルは異常なまでに建設反対運動にのめり込んでいる。そんなハルを心配したシュンは、八塩ヒルズにキナ臭い陰謀があることを知って“八塩ピース”の裏側を探る。だが、闇の部分に手を出したのが運の尽き……。シュンは八塩ヒルズ建設推進派に拉致されてしまった! なぜシュンが狙われたのか? それは、いつも白いニット服で目立っていたからだ。ニットの貴公子、最大のピンチ!……でも、シュンを救ったのも、またニットだった。ほつれた白い毛糸がシュンの居場所を仲間に教えてくれた。昔のようにリーゼント&特攻服に身を包んだチュウがさっそうと現れ、シュンを助け出した。
シュンはすべての陰謀を明らかにするため、チュウの原チャリの後ろに乗って八塩ヒルズ建設反対集会の会場を目指す。その姿は、3年前の青学受験の再現のようだった。チュウも当時を思い出し、「なんか俺、節目節目で、お前のこと運んでねぇ?!」。そんなこんなのイザコザを経て、やっと八塩ヒルズ建設運動には終止符が打たれたのだった。
昔ながらの八塩団地で、シュンは天職と定めた編み物を続ける。「SHUN MEN」ブランドが八塩を飛び出して全国的な人気を得る日も近い……かもしれない!?(最終回につづく)
タクマが帰ってきた時に、1人だけ会いに来なかったのがボンだ。仲間たちが八塩ヒルズ建設に反対する中、ボンは自治体の計画に賛成していた。八塩に最先端の高層ビルが出来たら、ホットな話題になる。昔から「八塩に建てるぜ、丸井メンズ館!」と発言していたボンだけに、八塩ヒルズ建設は夢のような話。
一流の料理人になってたくさんの人に自分の料理を食べてもらうためにも、八塩が賑わうのは願ったり叶ったりというワケだ。そうなればタクマの家が壊されてしまうが、「戻ってくるかどうかも分からない奴のために、これ以上、俺の時間を無駄にはできないよ」とクールに言い放つ。反発するハルを制し、「悪いな。季節が……変わったんだよ……」と、板前修業の包丁を持って鼻歌を歌いながら姿を消した。
ボンは修行先の日本全国から写真を送った。中には、あの和食の鉄人との2ショットも! さすらいの流れ板となり、現在は八丈島にいる……ことに、なっているのだがっ。実は、その話、真っ赤なウソ。本当は八塩団地のすぐ側にある料理屋に住み込みで働いていた。数々の修行写真は、PCで画像合成したもの。ケーブルテレビの中継でタクマの帰国を知るが、意地が邪魔して会いに行けない。「みんな、俺のことなんか、忘れてるんだろうなぁ…」とひっそり涙を流すだけ。ぐっすん。ホームシックで仕事に身が入らず、親方から板前としての心構えを厳しく叱責されたボンは、親方が認める出汁を取らなければ店を追い出されることになってしまった。
そんな折、客として料理屋に来た自治体の責任者と“八塩ピース”女性リーダー・辻風真澄の密会を目撃したボンは、八塩ヒルズ建設の裏側に恐るべき陰謀が隠されていることを知る。ボンは「どうしよ……。俺、八丈島にいることになってるから…」と、仲間に情報を伝えられず、ヤキモキするばかり。たまたま真澄の後をつけてきたシュンとタクマにばったり出くわし、やっと再会を果たせた。今まで送っていた手紙の消印も、ぜんぶ大崎だったことがバレる。「ほんっと、スンマソン!……でも、寂しかった」。ボンは素直な気持ちを打ち明け、友情復活。“八塩ピース”に利用されているハルを救うべく、大切な出汁試験を放り出してまで駆け付ける。理由はひとつ、「あいつらの笑顔が見たい」から。そして、ボンが撮影した徹底的証拠が八塩ヒルズの陰謀を暴き、ハルを助けることが出来た。ボンを裏切者呼ばわりしていたハルの携帯に、今も自分の番号が生きていたことを知って、ボンは温かな気持ちになるのだった。
迷いが晴れたボンは親方の出汁試験にも合格し、板前として更なる修業に励むことになる。ちょっと以前と違うのは、八塩団地に戻って来たこと。やっぱり、地元の仲間が一番だ。めちゃめちゃ腕を磨いて、皆に美味しい料理を食べさせる。新たな目標に向かって、ボンは歩き出した。(最終回につづく)
父の自殺という悲劇から、心機一転、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスに留学していたタクマ。何の前触れもなく、いきなり八塩に戻って来た。いちばん初めにハルと再会するが、「おひさー」って温泉旅行にでも行ってたみたいな気軽さでご挨拶。以前と同じようにスケボーを華麗に操るタクマだけど、被っているヘルメットもファッションも、ちょっとアメリカナイズされている(その最先端デザインに、ハルは宇宙人と勘違いしたほど)。ソフトに逆立てた髪と鋲のついた革ジャンは、変わらない反抗心の表れか。
タクマが住んでいた貧乏棟の家は、今もそのまま。何人かの入居希望者がいたけれど、その度にシュン、ハル、ボン、チュウがあの手この手で怪奇現象を演出し、追い返していたのだ。それもすべて、タクマの居場所を守りたい一心から。あの頃の思い出グッズと『祝!COME BACK』のプレートが飾られた家を目にしたタクマは「バカヤロ……」と呟きつつ、心の中で仲間に感謝するのだった。 突然の帰国理由を聞かれると「ちょっとヤボ用・イン・ジャパン!」と誤魔化すが、なんと日本のレコード会社と契約の話が持ち上がっていた!
スケボーで対決したハリー蘭丸とカリフォルニアで仲良くなったタクマは、バンドを組んで音楽活動をしていたのだ。ただし、カバー曲ばかりで、オリジナル曲はまだないんだけど。いかにも業界人を気取ったプロデューサーは、タクマの素質を褒めるもアレコレ難癖をつけ、メンバーを替えてのデビューを提案。
インディーズで人気という中途半端なヴィジュアル系ヴォーカリストを紹介されるが、超絶にノリが合わなさそう。タクマの心はすっかり醒めてしまった。もうデビューなんて、どーでもいいや……。
シュンたちに「俺さ、もう帰るわ……USAに」と宣言した矢先、八塩ヒルズの陰謀にハルが巻き込まれていることを知ってしまう。不意に出没した父の亡霊(!)にも励まされ、タクマは大切な仲間を守るために走り出す。ハルの暴挙を阻止しようと、ステージ上で歌って時間稼ぎ。その歌こそ、八塩の絆を示すオリジナル唱歌『道』だった。
タクマが即興で2番の歌詞を作って歌うと、八塩の地に感動の波が押し寄せた! 住民たちの温かな拍手に包まれるタクマ。その歌詞に胸打たれたプロデューサーは改めてデビューを打診してくるが、タクマは「あれは、みんなの歌だから」と断ってしまう。皆で歌い継いできた八塩の魂を売り物にする気はない。だから、微塵も迷いはなかった。タクマは颯爽とスケボーに乗り、再びカリフォルニアへと旅立って行った。3年前のあの日と同じように……。またひと回り大きくなって八塩に戻ってくると、心に誓いながら。(最終回につづく)
スーパーに就職したハルは、髪をぴっちり横分けにして社会人生活を送っている。でも、いまだにお客さんの前で大きな声を出すのが恥ずかしい。おどした喋り方も相変わらずだ。そんな苦手意識も手伝って、職場を抜け出してはケーブルテレビの手伝いをしたり、八塩ヒルズ建設に反対する“八塩ピース”の活動に精を出している。仲間思いは変わらないものの、八塩ヒルズ建設に賛成したボンに対しては、「僕は絶対、許さないかんね!」と絶縁宣言。八塩を裏切った奴なんか、知らないやいっ!
団地妻・高野君江との不倫関係は、ずるずると継続中。憧れていた君江の娘・ゆかは網走の畜産大学に行ってしまい、ルクセンブルグに長期出張していた君江の夫は金髪女とデキて失踪したらしい。えっと、君江さん、「この際、ハッキリさせよ」って……、そ、そ、そういう意味デスか?! 君江の「幸せにしろよ!」プレッシャーに、戸惑うばかりのハルだった。
だが、最近のハルの心を占めているのは、「八潮のジャンヌ・ダルク」こと“八塩ピース”のカリスマ女性リーダー・辻風真澄。美しく毅然とした真澄は、ハルにとって憧れの存在だ。真澄から「私の力になってほしいんだぁ」と色仕掛けで迫られ、ハルは“八塩ピース”の幹部に昇格! 仕事も休んで、どんどん活動にのめり込んでいく。必要とされていることが、嬉しかった。タクマの家を守るために始めた反対運動だったはずが、今のハルにとって唯一の心の拠り所となっていたのだ。
シュンとタクマから活動に入れ込みすぎることを注意されても、反発を覚えるばかり。いちばん堅実に地元で社会人になったハルだからこそ、それだけ八塩を愛する気持ちが強く、割り切ることが出来ない。「みんな、そっち側の人間かよ! 大人ぶっちゃってさ!」。周りが見えなくなったハルは、八塩ヒルズ建設に反対しない者は全員が敵のように思えていた。仲間から孤立しても、ハルは八塩団地を守ろうと決意する。しかし、真澄たちは、そんなハルの純粋な気持ちを悪用しようとしていた。“八塩ピース”の破壊活動をハルに任せ、すべての罪をなすり付ける計画だ。正義の為と信じてバズーカ砲をかついだハルだったが、間一髪、タクマの歌で引き留められる。だって、八塩限定唱歌「道」は、みんなの携帯着メロで、絆の歌だもんね。
あれほど頑なに守ろうとしていた貧乏棟は騒動の末に破壊されてしまうが、なぜかハルはスッキリした気分になった。仲間たちが自分を思ってくれていたことを改めて実感し、元の優しいハルに戻ったのだった。ボンとも仲直りできて、めでたし、めでたし!
旅立つタクマを見送る時に、ハルは全員に色違いでお揃いのノートを渡した。このノートに、いろんな思いを書き連ねていこう。もう子供じゃないんだから、いつも一緒にはいられない。でも、心の中では繋がっていられるはずだから。……ハルは、そう信じている。(最終回につづく)
八塩限定の原チャリ暴走族「鮫洲一家」の第二十五代目ヘッドとしてチームを率いていたチュウだが、今ではきちんとスーツを着た家電量販店の店員になっていた。さらに、タクマに自慢げに見せたのは、1歳になる長男の写真! 「なっ、可愛くね? まだなんもしゃべれねーんだけどさっ!」とキラリ輝く白い歯で微笑むチュウに、暴走族総長時代の面影はない……。一体、何が彼を変えたのか?
それは、3年前の事件で鮫洲一家が一時解散になっていた頃のこと。川崎から流れてきた荒くれレディース軍団「鮫洲乙女塾」が八塩で幅を利かせ始めた。チュウは鮫洲一家のヘッドとして、鮫洲乙女塾リーダー・袋小路弥生とのタイマン対決に挑む。どんなに殴られても殴り返さないチュウに、最後は弥生が根負け。その時、2人はフォーリン・ラブ! すぐ同棲生活に突入すると、ヤンキーの王道で弥生が妊娠。チュウは身を固める決意をした。プロポーズの言葉は「お前の未来、俺にくれ」。
もちろん『ハイティーン・ブギ』からパクったセリフだ。こうして抗争1年・交際10か月でデキちゃった結婚したチュウは、家族のために堅気になり、真面目に働き始めた。生まれた長男には「鉄壁(てっぺき)」と名付け、一家揃って幸せ街道バク進中だぜ、ヨロシク!
頬の古傷はすっかり薄くなり、髪もサラサラで爽やか笑顔で「いらっしゃいませェ!」。営業成績は社内トップクラスで、都心の新宿店から引き抜きの話がくるほど。
その上、仕事に影響が出るとなると、八塩ヒルズ建設反対運動からも距離を置いてしまう。さらに、上司から「仕事の接待って言ったら、アレしかないでしょ」と連れて行かれたのは、屋形船乗り場だった! あれほど馬鹿にしていた屋形船。みんなでお尻ペンペンして蔑んだ屋形船。堕落した「つまらない大人」の象徴だった屋形船………。胸の内の葛藤を隠して乗船したチュウは、法被を羽織ってネクタイを頭に巻き、ビールをラッパ飲みする。だが、絶妙のバッド・タイミングで、そんな情けない姿を対岸にいたタクマ、シュン、ハルに見られていた! 帰宅したチュウは弥生と鉄壁を腕が痛くなるほど抱き締め、密かに涙を流すのだった。
それでも、チュウの芯の部分は変わっていなかった。仲間が八塩ヒルズを巡る陰謀に巻き込まれたことを知ると、原チャリで走り出す。その時、チュウに特攻服を差し出したのは、他ならぬ妻の弥生だった。髪をリーゼントに戻して「OK牧場!」。兄・かごめを筆頭に、鮫洲一家の歴代総長がチュウのもとに集合すると、一丸となって監禁されていたシュンを救い出すことに成功した。
家庭を持って大人になっても、本来の自分は見失わない。仲間との心の絆は永遠なのだ。それを再確認したチュウは、家族のために今日も家電を売っている。(文:杉浦真夕)(最終回につづく)
なお、「ピカ・ンチ LIFE IS HARD だけど HAPPY」には原作本(竹書房文庫、著:河原 雅彦)があります。今回は原作者さま、ジェイ・ストームさまの許可を得て別の著者が特別に創作させていただきました。
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「ピカ☆★☆ンチ」とは?
2002年、堤幸彦が監督を務め、嵐が主演の東京のマンモス団地を舞台にした青春映画『ピカ☆ンチ LIFE IS HARDだけどHAPPY』が劇場公開。その2年後、嵐が再び同じ役でキャラクターたちのその後を演じた『ピカ☆☆ンチ LIFE IS HARD だから HAPPY』が公開される。それからさらに10年後、30代になり青年になった彼らが再び再会する『ピカ☆★☆ンチ LIFE IS HARD たぶん HAPPY』(VD&ブルーレイは2月25日(水)発売、3月18日(水)レンタル開始)がスピンオフという位置づけで公開される。嵐の5人は12年間同じ役を演じ続けた。