ホラー嫌いでも楽しめる!ゾンビコメディー映画特集
今週のクローズアップ
とっても相性のいいゾンビ×コメディー。今週はホラーが苦手でも(きっと)楽しめるゾンビコメディーを国別に特集します。(編集部・市川遥)
イギリス:ゾンビコメディーの金字塔『ショーン・オブ・ザ・デッド』
ゾンビコメディーの金字塔といえば、ジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』3部作に多大なリスペクトをささげたエドガー・ライト監督、サイモン・ペッグ、ニック・フロストによる『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)でしょう。親友エド(ニック)といつでも一緒で怠惰な毎日を送る大人に成り切れない主人公ショーン(サイモン)が、突如としてゾンビが出現した世界で生き残るべく、エド、母親、元カノらと共になぜか行きつけのパブを目指すさまを描きます。
酔っ払いだと思ってゾンビになかなか気付かなかったり、銃社会ではないので武器はクリケットバットだったり、いいタイミングでクイーンの名曲が流れたりと笑いどころは満載ですが、生きたままゾンビに腹をかっさばかれる場面はなかなかの凄惨(せいさん)さで、かと思えば避けられない別れにうるっときたりと、ゾンビ、オマージュ、風刺、コメディー、友情、恋、家族愛をがっつり詰め込んでこの完成度の高さは、ゾンビコメディーの枠を超えた傑作といえます。
ゾンビっぽい曲を集めたサントラが名曲ぞろいなのは言わずもがな、セリフを含めた曲と曲のつなぎ方が秀逸で耳だけで映画を観ている気分に。ライト監督、サイモン、ニックが本作の前にタッグを組んだBBCのテレビドラマ「SPACED ~俺たちルームシェアリング~」(1999~2001)にも、サイモン演じる主人公がドラッグをやって寝ずにゾンビのテレビゲームをやり続けたため、周囲の人がゾンビに見えるようになってしまうというエピソードがありました。彼らのゾンビ好きは筋金入りです。
『ショーン・オブ・ザ・デッド』っぽい作品では『ロンドンゾンビ紀行』(原題:Cockneys vs Zombies)(2012)も。原題の通りコックニーたち(ロンドンの下町に暮らす人々)がゾンビに立ち向かいます。こちらは銃もアリで、元気なお年寄りたちがド派手にゾンビを撃退するさまは痛快です。
アメリカ:「半分ゾンビ」から「イケメンゾンビ」まで多種多様
ゾンビ大国アメリカはゾンビコメディーのバラエティーも豊か! 当時ゾンビ映画史上最大のヒットを記録した『ゾンビランド』(2009)は、「二度撃ちしてとどめを刺せ」「家族・友人でも容赦しない」など自ら考えたゾンビから身を守るための“32のルール”を慎重に実践して生き残った引きこもりのおたく青年コロンバス(ジェシー・アイゼンバーグ)の成長をつづったエンターテインメント作です。
そんな彼の旅の仲間となるのは、屈強な男タラハシー(ウディ・ハレルソン)、美人詐欺師姉妹(エマ・ストーン、アビゲイル・ブレスリン)という個性的な面々。タラハシーはコロンバスの頼りなさを補って余りあるタフガイぶりで、気持ちいいほどゾンビを殺しまくります。そしてビル・マーレイが最高で、間違いなく彼の代表作『ゴーストバスターズ』を見直したくなります。
『ゾンビ・ヘッズ 死にぞこないの青い春』(2011)は、生者だったときの記憶と知性をなくしていない「半分ゾンビ」の2人組を主人公にしたロードムービー。恋人にプロポーズするつもりで買った指輪を届けるため、ゾンビハンターの手をかいくぐって旅を続けるうちに自分の死の真相が明らかになっていきます。体のいろいろな部位が落下したり、ものすごく顔色が悪いのに(むしろ腐っている)普通にヒッチハイクできたりと、「半分ゾンビ」ならではのネタで笑わせます。
さらにその上を行く“ゾンビ・ミーツ・ガール”を描いてしまったのが『ウォーム・ボディーズ』(2013)です。美少女ジュリー(テリーサ・パーマー)と恋するイケメンゾンビRには『シングルマン』や『X-MEN』などの英国男子ニコラス・ホルトがふんしました。劇中、人間バージョンのRの姿も見られますが、ゾンビバージョンの方がかっこいいというのはどういうことなんでしょうか……。また、『ゾンビ・コップ』(1988)は“ゾンビvsゾンビ”を描いた異色作で、ゾンビ同士ならではといえる一切の防御なしの激しいマシンガンでの撃ち合いが楽しめます。
英米だけじゃない!世界を席巻するゾンビコメディー
ハリウッド映画の影響もあり、今世紀に入って本格的にホラー映画が作られるようになったインド映画界でついに誕生した初のゾンビコメディーが、21日よりヒューマントラストシネマ渋谷で公開予定の『インド・オブ・ザ・デッド』(2013)です。なお、インド映画ですがゾンビは踊りません。
物語は、失恋したラヴ、仕事をクビになったハルディクがパーッと気晴らしをしようと友人のバニーを巻き込み、男3人でビーチリゾート・ゴアの離島でロシアンマフィア主催のパーティーに忍び込むところからスタート。そこでお披露目された新型ドラッグは“食べた者がゾンビ化する”というとんでもない代物で、島は一夜にしてゾンビだらけに。お金がなくてドラッグを買えずにゾンビ化を免れた3人は、ホラー映画で得た心もとない知識を総動員させて島からの脱出を図ります。
きゃーきゃー言いながらゾンビと素手で戦ったり(あまり効いてない)、ゾンビ化した女の子が占拠したボートを色仕掛けで取り戻そうとしたりと、キャラが立った優しい3人組の奮闘に思わず笑顔になってしまうことは必至。“ロシアンマフィア”役で、ヒンディー語映画界の人気スターで王族の家柄でもあるサイーフ・アリー・カーンも出演しています。
カナダ産のゾンビコメディーといえば、ゾムコン社が開発した調教首輪によってゾンビを召使いやペットのように扱うようになった世界を舞台にした『ゾンビーノ』(2006)です。主人公の少年と「ファイド」と名付けられたゾンビが友情を育むも、首輪が壊れてファイドが隣のおばあちゃんを食べてしまったことから巻き起こる騒動が1950年代を思わせるカラフルな美術とファッションと共に描かれます。
オランダには、会社をクビになったポンコツ男が仲間と共に憧れの女性を救うべく立ち上がるさまを追った『ゾンビ・クエスト』(2012)があります。メインのキャラクターとなるのは移民たちで、移民ネタも笑いにしている点がオランダならでは。ちなみにここでのゾンビの血の色は緑なので、血が苦手な人でも大丈夫かもしれません。
またキューバ初のゾンビ映画となったのは、『ゾンビ革命 -フアン・オブ・ザ・デッド-』(2011)。ゾンビだらけになったハバナの町を舞台に、ゾンビ化した近親者を殺せないでいる人のための殺人代行ビジネスを始めたフアンたちの奮闘を活写します。ゾンビ発生でまずやることが金もうけというのはもちろんのこと、ゾンビを「反体制派」と呼んだり、混乱に乗じて恨んでいた人間を平然と殺したり(!)と、文化の違いも面白い作品になっています。