『ビリギャル』有村架純 インタビュー
学年ビリの金髪ギャルが1年で偏差値を40も上げて慶應義塾大学に現役合格! そんな奇跡の実話をつづった65万部突破のベストセラー小説を映画化した『ビリギャル』。本作でギャル語をさく裂させる金髪のヒロイン、さやかに成り切った有村架純が、撮影中の楽しいエピソードや知られざる苦労を振り返りながら、自身の女優としてのスタンスや、かわいらしい笑顔からは想像できない強さの秘密を熱く語った。
取材・文:イソガイマサト 写真:尾鷲陽介
Q:まずはどのようにギャルになっていったのかをお聞かせください。
動画をたくさん観ました。普通のギャルの子が街でインタビューを受けている映像や、某番組のギャルの部屋を片付けるというコーナーの動画を観て、「こういうしゃべり方をするんだ」「こういうことで盛り上がるんだ」と研究するような感じで。一人が何か言うと、他の子たちも皆同じことを言ったりするのを見て、「あるある!」とうなずくことがあったり(笑)。そういったことを取り入れていきました。
Q:坪田先生とギャル語で会話をするシーンはテンポも良くて、楽しかったですね。
あのシーンは特に練習はしなかったんですが、坪田先生役の伊藤淳史さんがいつもわたしと同じ目線でいてくれたのが大きかったですね。お芝居をご一緒するのは初めてだったんですが、不思議なことにすごく息が合って壁も感じなかったので、気持ち良くお芝居のキャッチボールをすることができました。
Q:あのシーンは“笑い”も意識しました?
さやかはヌケているところがあるから、台本を読んでいてクスッと笑っちゃう箇所が結構あるんですけど、狙って笑いを作ろうとするとダメだろうなと思っていました。彼女はいろいろなことを知らないから発言が突拍子もないんですが、本人は真面目に一生懸命話しているだけなんです。わたしは日本地図も書けるし、聖徳太子を「せいとくたこ」とも読まないわけですが、本当はできることをできないこととして演じる。しかもそれをナチュラルに表現するのは難しかったです。
Q:以前、「さやかは自分の好きなこと、やりたいことにただ没頭しているだけ。その根本のところをつかめないとこの役は生きてこない」とおっしゃっていましたが、有村さんがそのことに気付いたのはいつですか?
クランクインの前日です。というか、あと数時間でクランクインなのに、さやかという女の子が本当にわからなくて。「ギャル」という言葉も邪魔していたし、取り入れないといけないと思う要素がいっぱいあるけれど、別にそんなことを考えなくてもいいんじゃないかと思う自分もいて、頭の中でいろいろなことがグルグル回っていたんです。でも外見にばかり肉付けしても、軸がしっかりしていないと結局キャラクターのイメージがふわふわしたまま終わってしまうと思ったから、さやかのエネルギーの源を探してみると、自分が楽しいと思うことを全力で楽しもうとする彼女のスタンスに気付いて。それがわかったら、ギャル語もセリフも全部自然に頭の中に入ってきて。それまでは泣きそうになるぐらい、逃げちゃいたいって思うぐらいわからなかったんですけど、やっと突破口が開けたときには肩の上に乗っていたものがス~っとなくなりました。
Q:さやかとして、一番感情が動いたのはどのシーンですか?
さやかが受験勉強で苦戦しているときの、あの悔しい気持ちはわかりました。慶應大学に下見に行ったのも、自分は本当にこの大学に行く気があるのか? やる気があるのか? 確かめたかったからだと思うし、原動力になるものを見つけたかったからなんだと。それで、校内を見ながらワクワクしたり、慶應大生を見ながら、やっぱり慶應に行きたいって確信したと思うので、わたしもそういう気持ちで演じていました。
Q:お母さんのああちゃんを演じられた吉田羊さんに伺ったんですが、ああちゃんが自宅の前でお父さんに投げ飛ばされる後半のシーンでは、有村さんがああちゃんに駆け寄り、抱き締めるというアドリブをされたようですね。
そうです。あそこは台本にないんです。でも、普段は怒らないああちゃんが、声を張ってお父さんに一生懸命訴え掛けているのを見ていたら、体が自然に動いて。ああちゃんに対する「ありがとう」という気持ちと、「もういいよ、わたしたちはもう大丈夫だから」という意味での行動でした。
Q:有村さんがこれまでの人生の中で、これは自分には絶対無理と思いながらも挑戦したものは何ですか?
舞台ですね。「ジャンヌ・ダルク」(2014)です。自分が感じたことのない疲労感があったし、1日2公演のときはすごくつらかった。始める前もハードルがとんでもなく高いことはわかっていましたが、全ての公演をやり終えた後に自分がどんな姿になっているのか? どんな気持ちになっているのか? を知りたかったというのがモチベーションになっていました。ジャンヌを作りながら、作品を作りながら、舞台の楽しさを覚えていけましたし、みんなと一緒に舞台に立ちたいという気持ちが強くなっていきました。
Q:さやかのように、壁にぶち当たったときはどうやってそれを乗り越えていきますか?
わたしは人に相談する前に、まず自分で考えてみます。何が原因でそうなってしまったのかを考えて、次にどうしたらこの場所から抜け出せるんだろうということを考えるんですけど、それを探しているうちはなかなか見つからなくて。探すのをやめた途端に、ああこれだったのかもと答えが舞い降りてくることが多いです。そういう意味では、あまり考え込まずに毎日をポジティブに過ごした方が、物事がうまく進みます。お芝居をしながら気付いたり、見つかることもありますね。
Q:近年、ジブリ作品『思い出のマーニー』、舞台「ジャンヌ・ダルク」、映画『ストロボ・エッジ』『ビリギャル』、月9ドラマ(「ようこそ、わが家へ」)とやりがいのある、裏を返せばハードルの高いお仕事が続いていますけど、それらに立ち向かっていける有村さんの強さはどこから生まれているんでしょう?
プレッシャーはもちろん毎回感じています。皆さんが期待する姿に近づきたい、置いていかれないようにしっかり勉強しなくてはいけないと。毎日、そんなふうに自分と向き合いながら、いまできることを一生懸命やるだけですね。見てくれている人は見てくれていると信じてやれば、役にもその気持ちが表れて、魂がしっかり宿ってくれると思うんです。
どんな質問を投げ掛けても、笑顔を絶やさず自分の言葉でしっかり答える有村。撮影現場でも疲れた顔やネガティブな発言をしている姿は一切見せず、ずっと笑顔でいたと、共演者たちは証言している。彼女のひたむきな姿に励まされるスタッフ&キャストは少なくなかったようだが、本作は、そんな有村の本質に迫っているような気がする。陰の苦労や努力を多くは語らないのは彼女の美学。映画『ビリギャル』では、誰もがかわいいだけではない、女優・有村架純の真価を再発見することになるだろう。
(C) 2015映画「ビリギャル」製作委員会