『龍三と七人の子分たち』北野武監督&藤竜也 単独インタビュー
老人が集まって暴走族を作る案もあった
取材・文:小林真里 写真:高野広美
義理と人情を重んじる引退した元ヤクザと、詐欺師集団との抗争をコメディータッチで描いた本作で藤竜也がふんするのは、不覚にもオレオレ詐欺にだまされた元ヤクザの親分、龍三。ドスが利いていて貫禄たっぷりながらも、魂を吹き込み、どこかチャーミングな親分を生み出すことに成功した。北野武監督最新作となる、この人情味あふれる新たな映画の製作の裏側を、これが初タッグとなった北野監督と主演の藤が語った。
『龍三と七人の子分たち』の成り立ち
Q:シリアスな『アウトレイジ』が2本続いた後で、コメディータッチの映画を監督しようと思ったきっかけは何だったのですか?
北野武監督(以下、北野監督):『仁義なき戦い』みたいに続けて撮るのも良くないと思って。やりたい映画は他にいっぱいあるからね。
Q:藤さんの、本作のオファーをもらったときの感想は?
藤竜也(以下、藤):北野監督の作品に出演したい人はたくさんいますからね。まさか自分が指名されるとは想像していなかったので、びっくりしました。
Q:主人公の龍三役に藤さんを指名した理由を教えてください。
北野監督:俺の中では、映画で観る男っていうのは、映画の芯になる人だから。画面にそれなりの迫力を出せる、いかにも主演っていう人じゃないとつまらないと思ったんだ。
Q:七人の子分たちも、それぞれキャラクターが立っています。どのように差別化を図りましたか? 配役は難しかったですか?
北野監督:近藤(正臣)さんとは仕事をしたことなかったけど、昔から知っているから。みんな元ヤクザって役だけど、そういうイメージで売っている人は外した。やることはくだらないんだけど(笑)、あえて演技派の人を使ったんだ。お笑いの人は極力避けようと思ったね。台本を先に書いて、座頭市みたいな人とか拳銃使いとかキャラクターをつくってね。でもキャスティングをする前に、七人がそれぞれの得意技を見せるシーンを考えるのが大変で。みんなに分担して見せ場を作ると時間が足りなくなっちゃうし。しょうがないから殴り込みのシーンでいかに頑張れるかを狙った(笑)。
監督がスーパースター
Q:藤さんは北野監督と初めて仕事をされたわけですが、他の監督との違いで一番印象に残った点は?
藤:一番違うのは、監督自身がスーパースターだってことだよね。他にはいないでしょう。なおかつ、作品の評価のされ方や実績にきちんとしたものがおありになるし、ものすごいなって。俳優なら誰だって「この監督は一体どんな演出をされるんだろう?」って興味があると思うし、演出されてみたいはず。他の監督は撮影中カメラの横にいらっしゃるんですが、北野監督はいらっしゃらないんですね。
Q:そうなんですか?
藤:大体、監督はカメラの横にいて、撮影中に俳優は「今の演技、監督に届いたかな」とか空気でわかるんですが、北野監督は隣の部屋にいらっしゃって。「届いたのかなあ? 今のでいいのかなあ?」って思っていました。普通なら「カーーット!」って言われたら「気に入られたな」とか、「カット次」って言われたら「気に入られなかったな……」とかいろいろ余計な憶測をするんですが。北野監督の場合はそういう情報がない。たまに出てきて「今のは面白かった」って言って、ふふっと笑って引っ込む。うれしかったですね。「ああ良かった!」と安心したり。
Q:監督は映画に出演もしていますが、藤さんを演出し、さらに共演してみていかがでしたか?
北野監督:何かの経緯で「出演してください」って言われてね。それで悪いほうの刑事にしようと決めた。でも、実際は編集のこととかアクションのこととかばかり考えていて(笑)。お客さんが「親分と七人が面白くて仕方ない」って思っているところに水を差したくなかったから、登場シーンは2、3か所にした。
Q:藤さんは、無軌道な面がありながら人情味もあって観る人が応援したくなる龍三というキャラクターを、どのようにつくり上げたのでしょう?
藤:監督がおっしゃたように映画の芯ですから。空気がうっとうしいとか、腹に一物ありすぎるというように感じられたくないと思いました。単純なタイプの男でいいんだろうなと。喜劇の間とか、いろんな難しいことはわかりませんから。そこは監督にお任せして、昔ブイブイ言わせていた近所のおっさんを一生懸命演じようという感じでした。
主人公はヤクザじゃなくてもよかった
Q:旧世代のヤクザと新世代のヤクザの対照的な構図が興味深かったです。現代の詐欺師集団を悪役として描いている点は、時代の変遷と共にアウトローのスタイルや気質が変わってきていることの表れだと感じました。
北野監督:本当のことを言うとヤクザじゃなくてもよかったんだ。じいさんが高校か中学の同級生と集まって、せがれたちと大ゲンカするっていうストーリーも当初あった。ただ、それだと敵がアバウトになっちゃう。昔の義理人情を重んじたヤクザと、義理も人情も何も考えていない今の詐欺師集団っていう敵対構造の方が、ストーリーの進行として面白いしね。実際殴り合ったりする場面も出てくるし。他の老人社会だと殴り合ったら危ないので(笑)。老人が集まって暴走族を作るって案もあったけど、おじいちゃんたちハーレー乗れないでしょ(笑)。ケガしたら大変だなと思って。だったら任侠(にんきょう)がいいかと。ただ年寄りと若者のギャップの面白さを出したかった。最近はだまされちゃう老人が多いっていうから、逆襲に出る面白さがいいかなって。ちゃんとしているとじいさんの方がカッコいいってとこを見せたかったんだけど、途中からお笑い大会になっちゃった(笑)。
北野監督と藤の強烈なオーラで室内の空気が劇的に変わり、緊張感が高まったインタビュー。すぐにエンジンがかかってユーモアを交えてサービス精神旺盛に語る北野監督と、真っすぐに目を見ながらゆっくりと優しく言葉を繰り出す藤。瞬く間に過ぎた濃厚な時間だった。
映画『龍三と七人の子分たち』は全国公開中