『パトレイバー 首都決戦』押井守監督&筧利夫&真野恵里菜 単独インタビュー
やっとカッコイイ姿が見せられた!
取材・文:永野寿彦 写真:吉岡希鼓斗
アニメ史に残る「機動警察パトレイバー」シリーズを、生みの親の一人である押井守を総監督に実写化してきた「THE NEXT GENERATION パトレイバー」。全7章に分け、2014年4月から実に10か月にわたって順次劇場公開してきたシリーズの集大成ともいえる長編新作映画『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』がついに完成。長い期間製作に携わった監督の押井守、長編で主役を務める筧利夫、そしてシリーズ通してのヒロインを演じた真野恵里菜が、撮影現場の苦労、本作への思いを語った。
技術革新によって生まれた長編劇場版!
Q:全7章にわたるシリーズを経てついに完成した長編劇場版。実際にご覧になって、どう思われました?
真野恵里菜(以下、真野):自分が出ているシーンは懐かしいなって観ながらも、映像表現のすごさを感じました。その迫力に、気が付いたら手をぎゅーっと握っていたりして。世界観に引き込まれていましたね。
筧利夫(以下、筧):押井さんの実写映画になっています。だって自分が撮影に参加してるのに中身がよく理解できないぐらいですから(笑)。だから、公開が始まってからさらに感想が進化していくんじゃないかな、と。(高画質)4Kの映像で(次世代シネマ音響)ドルビーアトモスの音響で観るのと、2Kの映像で5.1チャンネルで観るのとでは印象も違いますし。見比べてほしいです。
押井守監督(以下、押井監督):技術面が大きいんですよ、映画って。これだけの合成は今だからこそできたと思うし。話自体は6、7年ぐらい前に思い付いていたんだけど、当時の技術では絶対無理だった。今回も不安がなかったわけじゃない。4Kの撮影って現場で確認できないので、撮れているはずだって。新しい技術でやるということは、そういうリスクは必ずあるんです。だからやっていて面白い現場ではありましたね。
真野:シリーズでドタバタをやってきて、やっとカッコイイ姿を見せられたという、うれしさもありました。ショットガンを構えたりとか。成長物語もちゃんと入っているし。
役者がつくるキャラクター
Q:確かに、キャラクターの変化も印象的でした。
真野:泉野 明は自分に近いんです。言葉遣いとか表情だとか。普段のわたしってこんな感じなのかなとも思えて、ちょっとそれが滑稽に見えたり。明を通して、自分のことが見えたような感覚でした。
押井監督:こういうシリーズの場合、キャラクターは役者さんのものなんですよ。(各話ごとに)監督が4人いたりするわけで、ちょっとずつ抱いているイメージが違う。だから、どう演じればいいかは個々の監督より役者の方がわかっている。真野さんとか、1話のときに比べると、全然違う。すっかり女らしくなって。1話のときはぴちぴちだったもんね(笑)。シリーズと付き合うってそういうことなんです。隊長はもう年だから大して変わりはしないんだけど。
筧:後藤隊長という人を僕なりにひもといて、いろいろ研究したんですけど、途中でやめましたね。やっぱり僕が演じるのは後藤田だし。はた目から演技の方向性は同じに見えても、人物としての根拠は違うので、後藤田はとにかく本当のことを言わない人なんだって根拠でやっていました。だからいくらでも冗談みたいなことを言えるし、本当のこと言っているようでもそういうふうには見えないかもしれないし。僕の場合は、とにかく現場で試していったんです。本当のような冗談を言いながら(笑)。
押井監督:隊長はとにかくいろんなことをやってくれるから。選択肢があるので、じゃあそっちでいきましょうかって擦り合わせていって、後藤田になっていった。先代の後藤をなぞってもしょうがないし。初代は何をやったとしても、やったことがそのままキャラクターになりますから。だから2代目の隊長ってどういう人なんだろうってお互いに相談しながらつくっていきましたね。映画は悩める隊長が最後の最後に決心をするという形になりました。
フランス映画のような優雅な撮影
Q:悩める後藤田隊長は、押井映画の醍醐味(だいごみ)の一つともいうべき会話劇担当でしたね。
筧:いやー、毎日フランス映画に出ているようでした。
押井監督・真野:(笑)
筧:夕方には撮影が終わりましたから。4時とか5時には。毎日ですよ。いつもの制服と違う黒い服着て。高島(礼子)さんとずーっと一緒で。俺、何の映画に出ているんだっけってぐらい、優雅でした。
押井監督:本隊の撮影はゆったりやっていましたね。基本的に夕方には終わる主義だったし。嫌いなんですよ、ナイター。たぶん、アクションをやった辻本(貴則監督)のB班の方が大変だったんじゃないかな。
真野:こちらはナイトシフトと呼ばれていましたね。夕方5時から朝5時まで、1週間、昼夜逆転生活だったんです。12月のとても寒い夜で。
筧:1回だけアクションシーンを撮影している辻本監督の現場に呼ばれて行ったんですよ。そしたらみんなドロドロ。もう、1試合終えていますよって感じで。隊長、何か? みたいな(笑)。もう、一気に現実に引き戻されちゃった。ものすごいギャップがありましたね。
真野:メラメラしていましたから、B班は。実際、ショットガンを持って走ったりするので、常に気持ちは張り詰めていましたね。ショットガンを連続で撃つシーンがあるんですけど。明はシリーズで一度も撃たなかったので、やっとこの劇場版で撃つことができたんです。すごく緊張しましたね。空薬きょうが銃にかんでしまってNGを出したときなんか、ピリッとする空気が流れるんですよ。あちゃーって空気が(笑)。でも、爽快でしたね。
日常と非日常が地続きのアクション映画
Q:アクションシーンですが、日本映画では見たこともないくらいのすさまじさでしたね。
筧:出来上がったものを観ると、あのカット数の多さからも大変だったことは想像できます。
押井監督:こっち(会話劇)は少ないからね。ワンシークエンスで2カットか3カットぐらいかな。それでちょうどバランスが取れると思っていた。辻本が細かく撮るのもわかっていたから。あいつはそういう男だから(笑)。映画っていろんな考え方が入っていた方がいいんですよ。真野さんのショットガンはうまかったですよ。
真野:え、本当ですか。うれしいです!
押井:どれくらいNGを出したかは知らないけど、ちゃんと本物を撃っている感じが出ていた。今回撃っていないのは隊長だけ。隊長は名刺と鉄砲は持たない主義の人なので。荒事は全部若いもんにやらせるという立場だから……撃ちたかった?
筧:いやいや! そんなことないです。レイバーには乗ってみたかったですけど。
押井:いっぱい撃てばカッコイイってもんでもないしね。CGだらけだったらスゴイ映画になるってことでもないし。焼きそば食っている人間がロボットに乗って戦うという、日常と地続きで非日常までいっちゃうっていうのがこのシリーズの一番面白いところだから。その振り幅の大きさが映画のスケールになっていく。焼きそば食っているシーンと攻撃ヘリが空を飛び回っているところが地続きになっていないと、映画としてはダイナミックには見えない。それが信じられるようにできているかどうかがアクション映画としては、とても大事なことなんです。
テンション高くインタビューの場を盛り上げる筧、作品への愛情を真摯(しんし)に語る真野、そしてそんな二人の話に、楽しそうな顔で耳を傾ける押井監督。撮影だけで7か月、シリーズ公開から最後を飾る長編新作が公開まで実に1年がかりというビッグプロジェクトを戦い抜いた者たちの信頼関係がそこに感じられた。
(C) 2015 HEADGEAR / 「THE NEXT GENERATION -PATLABOR-」製作委員会
映画『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』は5月1日より全国公開