『駆込み女と駆出し男』大泉洋&戸田恵梨香 単独インタビュー
男子禁制のお寺で繰り広げられる女たちの悲喜こもごも
取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美
井上ひさしの時代小説「東慶寺花だより」を、『わが母の記』などの原田眞人監督が映画化した『駆込み女と駆出し男』。江戸時代に実在した幕府公認の縁切寺を舞台に、男との離縁を求めて寺に駆け込んだ女たちの悲喜こもごもを、原田監督独特の映像センスで描く人間ドラマだ。女たちの手助けをする医者見習いで駆け出し戯作者の信次郎を演じた大泉洋と、暴力亭主から逃れてきたヒロインじょご役の戸田恵梨香が、撮影秘話を明かした。
大泉は話術の天才、戸田は鍛冶場の働き者に!
Q:今までにない新感覚の時代劇ですね。
大泉洋(以下、大泉):斬新でオシャレなんです。「セリフで全てを説明しなくてもいい」という感じがしますよね。それよりも、画(え)の美しさや言葉のリズムで世界観に惹(ひ)き込まれていく。台本も分厚かったですし、撮影もかなりの量だったんですけど、観たときはまあ速い。実にテンポのいい仕上がりになっていて、スケール感のある映画だったなと思います。
戸田恵梨香(以下、戸田):ザ・時代劇というトーンではないんですよね。あの時代の男らしさ、女らしさ、美しさや醜さがハッキリ出ていながらも、どこか身近に感じるような作りになっていて、すごく面白かったです。
Q:戸田さんは初めての時代劇ですが、オファーを受けたときのお気持ちは?
戸田:正直なところ、お受けするつもりはなかったというか……。
大泉:なかったんかい(笑)。
戸田:いえ、「自分には難しいのではないか?」と思ってしまったんです。台本を読んでとても魅力を感じたので、やってみたいとは思ったのですが、いわゆる時代劇のお芝居をすることに不安があったんですよ。それを原田監督に伝えたら、「今演じているような現代感覚のお芝居でいい」と言ってくださったので、すっきりと自分の中に落とし込むことができました。
Q:大泉さんの演じた信次郎は、川柳などを流ちょうに口にする話術の天才。セリフを入れるのは大変だったのでは?
大泉:確かにセリフ量は多いんですが、原田監督の脚本はリズムがいいので、そこまで大変じゃなかったんです。ベラベラベラとしゃべるのが気持ちいい。テンポがいいからスラスラいける。とにかく気持ちよくやれたので、覚えるのにそこまで苦労しなかったですね。
Q:戸田さんは夫の暴力に耐え続けた鉄練りの働き者・じょご役。どのように役づくりされましたか?
戸田:撮影に入る前に監督から、鉄を練っていた女性の役なので、「腕を太くしてほしい」と言われたんです。週3で筋トレしたんですけど、結局1キロしか増やせなくて……。あとは、じょごの方言をどこまでやるのか、監督と相談しながら役をつくっていきました。
現場のルールは「セリフをとちってもやめない」
Q:登場人物たちの江戸言葉の応酬が心地よい本作ですが、ご苦労もあったのでは?
大泉:原田監督は、長いシーンでもまずシーンを途中で止めないんです。レディー、アクションからカットまで止まらないんですけど、編集時にカットを割るのはわかっていたので、少し気楽ではありました。速いセリフをかんだとしても、2回戦目でうまくいけばいいと思えたので、失敗することはそれほど怖がらずに済みましたから。それよりも「何があってもこのシーンを止めないぞ!」という役者の勢いとか、エネルギーのほうが大事というか(笑)。
Q:「やる」ではなく「やめない」というのが面白いですね。
大泉:「間違ってもやめない」というのが現場のルールだったんですよ。
戸田:わたしは自分で笑っちゃって止めてしまいました。
大泉:この人、ものすごい笑い上戸なんです。でも、止めるなというルールがあるから芝居を続けるんですよ。僕から見たら「きみ、アウトでしょ」って思うんですけど、「笑ってません」って顔して最後までやり切ろうとするんです。「いや、笑ってるでしょ!」っていう(笑)。
戸田:つい、ギャハハハって笑っちゃうんですよね(笑)。
大泉:あと、樹木希林(東慶寺・御用宿の女主人役)さんとのシーンがヤバかった。あの方は、何を言っても面白いんですよ。「はああ~」っていう掛け声だけで笑ってしまう。そんなとこ面白い? ってとこが面白いんです。本当に素晴らしい方です。
女だらけの尼寺はエグかった!?
Q:縁切寺・東慶寺のシーンは、映画『ラスト サムライ』などで使用された兵庫県の圓教寺でも撮影されたそうですね?
大泉:いやあ、圓教寺は本当にすごかったよね!
戸田:すごかった! もう、空気から違うような気がしましたね。
大泉:よくパワースポットとか言いますけど、本当に何かあるような気がしましたよ。山間のお寺に行くまで、車がひっくり返るんじゃないかと思うような急坂を上がっていくんですけども、身が清められるような感じがしました。実際の東慶寺ではないんですけど、すごく気持ちが入るというか、ロケーションの力は大きかったですね。
Q:男子禁制の東慶寺に治療で訪れた信次郎が、目隠しをされながら女性の治療をするシーンに爆笑しました。
大泉:「寺に入った男は、中の女と絶対に目を合わせちゃいけない」という設定が、規律正しいながらもバカバカしくていいんですよ。その設定が、うまく笑いにつながっているのが面白い。男からすると、「女しかいない尼寺ってどうなっているのかな?」という興味はありますよね。
戸田:わたしは、女だらけの世界はエグイだろうなと思いました。この作品には、性に飢えている女の人がいたり、じょごがいじめに遭っているシーンなどもありますけど、実際の東慶寺にも、そんな女だけのドロドロしたものがあったかもしれませんよね。
大泉:男の匂いだけで色めき立つ女性がいる、という設定ですからね。逆は嫌ですねー。男だけの縁切寺。男だけの寺で暮らさないと離婚できないなら、離婚なんてしないほうがいいですよ(笑)。
満島ひかりとの共演シーンに胸アツ!
Q:主人のもとを離れて寺にやって来た愛人のお吟(満島ひかり)とじょごの友情エピソードが胸を打ちます。戸田さんは、満島さんとの共演でシンパシーを感じたのではないですか?
戸田:感じていました。「じょご、いつもいつも、ありがとう」ってお吟さんに言われたシーンは、胸にグッとくるものがありました。
大泉:ある事情で寺を去ることになったお吟を、じょごが背負ってお寺の長い階段を下るシーンがあったんです。お寺の門からは僕がお吟を背負うんですけど、雪で撮影が延期になったりして、僕ではない方が背負うことになりそうだったんです。でも、どうしても僕がやりたかったので、なんとかスケジュールを調整してもらったんですよ。
戸田:あのシーンは絶対に信次郎さんにいてほしかったので、わたしもホッとしました。
大泉:満島さんにも、「自分を背負うのが信次郎さんじゃないのはショックだ」って言われましてね。結果的に撮れて本当によかったです。戸田さんと満島さんの芝居にも圧倒されました。
戸田:この映画の試写を観た井上ひさしさんの担当編集者の方に、泣きながら「本当によかった」と言っていただいたんです。「井上さんの気持ちも、やろうとしていたことも、ちゃんと映像になっていた。彼も喜んでいると思います」と言ってくださって、心の底からこの映画に出てよかったなと思いました。井上さんのファンの方にもぜひ観ていただきたいです。
女からは離婚できなかった江戸時代に実在した、尼寺で一定期間修行をすれば離縁が認められる縁切寺法。当時は多くの女性たちが、救いを求めて寺に駆け込んだそうだ。そんな不条理な社会の中で精いっぱい生きようとした女たちの痛みと、周囲の者たちの人情が心を揺さぶる本作。大泉の口からマシンガンのように飛び出す名ゼリフと、感情を克明に表現する戸田の強烈な目力が、観客の胸に鮮烈な印象を残すだろう。
【大泉洋】
ヘアメイク:白石義人(ima.)
スタイリスト:勝見宜人(Koa Hole inc.)
【戸田恵梨香】
ヘアメイク:佐々木恵枝(sylph)
スタイリスト:丸山晃
映画『駆込み女と駆出し男』は5月16日より全国公開