『バケモノの子』役所広司&宮崎あおい 単独インタビュー
やったもん勝ちの役づくり!作品以外の参考資料はいらない
取材・文:永野寿彦 写真:高野広美
世界中から注目を浴びるアニメーション監督、細田守が3年ぶりに放つ待望の最新作『バケモノの子』。渋谷の街とバケモノが暮らす世界を交錯させ、バケモノと少年の師弟関係を通して親と子の絆を生き生きと描き出す、ユニークなオリジナル長編アニメーション。物語の軸となるバケモノ・熊徹を演じた役所広司、熊徹に育てられる少年・九太を演じた宮崎あおいが、声で表現する難しさ、細田作品への思いを語った。(宮崎あおいの「崎」は大の部分が立)
うそをつかない正直者のバケモノ
Q:最初にオファーをいただいたとき、どのように思われました?
役所広司(以下、役所):僕は細田作品に呼ばれたことがまずうれしかったですね。ただ、バケモノの役だったので。キャラクターの絵を見せてもらって、この顔に自分の声が合うだろうか、と。絵コンテを見せてもらったらやっぱりすごくアクションが多くて。しかもセリフがほとんど「!」マークが付いていて、叫んでばかりいるような感じで。大丈夫かなって(笑)。
宮崎あおい(以下、宮崎):わたしも男の子の声ということだったので自分にできるのだろうかという不安が一番大きかったです。でも、細田監督から『おおかみこどもの雨と雪』に続いてまたお話をいただけたことがとてもうれしかったので、全力で男の子になれるように頑張ろうと思いました。
Q:熊徹、九太という、それぞれが演じることになった役柄についてはどう捉えられましたか?
役所:熊徹自身は九太を一人前に育て上げようとか思っているんでしょうけれど、先生とか師匠とはとてもいえないキャラクターだったと思います。ただ、一生懸命だし、うそをつかない正直なバケモノで。そういうところに触れて、九太っていうのも良い大人に育っていく。うそをつかない正直者というだけで人っていうのは育てられるのかもしれないと感じましたね。
宮崎:わたしはこういう人物だということはあんまり考えない方なんです。それは声のお仕事だけじゃなくて普通にお芝居をするときもそうで、ちょっと頑固なところであるとか、ひとりぼっちの寂しい部分とかも台本に書いてあることを素直に読んで現場に行っていました。
やったもん勝ちのバケモノの声
Q:通常のアフレコとは違っていたんですか?
宮崎:今までわたしが経験していたのは、網の付いたマイクに向かって声を出すアフレコ。しかも他の役者さんもいない。一人イヤホンで聞きながらやっていたのですが、細田監督の作品に参加させてもらってからは、もっと広がった状態でお芝居できる感覚。役所さんが横で動いている感じも伝わってくるので、声を出しているだけというよりはちゃんと気持ちが動いてできるので、わたしはやりやすいですね。
役所:動かないとできないですね。プロフェッショナルな声優さんたちは声の感じだけでもうまくできるんでしょうけど。つくづく僕たち実写でやっている俳優は体を動かして仕事しているんだなって実感しました。
Q:役所さんはバケモノ、宮崎さんは少年と、普段演じることのない役ですよね。何かを参考にしたりとかは……。
役所:ないです。
宮崎:ないですね。
役所:あるもんね。絵が。
宮崎:そうですね。
役所:動いている絵の方に導かれていきますし。バケモノだから、僕もものすごく太い深い声の人物かなとは思ったんですけど。でも、やったもん勝ちですからね(笑)。
Q:演じる上で最も大切にしたことは何ですか?
役所:やはり九太との関係ですね。熊徹は孤独なヤツだったと思うんですよ。それが九太に出会って、初めて人の役に立つようなことをやることになったと。だからいくら怒鳴っていようがののしり合っていようが、根っこに愛情があるということを意識しようと思いました。
宮崎:わたしが演じたのは九太の少年時代なので途中から青年時代を演じる染谷(将太)くんにバトンタッチすることになる。だから、うまくバトンタッチができるように、というのは気を付けていました。バトンタッチするいくつか前のシーンぐらいから意識的に大人っぽい声が出るようにしたり。自分が終わった後は「よろしくお願いします」と染谷くんに言っていました。
美しい人間の心を見せる細田作品の魅力
Q:実際演じてみて難しかったところは?
役所:剣の持ち方を九太に教えるシーンで、あおいちゃんとのシーンだったんですけど、思ったよりもテンポが速かったので。合わせるのは結構苦労しましたね。ずっと怒鳴っているし(笑)。「剣をグーっと持って、ビュッといって、バーン!」という熊徹の教え方は、説明になっていないし、それだったら誰でも言えるんですけど。
宮崎:わたしは卵かけご飯を食べるシーンが難しかったです。九太が食べて吐いてしまうんですけど、文字としてはオエーッとか書いてある。どう言えばいいんだろうって。舌を指で押してみて、本当にそうしているようにやった方がいいのか、家でいろいろ試してみたりして。
Q:演者として参加してみて感じた細田監督作の魅力は?
役所:普遍的なテーマで、古くならないような物語だなという感じがします。絵の表現もそうなんですけど、やっぱり本当に優しい人間、美しい人間の心を表現されているので。幅広い人たちに愛される映画なんだと思います。
宮崎:わたしはとてもシンプルに細田監督が好きで、細田監督が作る作品がすごく好きで。役所さんと一緒に制作現場を見せていただいたのですが、本当に一人一人時間をかけて、手描きで背景とかも描かれていたり、こうやってたくさんのプロフェッショナルな方たちが集まって、しかもその人たちのことを細田監督がすごく尊敬している。そういう人たちが集まっているからこそ人の心に届く作品になっているんだとあらためて感じました。
役所:コンピューターやデジタルではなく、鉛筆で、筆で、人間の手で作っている。それがきっとお客さんにも伝わるはずだって信じている細田監督がいるんですよね。それが温かみであったり、表現として何か最終的には力強かったり、深いものになっているんじゃないかと思います。
宮崎:絵を描かれている方たちのいろいろなアイデアもたくさんちりばめられていますね。映画の中に。シンプルにストーリーを楽しんでもらいたいというのもありますけど、本当に多くの方が関わって映画ができているので、そういう方たちのこだわりを無意識に感じ取ってもらって、多くの人に観てもらいたいですね。
役所:親子で観たあとでお互いの親と子の関係がより良い感じになってくれればいいなという思いで作られたものだと思うので、大人も子供もきっと何かを受け取って劇場を出ることになる本当に良い映画になっていると思います。
写真撮影の際にカメラマンから「柔らかい感じでお願いします」と言われると、「これでも柔らかいんですよ」とにこやかに答える役所。すると、すかざす宮崎から「柔らかい方がすてき」と声が飛ぶ。そのコンビネーションの良さは、まさに劇中で見せる熊徹と九太の姿そのものだった。
(C) 2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS
映画『バケモノの子』は7月11日より全国公開