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『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督 単独インタビュー「命を落としても構わないという覚悟でやってきた10年間」

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『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督 単独インタビュー

『CASSHERN』『GOEMON』の紀里谷和明監督のハリウッドデビュー作『ラスト・ナイツ』。英国出身の演技派クライヴ・オーウェンとオスカー俳優のモーガン・フリーマンを主演に迎えた本作の舞台は、とある封建社会。主君への揺るぎない忠誠心を胸に、不正にまみれた権力者に立ち向かう騎士たちの戦いを描く感動作だ。主演の二人以外にも世界中の名優が結集したこのビッグプロジェクトのメガホンを、なぜ紀里谷監督が取ったのか? 監督の夢を実現させるまでの10年の間に何があったのか? その熱い思いが明かされた。
取材・文:イソガイマサト 写真:奥山智明

ハリウッドで映画を撮ることになった経緯
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『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督

Q:紀里谷監督が『ラスト・ナイツ』をハリウッドで撮ることになった経緯を教えてください。

『GOEMON』(2008)を撮った直後に僕のところに脚本が送られてきました。それが素晴らしいものだったんです。それまで数百冊エージェンシーから送られてくる脚本を読んだのですが、その中でも最高のもので、読んだ後すぐに電話をかけて、「やらせてくれ」と言いました。

Q:クライヴ・オーウェンはどのような流れの中で主演に決定したのでしょう?

彼とは同じエージェンシーだったので、担当者を通して脚本を送りました。すると、『GOEMON』も観てくれて、一度会おうという話になったのです。そのときクライヴは上海にいたので、「すぐ行く」と言って上海で会いました。そこで、こちらがやりたいこと、どういう作品になるのかを長時間にわたって伝えて。次の日には上海を後にしたのですが、その数週間後にクライヴから直接電話があり、「一緒にやろう」と言われたのです。

『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督

Q:なぜ、クライヴだったんですか?

最初から主役はクライヴにやってもらいたい、という思いがありました。大好きな俳優であるのはもちろんですし。とにかく、一緒に仕事をさせてもらってビックリしたのが、その圧倒的な技術でした。彼の演技の精度があまりにも細かく、微妙なニュアンスで芝居を調整してくれる。例えば、長ゼリフをカットかけずに3回やって、その一つ一つに微妙な強弱を付けてくれたりと、とにかく勉強になりました。

Q:アカデミー賞俳優のモーガン・フリーマンも同じような形で決まったのでしょうか?

モーガンには手紙を送ったのですが、彼も脚本を気に入ってくれていて。少し時間がかかりましたが、最終的には出てくれることになりました。

CGではなく実写で!今回初めてできた“本物”
『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督

Q:この映画でいちばんやりたかったことは?

ちょっと誤解されやすいんですけど、これはアクション映画ではなくて。 人間ドラマなんです。僕がいちばん描きたかったのは国境や人種を超えた「忠義」です。それが日本では武士道と表現されている、そして英国では騎士道。言葉は違えども、世界中にこの概念は存在しています。クライヴが韓国の国民的俳優のアン・ソンギ(『チルスとマンス』『眠る男』)と向かい合うシーンが僕は大好きで、ある意味この映画を象徴しているような気がします。クライヴと伊原剛志さんがお辞儀をしてから戦うシーンもそうですね。

『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督
主演のクライヴ・オーウェン - (C) 2015 KIRIYA PICTURES

Q:紀里谷監督のこれまでの映画はCGで画(え)が作り込まれていましたが、今回はCGの使い方がよりリアルなものになっていますね。

「紀里谷はCGを使いたがっている」と言われ続けることが、僕のフラストレーションになっていて。そうじゃないんです。例えば『CASSHERN』(2004)をロケとセットで撮ろうとしたら莫大(ばくだい)な金が必要だし、あのときは6億円の製作費であの世界観を成立させるためには、CGでやるしかなかった。『GOEMON』のときも最初はロケでやろうとしたけど、どうそろばんをはじいても無理だからCGでやることになって。そういう意味では今回、CGではない領域でも初めてやりたいことができた。シンセサイザーでオーケストラっぽいことをやっていた僕にとって、『ラスト・ナイツ』は初めて本物のオーケストラの演奏で作ることのできた最初の作品なんです。

撮りたい映画を撮りたいだけだった
『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督

Q:監督が作りたい作品を今回なぜ実現することができたのでしょう?

人から「バカだ!」「こんなのは映画じゃない!」と言われながら、本当に見えないところでいろいろやってきました。金、時間、努力と労力といった多大な犠牲を払い、あらゆるものを捨てて、僕は今ここに立っている。冗談抜きで死のうと思ったこともあるし、ここまで来るのに10年かかっていますからね。それまでの苦しみは普通の人にはわからないと思います。

『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督

Q:紀里谷監督がそこまで突き進めたのは?

僕はそうじゃないと死んじゃうから! みんな勘違いしているけれど、別にハリウッドに憧れているわけではなく、自分が撮りたいものを自分のイメージ通りに撮りたい、それができる環境が日本の外にしかなかったというだけなんです。しょうがないことですが、日本ではこの規模の作品は作れない。でも、『CASSHERN』でまがりなりにも自分のやりたいことをやり始めちゃった僕は、もうそういう生き方しかできなくなってしまったんだと思います。あと、自分はこの仕事を選んで、プロとしてやっているわけだし、プロにはプロの覚悟があると思っています。とにかく、自分の作品のためなら命を落としたって構わない。この10年、ずっとその覚悟でやってきましたよね。

日本人はみんな諦めるのが早い!
『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督

Q:監督を目指している人の心に響きそうです。

みんな諦めるのが早いと思いますよ。食えないからとか、ちょっとしたことですぐ諦めちゃうけど、死んでみる覚悟で臨めばいいと思います(笑)。そうじゃないとできないし、そんなに簡単にできることじゃない。でも、本気になってやろうと思ったら、大きな犠牲は払わなければいけない。でもそれっていくらだってできると思うんです。「そんなこと無理」という先入観さえ取っ払っちゃえば、できるんです。それこそハリウッドの人たちにとっては、英語がしゃべれるとかしゃべれないとかはどうでもよくて、そんなのは通訳をつければいいじゃないと思っている。どんな映画を撮りたいのか? その話は面白いのか? ということにしか関心がないから、そのマインドさえはっきりしていれば、そんなに臆するようなことでもないんですよ。

『ラスト・ナイツ』
©2015 Luka Productions.

Q:紀里谷監督の次の野望を教えて下さい。

今回、監督だけに専念できる立ち位置を手に入れて、やっとスタートラインに立てた感じがしています。これからはもう少し周期を短くして撮っていきたい。でも、次作が早くも集大成みたいなところもあって。アクションのない現代劇なんですけど。それをそれなりのキャストを使って世界に発信できるものとして作りたい。ほかにも中国からオファーが来ているし、僕は国やジャンルの壁がもっとなくなればいいと願っている。それに、自分の作りたい作品を作りたいと思うなら、これからはもう外に出ていくしかないと思います。

取材後記
『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督

『GOEMON』のときから変わらず、いやそれ以上に力のこもった言葉で質問に答える紀里谷監督。それは、ハリウッドで「自分の撮りたい映画」を撮った自信の表れであり、それを成し遂げた者にしか言えない説得力のあるものだった。「多くの人は小さい作品を成功させてから大作に挑むけれど、それだと袋小路に入っていく気がして怖かったから、僕はみんなと逆で最初に間口を広げてから、よりシンプルな自分の作りたい映画に向かおうと思ったんです」。そのまなざしは、少年のようにキラキラと輝いていた。

映画『ラスト・ナイツ』は11月にTOHOシネマズスカラ座ほか全国公開
<作品情報> <公式サイト>
(C) 2015 Luka Productions.

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