『劇場版 MOZU』西島秀俊&池松壮亮 単独インタビュー
全員がギラついていたイカれた現場
取材・文:須永貴子 写真:高野広美
作家・逢坂剛による、累計発行部数240万部を超える警察小説シリーズをドラマ化した「MOZU」が映画化。巨大な犯罪計画の真相を追う公安警察のエース・倉木を演じる西島秀俊と、ドラマシリーズで熱狂的な支持を集めた殺し屋・新谷を演じる池松壮亮が、灼熱のフィリピン・マニラロケについて、作品の鍵を握る“ダルマ”を演じるビートたけしについて、そして羽住英一郎監督が率いるクレイジーな現場の楽しさを語った。
ビートたけしが現場に与えた力
Q:ドラマで謎に包まれていたダルマをビートたけしさんが演じることが、『劇場版 MOZU』最大の話題の一つですね。
西島秀俊(以下、西島):テレビシリーズが終わったとき、周りから「ダルマはどうなったんだ?」「あれを何とかしろ」って一番言われていました。「僕に言われても」という話なんですが(笑)。ドラマの撮影で行った北九州で羽住監督と食事をしながらダルマについて「日本中の人の頭に浮かぶ顔を持っている男を演じられる俳優は誰なんだろう?」「それはビートたけしさんしかいないでしょう」とよもやま話でしていたんですね。それが今回、勇気あるプロデューサーがダメ元でオファーしたら出てくださることになった。そこで羽住監督も、正面からダルマを描く決心をしたとおっしゃっていました。
池松壮亮(以下、池松):ドラマがあれだけ愛されたのだからそこでやめておけばいいのに、みんながもっとすごいことやろうぜって映画に取り組む中で、たけしさんという人が加わることになった。それで誰もが奮い立ったというか、スタッフもキャストもみんながざわざわしました。撮影中も、たけしさんが参加している作品だというだけで、みんなに与えるすごくパワーがありましたし、僕も「頑張んなきゃ」と思いました。
Q:池松さんはたけしさんとの共演シーンはありませんでしたが一緒にお芝居したかったですか?
池松:(即答で)したかったです。現場で「会えるのかなー」って思っていましたけど、とうとう会えませんでした(笑)。
西島:僕は監督の北野武さんにはお会いしたことはあったのですが、俳優のビートたけしさんにお会いしたことはなかったですし、俳優としても最も尊敬する方の一人なので、緊張しました。気持ちで負けたら失礼なので、現場に入ったら集中して、全力で向かうようにしていました。わかってはいたのですけど、映画に対する愛情の深い方だなと、改めて感銘を受けました。
Q:では、お互いについてはどう思われましたか?
西島:池松くんは、会う度に存在感が増しているし、経験を積んでどんどん伸びているなと感じるので、毎回共演するのが楽しみです。個人的に、作品に対する姿勢に近いものを感じています。
池松:今回台本を読んだとき、倉木と新谷は味方同士じゃなく、それぞれの敵に向かっている感じ、孤独に戦い続けるさまがいいなあと思いました。テレビドラマの時も時間を共有していて、新谷と倉木のストーリーがあることも、演じる上でいい手助けになりました。
ギリギリを攻め続けるスタッフたち
Q:撮影は約1か月間、真夏のフィリピンで行われたそうですね。
西島:ドラマシリーズでスタッフの熱量が破裂しそうになっていたので、映画化するなら海外で撮ってエネルギーを開放させないと、目指す作品にならないという気持ちがあったと思います。
池松:僕はフィリピンロケに後から加わったんですけど、西島さんがアクションをどんなふうにやっているかは聞いていたので、「これは頑張らなきゃ」と思いました。テレビのときからスタッフがギラギラしていたのですけど、後から合流したら、映画でもやっぱりギラギラしていて。やばいなこれ、止められないなって。アクションシーンでは、「やれ、やれ!」って目を向けてくるから、はい、やります! という心境でした(笑)。
西島:日々戦場のような現場で、本当に死ぬかと思ったこともあります。毎日ホテルの部屋に戻るたびに、帰ってこられた……とベッドに突っ伏していました。
池松:ずっと羽住組でやっている人たちなので、悪い大人が集まって作品を撮っている感じ……は言い過ぎですけど。
西島:一言で言うと、イカれています(笑)。よりつらくてきつい撮影を求めているクルー。撮れば撮るほど良い画が撮れるけれど、みんながどんどんギリギリを攻めるから、真顔で「これ以上やったら死ぬな」という判断でOKを出していましたね。
池松:クレバーな人たちが本気で狂ってバカをやって楽しんでいる感じですよね。
西島:例えば、ある地点まで車が飛んでくるとして。いい画を撮るためには、ギリギリまで寄らないといけない。本番ではみんな気合が入るから、予想よりも飛距離が伸びるだろうと想像して、カメラはここまでにしておかないと死ぬな、とか。そういう判断は、池松君が言うとおり、クレバーな人たちだからできたと思います。
Q:そういう危険と隣り合わせの現場をどう思いますか?
西島:吹き替えなしに、役者にアクションをやらせてもらえるなんて、自分でやりたいタイプの役者にとって、こんなにうれしいことはない。なかなかやらせてもらえないですからね。
銃も炎も本物だった!
Q:フィリピンだからできたことを具体的に教えていただけますか?
西島:一番大きかったのは、日本ではなかなかできないカーアクションができたことだと思います。市街地で、あれだけ大きな車で、爆発も含めたカーアクションができるのはフィリピンだからでしょうね。
池松:爆薬の使用量の基準が全然違うんですよね。あと、実弾はもちろん入っていないですけど、本物の銃を使ってお芝居ができるし、発砲音のレベルも違う。そもそも場所の力が大きいですよね。とんでもない景色のロケ地で、そこにしかない匂いと、ギラギラと浮かれているスタッフたちの熱量が混ざり合って、日本で撮っていたら出せなかったパワーが溢れていると思います。
西島:ヘリポートが火に包まれるシーンも、本物の火なんですよ。あれ、普通はCGにしますよね。2日かけて、夜中まで火を燃やし続けて。伊勢谷(友介)さんは一切、汗をかかない男の役だから大変ですし、たけしさんは2時間も3時間もかけた特殊メイクをしているので、相当暑かったと思います。でもご本人は「こういうのは本物じゃないとダメなんだよな」とおっしゃって、深夜まですごく楽しそうに撮影されていたので感動しました。
監督吠える!「後悔するな!」「振り切れ!」
Q:羽住組に参加した者だけが共有するものとは?
西島:羽住さんの頭の中に、ものすごいものがまだまだいっぱいあって、それを具現化したい才能もある若いスタッフが集まり、いくらでも労力やエネルギーを使う。そのなかに入っていって、正しく狂っていく感覚があります。監督も僕に対して「お前なんのためにこの世界に入ったんだ? 振り切るためだろ? ここしかないだろ? 今だろお前! 振り切れよ!」って言うわけですよ。
池松:アハハハハ(笑)!
西島:「後悔するな」と「振り切れ」はすごく言いますね。「ドアを開けずに蹴破るような、めちゃくちゃな役はもう来ないぞ!」「そうですよね」って(笑)。「俺は後何日で『MOZU』が終わるってカウントダウンしながら撮影している」ともおっしゃっていたのが印象的ですね。そういう強い情熱が現場に感染したと思います。
池松:羽住さんと西島さんがブレずに、ずーっとギラギラして突っ走っていくので、キャストも西島さんに巻き込まれていました。あまりの状況に帰りたいときはありましたけど、必死に西島さんについていきました。
西島:そうだったの!?
池松:ひっぱってもらっている感じがキャストの共通認識としてあったと思いますね。フィリピンに後から合流したときの西島さんのキラキラした目が忘れられません(笑)。
西島:いやー、楽しくてしょうがなかったです(笑)。
チーム一丸となってドラマを超える映画を作らなければいけない。その使命を背負って現場に参加した二人にとって、フィリピンロケは、生涯忘れられない経験になったようだ。クレバーな大人たちがまじめにバカをやるという危険な快楽を振り返る二人は、間違いなく“共犯関係”にある。本作にはその“証拠”が残されている。
(C) 2015劇場版「MOZU」製作委員会 (C) 逢坂剛/集英社
『劇場版 MOZU』は11月7日より全国公開