『信長協奏曲(のぶながコンツェルト)』小栗旬&柴咲コウ 単独インタビュー
こんな織田信長の物語は後にも先にもないはず
取材・文:永野寿彦 写真:金井尭子
フジテレビ開局55周年記念プロジェクトの“月9”の連続ドラマとして人気を博し、そのラストを飾る映画版『信長協奏曲(のぶながコンツェルト)』がついに完成。半年という長い期間にわたって、戦国時代にタイムスリップした高校生サブローと織田信長の2役を演じた小栗旬、サブローと出会うことで変化していく信長の妻・帰蝶を演じた柴咲コウが、役柄への思い、独創的な視点から描かれた世界観を持つ本作への思いを語った。
第一声は「ホッとした」テレビドラマからの長い道のり
Q:“月9”の連続ドラマを経て、プロジェクトのゴールとして完成した映画版をご覧になった感想は?
小栗旬(以下、小栗):ホッとしました。楽しんで観てもらえる作品になったなあ、と。長い旅でした。同じ役を半年も演じ続けるというのは、大河ドラマでもない限り、なかなかないことですから。
柴咲コウ(以下、柴咲):わたしも正直ホッとしました(笑)。ドラマのときはスケジュール的に厳しくて時間がないまま進行していた感覚もありまして。映画の内容がどういうものになるのかもわからなかったですし。ただ、完成した作品を観たときに自分たちがやるべきことはきちんとできたのかな、と。合戦シーンは、現場にはいなくて初めてスクリーンで観たので、みんなの戦っている姿はカッコよかったですね。
小栗:現場もすごかったですよ。迫力がありました。スケール感もアップしたと思う。ドラマを楽しんでくれた人たちに喜んでもらえるものにはなったんじゃないかと思います。
荒唐無稽で明快!いまだかつてない信長の物語
Q:全てを演じ終えて、改めて『信長協奏曲』という作品の魅力はどういうところにあると思いますか?
小栗:荒唐無稽さでしょうか。おそらく後にも先にもこういうかたちでの織田信長の物語の解釈はもうないんじゃないかと。例えばこの映画では意外な人物が「敵は本能寺にあり!」と言う。そういう展開もないだろうと思います。そういうところがすごく面白いですね。
柴咲:わたしはわかりやすさですね。一概に年齢だけでは言えないですけれど、例えば子供や若い人たち、歴史がそんなに好きじゃないとか活字が苦手とかいう人たちにも楽しんでもらえる作品なんだと思う。きちっと作られた歴史ドラマだと飽きちゃうような人でも。だからこの作品をきっかけにして、過去というものがただ過ぎて終わったものではなくて、そこから学びがあるというところにつながっていけばいいなあ、と。
現代の高校生と戦国時代の女性が夫婦になったら?
Q:本作のポイントの一つが、現代の高校生であるサブローと本物の織田信長の関係です。2役を演じるのはやはり大変だったのでは。
小栗:大変でしたね。本物の信長を演じているときはいろんなことを考えなきゃいけないし。サブローやって信長やってサブローやって、というときもあったから。そんなに器用にできるわけないだろ! と思いながらやっていましたけど(笑)。映画のときはサブローの日と信長の日と分けてもらえたので良かったです。そのぶん集中もできたし。
Q:現代っ子でもあるサブローを相手にしながら、戦国の世を生きる女性である帰蝶を演じるのも難しくなかったですか?
柴咲:最初は難しかったですね。特にドラマの序盤は。どういうふうに居たらいいんだろうって。ガチガチな戦国女性でも浮いてしまうし。古典的な部分とちょっと現代的なアレンジした部分とがどれくらいのバランスなんだろう、どうミックスさせればいいんだろうというのはずっとありましたね。セリフもうまく出てこなかったこともありました。小栗さんは、自由にアドリブできるのでずるいって思いました(笑)。
小栗:(笑)。サブローに関しては自由にやってましたから。ドラマから続けて長く演じさせてもらっているので、サブローの中にも歴史があるからそれに乗っかればいいという感じで。自由にやってもみんなが支えてくれるし(笑)。すごく楽しかったですよ、サブローをやっているときは。
柴咲:わたしはリアクションしかできなかったですから(笑)。映画版ではかなり吹っ切れたみたいなところがありますけど。
Q:サブローの視点で描かれる戦国時代というものがドラマのテーマの一つでもあったと思いますが。
小栗:そこはあまり意識していませんでしたね。ただ、一つだけサブローに関して難しかったのは、彼のことを信じることでした。もうとてつもない理想論を掲げている人ですからね。僕はどこかでそういうことを疑うタイプ。綺麗事ばかり言って……とかね(笑)。だけど、サブローを演じるからには信じなければいけない。タイムスリップしたばかりの頃は、ぬるま湯に浸かってきた現代の高校生なので甘っちょろいことを言っていてもいいんだけれど、ずっと戦国で生きていく中でこのスローガンを掲げていく彼のことを信じるというのはなかなか大変でしたね。
戦国の世の厳しさを集約した「本能寺の変」
Q:帰蝶はそんなサブローの生き方、考え方に影響を受けていく役柄でもありますが、現代の女性に通じる存在としても映りました。
柴咲:わたしたちの時代においても、いまだに日本での女性の在り方って過渡期だと思うんです。男女平等と言えど、パワハラやセクハラといった問題はまだまだあるし、女性の首相が誕生したわけでもない。組織というものを男の人が作り上げている中で生きていかなければいけない社会なので。だからこそ、帰蝶のように耐えるとか窺うとか、自分が表立たずに知恵を出して切り抜けていくことも必要。そういう賢さというものも含めて、学べることはたくさんあると思います。やっぱりいろんな意味で強いと思うんですよ、女性って昔から。
Q:今回の映画版では「本能寺の変」が描かれています。死と隣り合わせの戦国の世で、サブローに迫る死へのカウントダウンを意識させるドラマ展開も新鮮でした。
柴咲:ドラマの序盤では戦国時代らしく目の前でいろんな人たちが首を切られたりするのを見ているし、父親すら信用できないような世界でした。そこにサブローという信じられる人が現れたというところから繋がっているので、その人を失うかもしれないというのは最たる悲しみなんだけど、でもそれが戦国の世なんだという葛藤はあったんじゃないかな、と。実際どうだったかなんてわからないんですけど、抗えないことではあるけれど(大切な人に)生きていてほしいという思いは今も昔も変わらないと思います。
小栗:戦国の世で平和を求めながらも、目の前で人が首をはねられるという現実の厳しさを山ほど経験して見てきたからこその、覚悟みたいなものもあったと思います。ドラマから作ってきたものの集大成をこの映画でやってきたつもりですし、ドラマを観て、ファンとして応援してくれて、結末まで観たいと思ってくれた方々が、サブローたちの行く末を見届けてくれたらうれしいですね。
インタビュー前の撮影のときから仲睦まじく言葉を交わす小栗旬と柴咲コウ。インタビューが始まってからも本音トークをさく裂させる2人の姿には、文字通り過酷な戦国の世を共に戦い抜いてきた戦友のような雰囲気が漂う。本作はそんな2人だからこそ演じることができた、時代を超えて結ばれた男女の絆が、 切ない後味を残す快作となっている。
映画『信長協奏曲(のぶながコンツェルト)』は1月23日より全国公開