『エヴェレスト 神々の山嶺』岡田准一インタビュー
第11回柴田錬三郎賞を受賞した夢枕獏のベストセラー小説を、日本映画史上初めてエヴェレスト5,200メートル級でのロケを敢行して映画化した『エヴェレスト 神々の山嶺』。エヴェレストに取りつかれた孤高の天才クライマーと、彼を追う山岳カメラマンの姿を通して、極限に挑む人間の生きざまを描いたスペクタクル大作だ。本作で、伝説のクライマーに惹(ひ)かれ、自らも限界に挑むカメラマン・深町誠を演じた岡田准一が、エヴェレストでの撮影秘話や役への思いを語った。
Q:映像化が難しいといわれていた本作ですが、オファーがあったとき、どう思われましたか?
とてもうれしかったです。自分としては説得力をどうもたせるかということが作品にとって重要だと思っていますし、岡田准一という存在が消えて、役としてしっかり見えるように演じるというのがテーマとしてあるので、実際の場所に行って撮影できるのは何より大きいことでした。そして羽生丈二というクライマーの存在がすごく大事な物語なので、その役を阿部(寛)さんが演じられるということ、そして一緒にエヴェレストで撮影ができるというのは喜びでしかなかったですね。
Q:プライベートでも山に登られていますが、やはり今まで登った山とは違いましたか?
以前から山は好きでしたけど、富士山以上に高いところは初めてでした。5,000メートルを超えるということで、個人的には高山病で下りなきゃいけなくなるかもしれないというのが一番怖かったです。(高山病に)ならないという保証は何もないので、撮りきれずに下ろされるというのだけは避けたいと思っていました。現場には医師の方もいて、朝晩必ず血中酸素濃度を測るんです。平地だと100なのに現地では70ぐらいまでに下がる。だから測るときは、緊張感がありましたね。
Q:実際にエヴェレストで撮影すると聞いたときはいかがでしたか?
何より実際の場所で雰囲気を感じながら撮影できるというのは、この作品にとっては必要なことだと思いました。原作のファンにも漫画のファンにも納得してもらって、さらに山好きな方たちにも喜んでもらえる作品にすることを目標としていました。完成した映画を観て思ったのは、景色がすごすぎて、逆にウソっぽいというか。実際にその場で撮影しているんですけど、それくらい景色がすごすぎる。自分でも距離感がわからなくなるような壮大な景観が広がっている場所に立っていると、やっぱり人生観が変わりますね。それと5,000メートルを経験したので、今度は6,000メートルも経験したいと思いましたね(笑)。
Q:岡田さんが演じるカメラマンの深町は、羽生というクライマーに魅せられていく役柄です。どういう役づくりをされたのですか?
役づくりは山登りととても似ているところがあって。僕はじっくり時間をかけて気持ちから入れ替えていくタイプなので、山を登るのと同じように苦しかったり、いろいろなことを考えていたりするんです。どんなに脚本を読み込んで想像しても、実際にエヴェレストに立つと、こんなに空気が薄いんだとか頭で計算しているだけではわからないこともいっぱいあるので、一歩一歩丁寧に深町に近づいていくという感じでしたね。興味深かったのは、カメラマン役ということで阿部さんのことをファインダー越しに追うんですけど、どんどん羽生になっていくんですよ。
Q:阿部さんの役づくりの過程ですか?
現地ではお風呂にも入れないのでもちろん汚くもなっていくんですが(笑)、目つきが少しずつ変わっていって、ゆっくりと都会にいた自分を落としていくという感じで。僕も深町が羽生の何を見たかったのかということを考えながら写真を撮っていました。役づくりしている阿部さんが羽生になっていくさまを見ることで、深町という役により深く入っていけた気がしましたね。
Q:実際にエヴェレストに行ったからこそ理解できたということはありますか?
思っていたようにセリフが言えないということですね。一気に長くしゃべるようなセリフは息が続かないので。僕は「ぜえぜえ」してもいい役だからまだ良かったんですが、阿部さんが演じる羽生は天才クライマーという設定上「ぜえぜえ」してはいけない役だから大変だったみたいです(笑)。上の方はホントに苦しいですからね。撮影もほとんど一発で撮っていました。移動だけでも大変で、撮影場所まで行くのに足跡を付けてはいけないので迂回しなければならない。「あそこに立って」というだけで1時間かかったりする。ドキュメンタリーだったら登るだけでいいですけど、映画の撮影はカットごとに何回も撮影しなければならないので大変ですね。撮影現場としては限界のところだろうなと思います。
Q:でもその場に行かなければ撮れない作品ですよね。
そうですね。役づくりも含めてですけど、この作品は実際に現地に行って撮影することに重要な意味があったんだろうなって思います。羽生丈二という男が見上げたエヴェレストがどういう存在なのかとか、現地を見ないまま演じるのは厳しいと思う。役者としては見て感じて撮れたというのはかなり大きかったです。
Q:そういう意味での、山の魅力も詰まった映画だと思います。
なぜ山に登るんだって疑問に思う人もたくさんいると思います。危険なことだとわかっているのに、そこまで命を懸けてって。羽生のような一流のクライマーになればなるほど余計にわからないかもしれない。確かに理解し難いものではあるけれど、山を登るのは、自分の人生を精一杯生きるということと似ていると思うんです。どんなに誤解されても、それを恐れずに自分の信じた道を進んでいく。そこに向かう情熱のまぶしさ、熱さは感じてもらえるように心掛けたつもりです。そんな極限に挑む姿に息苦しくなったり、一緒に握りこぶしを作って観てもらえる、映画ならではのスケールの大きい映像が詰まった映画にもなっていると思うので、山の魅力を少しでも感じてもらえたらうれしいですね。
プライベートでも山岳部を作っている岡田。「タフで気持ち良い男になろうというのがテーマの部です。山は魅力的ですよ」と山の話を始めると、山で撮影した映画の苦労話さえも楽しかった思い出のように聞こえてくる。その姿はまるで山男そのもの。そんな岡田が語り部となって山に生きた男たちを描いた本作からは、映像の美しさも含め、これまでの山岳映画にはなかった山の魅力が感じられるはず。(取材・文:永野寿彦)
映画『エヴェレスト 神々の山嶺』は3月12日より全国公開
©2016『エヴェレスト 神々の山嶺』製作委員会