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『キャロル』ケイト・ブランシェット 単独インタビュー

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『キャロル』ケイト・ブランシェット 単独インタビュー

女性同士が惹かれ合うシーンの複雑さ

取材・文:編集部・市川遥 写真:Action Press / アフロ

「太陽がいっぱい」などで知られる作家パトリシア・ハイスミスの名著を、『エデンより彼方に』のトッド・ヘインズ監督が息をのむほど洗練されたビジュアルで映画化。1950年代・冬のニューヨークを舞台に、娘の親権をめぐって離婚訴訟中の美しき人妻キャロルと、自分が何を求めているのかをまだ理解していない若きテレーズという二人の女性が惹かれ合うさまを描き、第88回アカデミー賞で6部門ノミネートを果たした。ルーニー・マーラと共に愛の物語を演じ切ったケイト・ブランシェットが来日し、作品との向き合い方を語った。

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「性的に惹かれ合う」とは表現できない出会いのシーン

ケイト・ブランシェット

Q:クリスマスシーズンでにぎわうデパートで初めてテレーズとキャロルが出会うシーンが素晴らしく、キャロルに一目で心を奪われたテレーズの気持ちが本当によく理解できました。

あれはトリッキーなシーンだったわ。なぜなら純真さを感じさせる一方で、二人の女性がすぐに惹かれ合うシーンでもあるから。1950年代、同性愛は違法だった。もしデパートで出会った男女についてだったら人はすぐに「性的に惹かれ合う(sexual chemistry)」と表現するんでしょうけど、テレーズとキャロルはそのことすら理解していないという複雑さなの。だからこのシーンを見つけるのはとても難しかった。

Q:そうしたシーンを演じる際、どのようなことを心に留めておいたのですか?

原作に「キャロルはいつも上の空のように見える」というキャロルについての素晴らしい一文があった。彼女はテレーズと居ても、どこか違うところに居る感じなの。だからわたしはこの点に焦点を絞ることにした。キャロルは彼女の子供のことに、クリスマスを子供と過ごせないかもしれないということに、ハージ(カイル・チャンドラー演じる離婚訴訟中の夫)との関係にとらわれている。彼女の子供は彼と居るわけだから。彼女の心にはあまりにも多くのものがあったから、わたしには、彼女が彼女自身に注意を払う時間が十分にあったとは思えない。

彼女はとても感情的な人生を送っていて、たくさんのことが起きている。結婚生活は終わりに近づいているし、子供の親権を取らなくてはいけないし、ほかの女性との間に燃えるような思いも抱いている。でも彼女たちの生きる世界というのはとても抑制されているの。だからそうした感情を表に出すことができず、常にほのめかすことしかできない。だから演技のプロセスとしては、そうした抑制されたものを演じる繊細な作業だったわ。

監督がオスカーにノミネートされなかったのは変!

ケイト・ブランシェット

Q:撮影に入る前にはトッド・ヘインズ監督、テレーズ役のルーニー・マーラとたくさん話し合ったと聞きました。そうした準備の仕方はいかがでしたか?

とてもよかったわ! 今回はあまりリハーサルをしなかったし、テーブルで顔を合わせて読み合わせをしたりもしなかった。そうしたことはいつも役に立つとは限らないの。わたしたちがやったのは、ロケハンをしながら実際に撮影する場所を見て回るということ。そこで見たものがわたしたちが身を投じることになる雰囲気なのだから、映画についてとても明確に考え始めることができた。そしてトッドは、「作品をこんな雰囲気にしたい」という音楽を集めたプレイリストをわたしたちにくれたの。どんなふうに見える映画ができるのか、というビジュアルの参考文献もたくさん見せてくれた。

これはとても重要なことなの。なぜなら全力で演じることができるから。例えば、わたしたちは今ここに座っているけど、カメラがここにあるとき(自身のすぐ右上を指し示す)、それは(後ろにある窓を指して)窓を通して撮影するときと全く違うものになる。トッドはこのシーンは窓を通して撮るといったことを教えてくれるから、カメラの視点というものも考慮に入れることができる。それは必ずしも必要なものではないけれど、シーンを考える上で助けになるわ。

Q:遅くなりましたが、アカデミー賞主演女優賞ノミネートおめでとうございます!

オーありがとう! 本当に光栄よ。何より素晴らしいのは、多くの部門でノミネートされたことね。なぜならトッドが作り上げた素晴らしい映画だから。だからトッドがノミネートされなかったのはとても奇妙に感じるわ。彼がノミネートされたらよかったのに。本当に変なの。

Q:ヘインズ監督とタッグを組むのは『アイム・ノット・ゼア』(2007)に続いて2度目ですよね。

監督と再び仕事をするのは素晴らしいことよ。なぜならそこにはすでに信頼があるから。彼はとてもとても賢く、信じられないほど優しくて常に驚きを与えてくれる。話をよく聞いてサポートしてくれて、でもそれと同時にとてもタフ。大好きよ。もう一度一緒に仕事がしたいわ。

役づくりを始める前に必ず夫にすること

ケイト・ブランシェット

Q:いつもあなたがいかに役柄を深く理解しているかに圧倒されてしまいます。役づくりに決まったプロセスはあるのでしょうか?

わたしは作品に取り掛かる前の夜、いつも夫を朝4時につついて起こすの。「何をすればいい? 何から始める? 何をすべきかわからないわ」って。そしたら彼は「心配しないで。ただ始めたらいいよ」って言ってくれるの。あえてやってみないといけないし、何が起こるかなんてわからないものね。

実際に作業を始めるとなれば、一緒に働く人や題材が何をすべきか教えてくれると思う。わたしの場合は、普通脚本から始める。今回はパトリシア・ハイスミスの原作があったから、原作を読み、手がかりを探すために彼女の他の作品も全て読んだわ。

Q:あなたは素晴らしいキャリアを築いてきました。どのように作品を選んできたのでしょうか?

直感なの、実は。とてもランダムに選んできたように思える。大きな計画があるわけじゃない。実際に選ぶとなれば、重要なのは監督ね。脚本も重要だけど、脚本はプロセスの中で変わっていくから……。何度か脚本だけで選んだことがあるんだけど、必ずしもいい映画になったとはいえなかった。だから重要なのは、誰の目を通すか、誰が脚本を翻訳するかということよ。

母として、女優として働く難しさ

ケイト・ブランシェット

Q:映画界でキャリアをキープするにあたって難しいと感じたことはありますか?

わたし自身は業界というものにこだわったことは一度もないの。でも映画業界で女性にとって困難があるというのは間違いないわ。特に資金を集める際にそれが顕著になる。たくさんの素晴らしいアイデアがあるというのに、女性がメインの脚本はお金を集めづらい。劇場公開するにしてもすごく小さな規模になってしまう。それはイライラするわ。

でもわたしには素晴らしい時間があったから、それをとても幸運に感じている。女優として働くことになるとは必ずしも予想していなかった。だから毎日素晴らしいと思っているわ。

Q:キャリアを進めるにつれて、やりたい作品はどんどんできるようになりましたか? それともそうした作品を得るのが難しくなっていると感じているのでしょうか?

今、ちょっと当惑しているの。やりたいことが本当にたくさんあるんだけど、わたしには4人子供がいるし、わたしの時間は必ずしもわたしだけのものじゃない。だから、わたしのところに来るものを全てやることはできないの。でも、幸せでいることが一番重要よ。

Q:バランスを取っているのですね。

そうしようとしているわ。ハハハ(笑)。うまくはいってないけど、でもそう心掛けているわ。


ケイト・ブランシェット

ゆったりと椅子に腰掛け、女神のような笑みをたたえて一つ一つの質問に丁寧に答えるケイト。作品について身を乗り出して語るさまから、身振り手振りでヘインズ監督の演出法について解説する姿まで、一挙一動があまりにも優雅で思わず見ほれてしまうほどだった。その優雅さは、圧倒的な演技力で鳴らすものの女優業だけが人生ではないと理解し、家庭とのバランスを取る地に足のついた生き方から生まれているのだろう。

(C) NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

映画『キャロル』は2月11日より全国公開

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