『アイアムアヒーロー』大泉洋&有村架純&長澤まさみ 単独インタビュー
怖いジャンルなのにさわやかな感触の映画
取材・文:天本伸一郎 写真:平岩亨
花沢健吾の同名人気漫画を実写映画化し、世界三大ファンタスティック映画祭を制覇したパニックホラー『アイアムアヒーロー』。生きる屍となり、理性を失った謎の感染者「ZQN(ゾキュン)」の襲撃から生き残ろうとする人々のサバイバルを描く同作で、主人公のさえない漫画家アシスタント・英雄を演じた大泉洋、彼と行動を共にする女子高生・比呂美役の有村架純、そして2人の協力者となる元看護師・藪役の長澤まさみが、本作がいまだかつてない日本映画に仕上がった理由を振り返った。
ZQNは怖いというより面白い存在
Q:シッチェス・カタロニア国際映画祭(スペイン)、ポルト国際映画祭(ポルトガル)、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭(ベルギー)で計5冠を獲得し、世界三大ファンタスティック映画祭を制覇しましたが、すごいエンターテインメント大作が出来上がりましたね。完成作の印象は?
大泉洋(以下、大泉):この映画には、自分が出ていることを意識しないほどの圧倒的な力があったので、ただただ楽しんで観ることができました。各映画祭での素晴らしい成果をみると、世界に通用する映画に仕上がっているんだなと、改めて思います。
有村架純(以下、有村):日本にはあまりないジャンルですし、すごく壮大な映画になっているなと思いました。まるでアトラクションに乗っているかのような気分で観ました。怖い作品は得意ではないのですが、主人公の英雄が段々とヒーローになっていくのがすごくかっこよくて、女性にもぜひ観てもらいたいなって、素直に思いました。
長澤まさみ(以下、長澤):動きが速かったり、同じ行動を繰り返すとか、ZQNがすごく個性豊かなので親近感を抱くというか、実は怖いというより面白い存在なんだと気付きました。それに、大泉さんのヒーローぶりが本当にかっこよくて、最後のシーンはシビれましたね。とても痛快で、今まで観たことのないような日本映画だと思いました。
大泉:こういうジャンルの映画なのに、きれいに感じるというか、ある意味さわやかな印象もありましたね。
スイッチが切り替わる大泉に有村&長澤、驚き!
Q:皆さん仲がよさそうですが、今回共演してみてお互いの印象は?
大泉:長澤さんとは、彼女がまだ初々しい10代のころから度々共演させていただいていますが、藪という役はかっこいいし、長澤さんのアクションシーンも珍しかったので、新しい彼女を見た気がします。ただ、撮影以外のところでは、親戚の姪っ子のような感じというか、いつもわたしをいじってくれまして、その辺りは昔と変わらないなと(笑)。架純ちゃんは半分ZQN、半分人間という設定もあってセリフは少ないけど存在感があって、芝居を引き出してくれるというか、架純ちゃんのリアクションを通して役の感情がわかっていくようなところもあるのが新鮮でした。
有村:大泉さんは、いろいろ話しかけてくださったり、現場を盛り上げてくださったりしながらも、お芝居となるとスイッチが切り替わり、監督とも意見交換をされていて、そんな姿を拝見してすごく勉強になりました。長澤さんは、対等な目線で話してくださるし、ひょうきんなところもあって、一緒にいるとすごく元気をもらえました。だから、お二人の会話を聞いている時間が一番楽しく幸せで、いつも大爆笑していました。
長澤:大泉さんには本当にお世話になっていて、いつもお手本になる方だなと。今回も、現場でずっと原作漫画を読んで勉強されていて、(キャラクターの)見た目以外のところでも原作の中に芝居の答えがあったりするといった、漫画原作に臨む上での根本を見つめ直すきっかけをくださいました。お芝居に対しての思いがすごく強い方なので、自分もきちっと正さなきゃと思わされる、いい先輩です。
大泉:現場では遊んでばかりで、こんなこと一つも言ってくれませんけどね(笑)。
長澤:架純ちゃんには、物静かで女の子らしい繊細なイメージがあったけど、実際お会いしてみたら芯があって、やりたいことや求めていることが明確にあり、それを目指して突き進んでいる感じがして。そんな女優としての意志の強さに圧倒されました。
漫画原作を演じる難しさと魅力
Q:大がかりなエンターテインメント作品だけに、撮影も大変だったと思いますが、実際に演じてみて感じたそれぞれの役の魅力や難しさは?
大泉:うだつの上がらないダメ男が、パニックの中でたまたま比呂美や藪たちと出会うことにより、彼女たちを守ることが自分の生きる理由になっていくというのがリアルに感じられたのは、演じてみて面白かったですね。僕もこういう状況になったら家族を守ろうとするけど、銃は撃てないのでとりあえず自分から(ZQNに)食われて、「その間に逃げろ!」って言うんじゃないかなと(笑)。
有村:比呂美は、(映画では)普通の女子高生だったときがワンシーンしか描かれていない中で、それまでの歩みをどう表現するかということや、半分ZQNという役どころなので、誰も「正解」がわからない中で自分を信じて演じなければいけないといった難しさがありましたが、普段絶対にできないことを体験できた面白さがありました。
長澤:男性が支配するコミュニティーの中で、女性であるがゆえの葛藤を抱える藪の心情表現は難しかったのですが、彼女には女性だからこその男っぽいかっこよさがあると感じたので、そこを大事にして演じていました。また、比呂美ちゃんを背負って逃げるシーンは、架純ちゃんが軽いので全然大丈夫だったし、むしろずっと背負っていたいような気持ちでしたね(笑)。今回のような本格的なアクションは初めてでしたが、実際にやってみてすごくハマったので、もっとやってみたいという欲も出てきて、いろんな意味でいいきっかけになりました。
もしも自分がZQNだったらこうなる!
Q:ZQNは、生前に執着していた行動を繰り返すようですが、もしも自分がZQNになったらどんな行動をしそうですか。
大泉:僕はまさみちゃんと架純ちゃんから常々「食べることばかり考えている」と言われているので、おそらくラーメン屋にでも並んでいるんじゃないかと(笑)。
有村:わたしは、「こんな映画に出ていた」とか、「こうやって生きてきたんだ」みたいなことを周りの人に、思う存分言い回っている気がします(笑)。
大泉:映画にはそんなに饒舌なZQNは出てこないけど、「またあのZQN何か言ってるよ……」って言われるような、よくしゃべるZQNなのね(笑)。
長澤:わたしは、今回たくさん大泉さんにご飯をおごっていただいたので、大泉さんと一緒にラーメン屋に並んでいるんじゃないかなと(笑)。
大泉&有村:(爆笑)。
長澤:「ここおいしいの?」「おごってくれよ!」って言いながら大泉さんにくっついて(笑)。
大泉:ZQNになってももめていそうだね……。「ラーメン代ぐらい自分で払えよ」って(笑)。
皆ハマり役だった大泉、有村、長澤のメインキャスト3名からも、その出来栄えに大きな自信がうかがえた本作は、日本では低予算の小規模公開となりがちなジャンルの作品を、東宝が全国300館規模で公開する大作として手掛けた画期的な作品で、「よくぞこんな作品を作ってくれた!」と喝采をあげたくなる娯楽作に仕上がっている。R15+指定の過激な表現にも挑んでおり、日本では実績の少ないジャンルだが、海外の映画祭での高い評価も追い風となって、今後の邦画の幅を広げるようなヒットを期待したい。
映画『アイアムアヒーロー』は4月23日より全国公開