映画に学ぶサイコな隣人との付き合い方
今週のクローズアップ
一億総中流社会が崩壊し格差が広がる現代。望みの生活を手にしたとき、ついつい他人と自分の生活を比べたくなるかもしれません。けど、互いを格付けし合っているその隣人は、もしかしたら心にぽっかりとあいた穴を、アブない趣味で満たしているかもしれませんよ……。そんなサイコな隣人との付き合い方を、映画で学んでみましょう。
■昔なじみでも油断せず
古谷実の人気コミックを実写化した『ヒメアノ~ル』(5月28日公開)では、主人公の岡田(濱田岳)が、高校時代の同級生・森田(森田剛)とカフェで再会したことから、大変な事態に巻き込まれていきます。カフェの女性店員・ユカから森田にストーキングされていると相談を受けた岡田は、さらに森田に接近。疑惑が去ると、それをきっかけにユカと付き合うようになりますが、実は森田は、人を殺すことに喜びを見出す快楽殺人者だったのです。
森田がユカを狙いながら殺人を重ねていく一方、これ以上望めないであろうカワイイ彼女との日常を謳歌する岡田。殺人者の影が、犯人さえも意識しないまま、岡田の生活に忍び寄っていくさまには、身震いすること必至です。街中でふと懐かしい同級生と出会ったときはご用心。もしかしたら、あなたの命を奪うことになる、サイコキラーかも!
■行動することが大切なときも
サイコな隣人が自分にとって危険なだけではありません。実際に起きた少女監禁事件を扱った『隣の家の少女』は、そんな身近に潜む悲劇の存在を教えてくれます。
ある小さな街で暮らす少年デイヴィッド(ダニエル・マンチ)の隣家に引っ越してきた少女ミーガンとその妹スーザン(マデリン・テイラー)。デイヴィッドは可憐なミーガンに淡い恋心を抱きますが、二人が家庭の事情から身を寄せたその家に住む叔母(ブランチ・ベイカー)は、彼女たちを地下室で虐待していました。思わず目をおおいたくなるような彼女たちへの凌辱は、次第に周辺地域の少年たちを巻き込み過激さを増していきます。
裸でつるされ、殴る蹴るは当たり前で、性的暴行のうえに股間を焼かれるなど、責め苦は増すばかり。デイヴィッドはどうしたかというと、通報することも親に言う勇気も出ず、その虐待を傍観するだけ。結果的に、彼の心に大きな闇を残す結果となってしまいます。触らぬ神にたたりなしといいますが、自分のためにも、サイコな隣人に対して行動しなくてはいけないときもあるのです。
■謙虚な心を持って!
『アメリカン・サイコ』の主人公パトリック・ベイトマン(クリスチャン・ベイル)は、まさに心の穴を危険な趣味で埋めているような人物。若くして証券会社の副社長となり、昼はエクササイズで彫刻のような肉体を維持、夜は高級レストランでエリートの友人たちと自慢大会に興じます。しかし、そんな自分を凌駕する同僚に苛立ち、ついには殺人に手を染めることに……。そして彼は、次々と人を手にかけ、いくら人を殺しても虚無感を埋められない文字通りの“アメリカン・サイコ”になっていくのです。
エリート同士が自分の名刺の材質や仕上がりを見せあう“名刺自慢”シーンなど、思わず吹き出してしまう場面も多い本作。しかし実際、そのエリートたちもお互いの名前も満足に知らない、上っ面の関係でしかないところにもほのかな怖さを覚えます。職場でもあまり自分の地位をひけらかさないことが、サイコから身を守るコツです。
■家族でも安心しない
たとえそれが誰より信頼できる家族であっても、あなたの隣で暗く恐ろしい秘密を心に抱えて生きているかもしれません。『THE ICEMAN 氷の処刑人』の主人公リチャード・ククリンスキーは、家族を大事にして、家庭にお金も入れてくれる理想の夫。しかしその実、お金を稼ぐために、20年間で100人にも及ぶ人間を殺害した連続殺人犯でした。
彼の殺しの理由は実にシンプル、家族のためです。しかし、その純粋な思いが、彼を怪物にしてしまいました。「結婚にはお金が必要」と現実を見ることはもちろん大事ですが、その価値観に縛られすぎると、パートナーを思わぬ道に引きずり込んでしまう可能性も大。まずは、どんな秘密や困難も分かち合える家族関係を築くことが第一なのです。
■実は自分がサイコなのかも?
どんなきっかけで始まるかわからないのが友人関係というもの。ジム・キャリー主演の『ケーブル・ガイ』は、ケーブルテレビを見るために呼んだ配線業者が、たまたま親切な人だったという物語です。ただ、その親切は一般常識で測れる物ではありませんでした……。
異常なまでになれなれしいケーブルガイの誘いを断れない気弱な主人公(マシュー・ブロデリック)。ようやく誘いを断ったときには後の祭り。ケーブルガイはストーカーのようになり、主人公を追い詰めていきます。ここまでだと、波風を立てたくないがために強引な誘いに乗っちゃいけない……という教訓を得ることになりそうですが、実は後半、ケーブルガイは、育児放棄気味でテレビばかり見せられて育ったため、他人との接し方がわからず、テレビのように大げさに振る舞ってしまう人物だった、ということが判明するのです。誰かと仲良くなるために道化を演じることで、他人からはサイコな人物と思われているかもしれない。この映画は、現代社会を生きるすべての人々に戒めを与える一本です。
■正真正銘の隣人トラブル!
文字通り「ご近所さん」がサイコだったことで、大切な日常が崩されていく……そんな恐怖を描くのが黒沢清監督の『クリーピー 偽りの隣人』(6月18日公開)です。
元刑事で犯罪心理学者の主人公・高倉(西島秀俊)が、妻(竹内結子)と共に引っ越した新居の隣人は、家長の西野(香川照之)を中心にどこか奇妙。そしてある日、高倉の家に駆けこんできた西野家の娘・澪(藤野涼子)が、西野について「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です」と訴えたことから、日常を崩壊に導く謎に巻き込まれていきます。
この作品、とにかく西野の怖さが半端ではありません。えも言われぬ不気味なものを突き付けられ、とにかく「嫌」な気分になっていきます。しかも自宅の隣に住んでいる以上、その恐ろしさから簡単には逃れられないのです。本来ならば心が休まるはずの場所と家族を守るためにも、じっくりと鑑賞したいところです。(編集部・入倉功一)