未見のアナタ、人生ソンしてます!「ブレイキング・バッド」が伝説になったワケ 海ドラ座談会企画PART1
海外ドラマスペシャル
7月22日に公開される映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』の公開を前に、本作でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたブライアン・クランストンのブレイクのきっかけとなった伝説のドラマ「ブレイキング・バッド」の魅力をプレイバック!
座談会メンバー:池田敏、今祥枝、犬塚駆/司会・構成・文:シネマトゥデイ編集部 石井百合子
今さらながら、なぜ「ブレイキング・バッド」は面白い?
司会:「ブレイキング・バッド」(以下、「BB」)の主人公は、堅物の化学教師ウォルター・ホワイト(ブライアン・クランストン)です。末期がんを宣告されたことから、家族に財産を残すためにやむなくかつての教え子(アーロン・ポール)と手を組んで麻薬ビジネスを開始し、化学の知識を生かして純度99.1%のドラッグを精製したところ予想外の大評判となり、図らずも裏社会の大物になっていくというストーリーですが、初めに傑作と確信した展開は?
犬塚:シーズン2の第1話は、焼け焦げたピンクのクマのぬいぐるみがプールに浮いていて、何か事故が起きたんだなっていうのを予感させる一種のフラッシュフォワード(物語に未来の出来事を挿入する手法)から始まるじゃないですか。それでこれは何なんだろうと観ていくと、最終話で提示された謎に見事につながっていって、しかもそれが自分が想像したものとは全く違っていた。これはただ事ではないと思いました。
今:シーズン1から十分に過激で面白いんだけど、わたしも心底すごいシリーズだと感動したのはシーズン2から。特に第2話は全てが完璧で、その1話だけでも映画ほどのカタルシスがあるという。同時に、そのピンクのクマのぬいぐるみがシーズン2を通してのオチにつながる壮大な仕掛けになっていて、シーズン全体としてもまた映画のようで素晴らしかった。
池田:確かにあの第2話は傑作ですね。
今:結構、ヒットしたドラマって、シーズン2がトーンダウンすることが少なくないですよね。
司会:そうするとドラマはどんな作品においても、2が肝心ということになりますね。
池田:僕は、シーズン1でウォルターがギャングの死体を酸で溶かすシーンですね。そんな残酷描写を入れられるってことは、世界観を掘り下げる覚悟があるということで。あと、シーズン1の第6話でウォルターがドラッグディーラーの元締め・トゥコのアジトに乗り込んでドカンと爆破するところで、「これはフツーのドラマとは違う」と思った。単にドラッグを作るだけの話じゃないってことだから。
犬塚:初期はウォルターが化学知識を使ってギャングをやっつけるみたいな痛快な展開が基調なんだけど、それがシーズンが進むにつれて、正体がばれるかばれないかのサスペンスだったり、人がどう変わっちゃうのかというドラマになっていったり、カラーが変わってくるところが面白い。
今:ウォルターは意図せずして犯罪者になってしまうんだけど、そこからの展開は読み切れなくて、そこも面白かった。例えばメキシコのカルテルとかが出てきたら巻き込まれていくのかと思ったら、今度は自分のエゴが出てくる。きっちりカタルシスがあるというのも素晴らしい。
犬塚:1話で提示されたテーマが最後の62話で帰結して終わるっていう全シーズンを通した設計ができているドラマは本当に珍しいです。
池田:最終話の視聴者数が、シーズン1開始時の7倍ぐらいに膨れ上がっている。なんでそういうことが起きたかっていうと、動画配信サービスで噂が噂を呼んで旧シーズンを観るうちにどんどんファンが増えていったという。その現象自体新しいし、なおかつ賞も取るようになってきてさらにファンが増えていった。いろんな人に向かって自信を持って勧められる数少ない作品だし、「面白いドラマは?」って聞かれたら一番初めに挙げるタイトルなんじゃないかな。ラジオ番組でライムスターの宇多丸さんにも勧めましたが、これが面白くなかったら僕の存在価値はないぐらいに思っています。
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