庵野秀明、エヴァからゴジラへ創造の裏側2~巨大生物襲来への妥協なきリアル
『シン・ゴジラ』レア資料公開!
東宝製作による約12年ぶりの日本版『ゴジラ』シリーズ最新作にして、大ヒットアニメ「エヴァンゲリオン」の庵野秀明が脚本・総監督を務めた『シン・ゴジラ』。特撮ファンはもちろん、多くの「エヴァ」ファンからも注目を浴びる話題作に、庵野総監督はどう立ち向かったのか。数々の資料写真や庵野総監督を支えた盟友たちの証言を追いながら、『シン・ゴジラ』の裏側を探っていきます。(取材・文:神武団四郎)
■佐藤善宏(『シン・ゴジラ』プロデューサー)
■史上最大「ゴジラ」シミュレーション
“ニッポン対ゴジラ”と銘打たれた『シン・ゴジラ』は、現在の日本に巨大な生物が出現したらどうなるかを描いた、リアルシミュレーション映画としての側面を持っている。庵野秀明総監督は、撮影に先立ち防衛省に協力を要請。兵器の運用から自衛隊員たちが実際に使う用語の言いまわしまで、徹底したリサーチを行った。東宝の佐藤善宏プロデューサーによると、自衛隊とのミーティングは、脚本執筆の段階から行われた。
「脚本の初期段階から、自衛隊の方々に読んでいただきました。こういった巨大な生物が現れた場合、防衛出動になるか、治安出動になるのか、そんなところからスタートして、どのような武器で対処するのか、など何時間もかけて話をお聞きしました。庵野さんの中ではゴジラの移動ルートは固まっていたので、この場所だったら戦車をどう運用するか、ミサイルをどう飛ばすのかと具体的な話を詰めてお聞きしました」(佐藤)
ゴジラに対する武器使用が許されるのか。攻撃命令が出されるまでのプロセスなど、有事の際にその裏側で繰り広げられる政治家、官僚、防衛省で行われるやり取りまで盛り込まれた本作。それぞれの現場で交わされる、スリリングなせめぎ合いも見せ場のひとつだ。
「刻々と変化する状況に政府がどう対処してゆくのかは、官邸危機管理センターに官邸対策室が設置されたことなど、過去の事例に基づいて構成されています。首相官邸のホームページには何時何分に首相が危機管理センターに入ったかなど、時系列で公開されているので、それを参考にシミュレートしました。あとは自衛隊の命令系統はどうなっているのか、もし現場に人がいたら攻撃命令は出せるのか、出せるとしたらどういった人が判断するかなど、際どい質問も飛び交いました」(佐藤)
■妥協なきリアルへの挑戦
脚本執筆中、疑問が湧くとその都度、製作側を通して聞ける範囲で政府機関・官僚などに確認して欲しいとしつこいほど連絡してきたという庵野総監督。どんな些細なことでも、事実と異なることがあれば修正を加えていったという。
「例えば自衛隊員の号令など、セリフはとことん調べ尽くして、伝わりやすさではなく、リアルなセリフに拘っています。完成した映画でファンタジーなのはゴジラだけというくらい突きつめています。昨年の秋に自衛隊の組織改定がありましたが、階級をその時に変更されたものに合わせたり、劇中の“巨大不明生物”という呼び方も、実際に官僚の方の発言からいただきました」(佐藤)
自衛隊とゴジラの戦闘描写が数多く盛り込まれている本作。戦車による攻撃シーンの参考にするため、庵野総監督はじめスタッフは陸上自衛隊による富士総合火力演習にカメラを持ち込んで撮影を行った。
「実際に砲弾が発射されるところを撮影させてもらい、それをCGで補強する合成素材として使っています。もちろん演習なので、私たちの望むアングルで撃ってくれるわけではありません(笑)。撮った画の中から使える絵を取り込んで合成したということです。今回スタッフロールは1,500人規模ですが、政治家や官僚、自衛隊をはじめ、さまざまな形で協力していただいた方の数はその倍以上はいるでしょう」(佐藤)
■官僚たちで役づくり
自衛隊や政府関係者への取材で得た素材は、物語や設定だけでなく俳優たちの演技にも生かされている。政治家ならではの口調など、取材の記録を出演者と共有。政治家らしさが映画にリアルな質感を加えている。
「官僚の方々に会った時、会話を録音して俳優さんに聞いてもらいました。立板に水というか、実際に彼らは淀みなく、論理的思考で結論に至る、といった話し方をします。リアルを追究するなら、登場人物も実際の政治家をイメージさせなければ負けです。セリフはみな早口で、しかも普段は使わない専門用語の多い言葉ばかり。それを流暢にかつ説得力を持ってしゃべるのは難しかったと思いますが、皆さん緊張感をもって演じてくださいました」(佐藤)
映画『シン・ゴジラ』は7月29日より全国公開