庵野秀明、エヴァからゴジラへ創造の裏側4~シン・ゴジラを作った男たち -音楽制作編(2/2)
『シン・ゴジラ』レア資料公開!
■歩くだけでいい「ゴジラ」で見せた色
「『ゴジラ』って、ゴジラが歩いて伊福部さんの曲がかかるだけで我々を奮い立たせる何かがあるという、唯一無二のものなんです。だから『伊福部さんの曲がかかればいいだけなのに、鷺巣は何するの?』とも思いましたよ(笑)。とはいえ、自分が作曲した音楽も監督にどんどん送り出していくうちに、庵野総監督から『あ、コレもソレも使いますから』と言っていただいた」(鷺巣)
鷺巣が手掛けた劇伴も映像と共に映画を大いに盛り上げる。特にゴジラに立ち向かう自衛隊の活躍を彩る音楽は、えもいわれぬ高揚感をもたらしてくれる。
「自分には何ができるかなって考えて、鷺巣なら自衛隊だろう、と(笑)。そういうところで自分を出そうと考えました。結果、一人でもそう思っていただけたら、もう満足かもしれません」(鷺巣)
■エヴァ楽曲は「名人の一手」
『シン・ゴジラ』の音楽には、もう一つ驚きが用意されている。それはかつて鷺巣が作った「エヴァ」用の劇伴音楽。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の中でも「ふしぎの海のナディア」の音楽を使った庵野総監督だが、あえて「ゴジラ」でそれに挑んだことについて鷺巣は、将棋で言うところの「名人の定石」と表現する。
「庵野総監督は、あらゆる反響を承知のうえでやってるわけです。名人の打つ手というのは、打った本人にしか確固たる理由はわかりません。そして何より、その一手で皆が痛快に感じること。それに尽きるんです。悪手と言われる手でも、状況次第では良い手に化ける。今回は、最高の一手だと思います」(鷺巣)
「そこに『エヴァ』の影響があったのかということではなく、もう少し普遍的な考えによるものでしょうね。庵野総監督がエンターテインメントを捉えるうえでの、尋常ではない大局観が働いたということでしょう」(鷺巣)
■庵野秀明がくれたもの
「『ナディア』は今から四半世紀前。当時は携帯もなければメールもなくて、逆にいえば、頻繁に監督と会って話せる時間がありました。特に『ナディア』は関連仕事もふくめて3年以上も続きました。庵野監督との初めてのお仕事が、そういった時間をかけてお付き合いできる作品で本当に良かった。僕が幸せなのは、自分のキャリアにおいて、庵野監督の作品が中心にあることです」と振り返る鷺巣。
その言葉は、多くのファンが「エヴァ」という作品から庵野秀明という人物を読み取ろうとしたのと同様のコミュニケーションが、二人のクリエイター同士でも行われていたことを予感させる。
「庵野監督とは、具体的な仕事の話だけじゃなく普段の会話の中からも何かを見出そうと努めます。つねに監督の頭の中をのぞいてみたいという精神です。リドリー・スコットであれティム・バートンであれ、作品には監督のフィロソフィー(哲学)が大きく影響する。もちろん作品そのものも重視するべき要素ですが、それと同等に、その世界を構築している監督の頭の中を知ることが、いかに重要か……そう考えるよう仕向けてくれたのも、じつは庵野さんなんですけれどね」(鷺巣)
映画『シン・ゴジラ』は全国公開中