『溺れるナイフ』小松菜奈&菅田将暉 単独インタビュー
泣いて叫んで、海に落ちて落とされて…ハードな17日間
取材・文:前田かおり 写真:奥山智明
10代のリアルな心理を描き込んだジョージ朝倉の人気コミックを実写映画化した『溺れるナイフ』。東京から父の田舎に越してきたティーンモデルの夏芽が、傲慢で自由奔放な少年コウと運命的に出会ったことから始まる、切なくも熱いラブストーリーで共演した小松菜奈と菅田将暉。『5つ数えれば君の夢』などで注目される新鋭の女性監督・山戸結希のもと、舞台・和歌山で17日間というタイトなスケジュールで挑んだ作品の撮影秘話を明かした。
撮影現場にあった熱量が、映画からも伝わる
Q:10代のヒリヒリとした青春が描かれていましたが、完成した作品を観た感想を聞かせてください。
菅田将暉(以下、菅田):短い撮影期間で、天候にも左右されるし、精神的にも肉体的にも過酷な現場だったんです。でも、だからこそ「何としても和歌山の大自然の中で生き抜いてやる!」みたいな気合いで必死に演じました。たぶん、それは僕だけじゃなくて、みんなもそうだったと思うんですが。そんな熱量が、そのまま映像にも力強く映し出されていた。キラキラとした10代の輝きの中に、濃ゆい血が1本バーンと流れている感じがして、これはいまだかつてない新しいモノができたんじゃないかと思いました。
小松菜奈(以下、小松):わたしは、率直に完成したんだという喜びを感じました。現場ではいいことも悪いこともしょっちゅうあって。撮れていないシーンもあったので、「本当に完成するのかな?」と不安になることもありました。
菅田:本気でね(笑)。
小松:だから完成した作品を観て、びっくりしました。わたしは撮影のとき、19歳だったんですけど、19歳のあのときじゃなかったらできなかったと思います。あと、奇跡的に偶然撮れたシーンもたくさんありました。たとえば、コウと夏芽が初めて出会うシーンは、本当は晴れているはずだったんですが、嵐になってしまって。だけど、出来上がったものを観たら、それはそれで衝撃的な出会いということになって、いい画になっていました。
ハードな撮影で、夏芽に共感
Q:ハードな撮影現場だったようですが、とくに厳しいと思ったのは?
小松:んー、全部です(笑)。毎日泣いて叫んで、海に落ちて落とされて、山を駆け巡って……という日々だったので、休む暇がなかったんです。でもそれが、逆に夏芽の気持ちを理解するのに役立ったかもしれません。
Q:それはどういう意味でしょうか?
小松:夏芽は毎日、必死でコウを追いかけて、追いつきたいけど追いつけなくて、追いついたと思ったらいなくなっていて……というのを繰り返すうちに、大友(重岡大毅)といるのが一番の息抜きみたいになってくる。台本を読んでいるときは、夏芽はなぜ、大友じゃなくて、コウを選んだんだろうって疑問に思っていたんです。でも、演じているうちに、今までモデルとしてやってきて、こうしなきゃいけないと縛られてきた夏芽には、コウという人はすごく自由に見えた。それが衝撃的な出会いだったから惹(ひ)かれたんだろうなって。
Q:そんなコウは、とても田舎の少年とは思えないキャラクターですよね。
菅田:そうなんです。そもそも、夏芽のように都会で活躍していた子が田舎で出会った少年に惹(ひ)かれるという設定は、ハードルが高いことだと思います。とはいえ、コウみたいなカリスマ的なオーラを持つ人は、芸能界じゃなくてもいるところにはいる。ただ、コウは容姿的なものだけでなく、どこか孤独で気高く、野性味がある。本当にハイスペックで、どう演じればいいんだろうって(笑)。とりあえず痩せることにしました。
Q:確かに、スクリーンのコウは痩せていましたね。
菅田:原作の夏芽とコウを見たとき、二人の線の細い感じが、すごく美しくてヒリヒリして見えたんです。映像にしたときに、その感じがあるといいなと思ったんです。顔もむくんでなんていられないと思って、気づいたらガリガリになってました(笑)。
夏芽と化した山戸監督の演出
Q:新進気鋭の監督と言われている山戸監督の演出はいかがでしたか?
菅田:初めて、目を見てくれない監督でした。理由として、僕のことをコウだと思っているので「恥ずかしい」って。恥ずかしがりながら演出する監督に初めて会いました。
小松:監督自身が完全に夏芽でしたよね。だから、夏芽目線でコウを見て、「そのセリフを言って」と指示されていました。とにかく、監督の頭の中できっちりと世界観が出来上がっている。だから、その世界を作るために現場でセリフがどんどん変わっていって、長ゼリフになったり、甘いセリフになることもありました。毎日あって、苦労しました。
菅田:僕は、あるシーンで「もっと上を向いて」と喉ボトケが出るくらい、首の角度を細かくリクエストされました。
互いに高め合う存在だった
Q:お二人は『ディストラクション・ベイビーズ』で共演されていますが、同級生役の重岡大毅さんや、上白石萌音さんとの初共演はいかがでしたか?
菅田:まず、重岡くんのポテンシャルには本当に驚きました。僕が言うのもなんですが、お芝居の経験がそんなにないと言いつつ、誰よりも自由で、ピュアでした。「菅田ちゃんさぁ、こんなのやってええの?」と素直に質問できる。それが彼の良さで、それをすぐに体現できる。だから、監督の細かい指示にも「わかりましたー、やってみます」と言って演じて、「すんません、できなかったです」みたいな。その感じがとてもいい。
小松:そうそう。
菅田:上白石さんは愛嬌がすごくあるんです。だからって、子供っぽいということではなくて、すごくしっかりしている。ある大事なシーンがあって、前日にそのシーンの内容が変更になったんですけど、長ゼリフを次の日には覚えていた。すごいなと思いましたね。
小松:わたしは、菅田さんもそうですけど、みんなが漫画から出てきたみたいに、イメージをちゃんと固めて現場にいたから、とにかく負けてらんないなと。焦りました(笑)。
菅田:4人全員が揃うシーンは少なかったけど、楽しい現場でもあったよね。
小松:そうそう。いつも一人、「どうしよう」「もう、どうすればいいの?」と悩んだこともあったけど、4人で何気ない会話をしていると、次の日はもっと頑張ろうと思えました。みんなも全力だし、わたしも全力でやんなきゃって。お互いがお互いを高め合っているような存在になっていました。
Q:クライマックスの火祭りのシーンは、ものすごく臨場感がありました。
小松:火祭りのときのシーンは4人が揃って、純粋に楽しい現場だったんです。
菅田:ホンマ、楽しかったよね。4人で写真を撮ったり。あそこは、普通の高校生みたいだった。
小松:どんどん変なテンションになっていったよね(笑)。
菅田:そうそう。僕たちにとってはデザートのような時間だったんです。もっとあの素敵な時間があったらよかったんですけど。それが『溺れるナイフ』なんでしょうね。
映画初主演というプレッシャーを感じながらも、10代最後の作品として、夏芽に自分を重ねながら演じきった小松。軽口を飛ばしながらも、今や日本映画界屈指の若手として、監督が思い描く通りのコウに成りきった菅田。二人のほとばしる熱量が、青春の美しい刹那にこだわる気鋭の監督が作り上げた世界に刻みつけられている。
(C) ジョージ朝倉/講談社 (C) 2016「溺れるナイフ」製作委員会
映画『溺れるナイフ』は11月5日よりTOHOシネマズ渋谷ほか全国公開