『アズミ・ハルコは行方不明』蒼井優&高畑充希 単独インタビュー
好きなコトとやるべきコトは違う
取材・文:浅見祥子 写真:高野広美
地方都市に暮らすOLの安曇春子が失踪。街では春子の顔をデザイン化したグラフィティアートが拡散し、男ばかりをねらう女子高生ギャング団が横行する――。山内マリコの原作を松居大悟監督が映画化した『アズミ・ハルコは行方不明』。行き場のない孤独を抱えた春子を蒼井優が、一見きゃぴきゃぴと女の子であることを楽しむ愛菜を高畑充希がそれぞれ演じている。2人はいかに役と向き合ったのだろうか?
高畑は蒼井の「顔が好き」
Q:お二人は初共演ですね?
高畑充希(以下、高畑):写真集を持っていたりして、私はずっと優ちゃんを見ている側でした。自分は舞台を中心にやっていたので、映画からバッと世に出たという印象の優ちゃんは全然違うフィールドにいる会えそうで会えない人という感覚で、実在するの? というくらい(笑)。その後、偶然お会いしたり共通の知り合いができたりして、たまに言葉を交わす機会があるなかでの共演で、純粋に楽しみでした。
蒼井優(以下、蒼井):みっちゃんはお芝居がしっかりしていて、きっとふだんもしっかりした子で、それでいてユーモアのセンスがあるという印象でした。先輩からも後輩からもかわいがられるバランスのいい人だなと。いつかどこかの撮影現場で会えるだろうと思っていたなかの1人でした。
高畑:完成作を観て思ったのですが、やっぱり私は優ちゃんの顔が好きだなって。人って顔がすべてだと思うのですが、ずっと見ていたい顔なんです。自分にないものがたくさんある顔。サラッとしていて、いいな~って。
蒼井:優しいね(笑)。私だって、なれるものならみっちゃんみたいな顔になりたいよ。
それぞれ追い込まれた2人
Q:愛菜についてはどんな印象が?
高畑:意志がない女の子だなと。周りには意志を持って行動している人が多く、意志がないって何!? と撮影の1か月ほど、ずっと考えていました。結局わかりませんでしたが……優ちゃんにも「よく受けたね」と言われました。
蒼井:ハードルが高い役でしたから。監督から「愛菜は充希ちゃんで」と聞いたとき、受けてくれるかな? やってくれたらうれしいな! と思いました。愛菜って本当は地味でいい子だけど、そうじゃない何かになろうとする痛々しさがある。それを派手な子がそのまま演じてしまうと、成立しすぎちゃう気がしたんです。撮影中にみっちゃんが「わからないわからない」と言うので「愛菜もわからないんだからそれでいいと思うよ」と言って。そうして出来上がった映画を観たら、とてもいいキャラクターになっていました。ノリノリで生きているようだけど、ノリきれていないところに共感できるような。
高畑:優ちゃんの「愛菜もわからないんだから」という言葉に導いてもらった感覚があります。愛菜って、まったく理解できない人ではないんです。バランスの取れていないかわいらしさのある人で、台本を読んでいても愛菜を守りたくなりました。
蒼井:この年齢を超えた同性にとってはかわいくてしょうがないけど、同世代の男子からしたらイタイとかウザいってことになる気がする。
高畑:それを受け止めるだけの包容力が、あの世代の男の子にはないのかも。
Q:春子の印象は?
蒼井:自分と似ている部分はありませんが、私自身が彼女の年齢を超えてきたので、わかるな~と。女性って27~28歳くらいで第二思春期が来ると思っていて、春子はそのまっただ中にいるんだなと。早く20代を超えておいで! って思いました(笑)。
Q:春子はかなり閉塞感のある状況に置かれています。
蒼井:そこは理解できました。死にたいわけじゃないけど、消えたい。私自身は楽観的なのでそういうときは、いなかったことにしてくれないかな~! という感じ(笑)。それを陰の方向へ向かわせると春子になると思ったんです。再会した異性に固執するのもいわば“蜘蛛の糸”みたいなもの、これさえつかめば何かが変わるかもしれないと思っているのかなと。でも相手にはそれが本当の愛ではないのもバレていて、そのズレから虚しい関係が続くんです。愛菜もそう。好き好きと言うことで自分がマヒしていくだけで、本当に好きか聞かれると押し黙ってしまう感じ。
高畑:ちょっと目を離した隙に相手が変わっていても気づかないかも。
蒼井:そういう状況の2人で、春子は別の誰か、同級生とばったり再会したらやっぱりざわっと心が動くくらいに何もない日常を生きているのかなと思いました。
蒼井優はサプライズ下手!?
Q:愛菜には「女友達は面倒くさいから」という意味の台詞がありますが……。
蒼井:私自身は女友達は好き。大事です。
高畑:やっぱり男女間の方が面倒くさいことは多い気がします。
蒼井:この仕事をしていると“自主規制が入る”という面もありますが、女友達の方が総じて楽です。みんなでご飯を作って食べ、みんなで片づけをしてあとはゆっくりと飲む、そういうのって楽しいですよ。男友達だとそういうことにはならない気がします。
高畑:優ちゃんの家は人が集まるんですよ。
蒼井:みっちゃんもウチに来たことがあるよね。お酒を持ってきてくれて。
高畑:恋愛だとその保証はないけど、女友達はずっと続けていける。ちょっとだけ依存するところもあったりして、やっぱり一緒にいてくれる人がいると心強いですよね。
Q:松居監督と枝見洋子プロデューサー、蒼井さんの3人はほぼ同世代ですね?
蒼井:『オーバー・フェンス』という作品で、山下(敦弘)監督と主演のオダギリジョーさん、カメラマンの3人がほぼ同世代で、私たちがちょうどその10歳年下なんです。あと10年であの先輩たちのところまで行けるのか? とも考えますが、まずは仲間ができたぞという感覚がありました。同じ年だから言い合えることもあるし、許せないことも、甘くなっちゃうところもあって。そういう仲間がいるのは大切だなと。
高畑:一度、松居さんの誕生日にサプライズを計画したんですよね?
蒼井:この映画のスタッフ、キャストで連絡を取り合い、まずカメラマンが誘ったら断られたと言うから、じゃあ私がハニートラップを仕掛ける! と。それで誘ったら断られました(笑)。でも別日に「じゃあいいよ」ということになって。
高畑:みんなが仕切りの奥に隠れてサプライズを狙ったけど、優ちゃんが下手過ぎて大失敗。
蒼井:来た瞬間に笑っちゃいました。
高畑:そのあとみんなでお祝いしたんですけど、そうやってイジられるくらいに松居監督は愛されているんです。
蒼井:監督が何をしたいかということに周囲が敏感で、愛情のある撮影現場でした。
高畑:監督とプロデューサーと優ちゃんと、ほぼ同じ年の3人がぎゅっと団結していたので、私はそこに乗っからせてもらう感覚でした。役に対する不安はかなりありましたが、飛び込めばなんとかなるんじゃないかという安心感は確かにありました。
女優として、いま感じること
Q:高畑さんは「とと姉ちゃん」を終えたばかりですね。
高畑:朝ドラって普通の映画やドラマを撮るのとはずいぶん違った環境で、現場は楽しいのですが、ものすごいペースで撮影するので、ただ「楽しかった」の一言では片づけられないものがあります。そのなかで演技についてわからなくなったところもあるけれど、だからこそ次はどんなことにチャレンジしよう? とこれからの仕事が楽しみで。朝ドラのあとすぐに公開される映画がこれというのも最高だなと感じています。
蒼井:客観的に見て、とと姉ちゃんのあとに愛菜というそのふり幅の広さこそが“高畑充希”という女優という気がします。
Q:蒼井さん自身はいま、演じることにどんな想いが?
蒼井:好きな芝居が固まってきて、そこは壊さなきゃいけないなと感じています。好きなものとやるべきものが違うこともあるし、自分の好き嫌いはただの好みで変化していくものだし、そのとき取り組む作品にとって正しいわけでもないから。凝り固まった自分の好みで人生を選択していくなんてつまらない、柔軟でいなきゃいけないなって。いままでわからないなりにできていたことがちょっとわかってきて、でもわかった気になっているだけかもしれない。自分に対する疑いは常に持っていないとつまらない人間になっちゃうなと感じているんです。
アネゴ肌でしっかりとした考えをじっくり語る蒼井と、蒼井を先輩として立てながらも、芝居には揺るぎない覚悟で取り組んでいるのが伝わる高畑。もともとプライベートでも親交があったという2人の会話は、まるで濃密な女子会トークのようで聞きごたえがある。そんな彼女たちが取り組んだこの映画もまた、いまという時代に日本の地方都市で生きる女子たちの孤独や閉塞感をリアルに描き、ポップでありながらずっしりとした見ごたえのある作品となっている。
【蒼井優】スタイリスト:森上摂子(shirayamaoffice)ヘアメイク:赤松絵利(esper.)
【高畑充希】スタイリスト:大石裕介(DerGLANZ)ヘアメイク:市岡愛(PEACE MONKEY)
映画『アズミ・ハルコは行方不明』は12月3日公開