“プチ ライアン・ゴズリング祭り” 2月の5つ星映画5作品はこれだ!
今月の5つ星
今月は賞レース筆頭の『ラ・ラ・ランド』と『ナイスガイズ!』で“プチ ライアン・ゴズリング祭り”となりました! ティム・バートン監督のダーク・ファンタジーのほか、熱のこもった作品テーマの矢口史靖&荻上直子、両監督の新作もピックアップ。これが2月の5つ星映画5作品だ!
ティム・バートンの描く奇妙なこどもたちはもちろん愉快!
「ティム・バートンが監督をしないで誰がする?」というほどまでに“ティム・バートンっぽさ”にあふれた小説「ハヤブサが守る家」が原作。奇妙な能力を持つこどもたちが住む屋敷を訪れた少年ジェイクが、彼らと心を通わせる中で自らの宿命を知り、その屋敷に迫りくる脅威に立ち向かっていくさまを描いた冒険ファンタジーだ。エヴァ・グリーン、サミュエル・L・ジャクソンら豪華キャストは文句なしに良いが、それに負けじと魅力的なのはやっぱり“奇妙なこどもたち”。子役からすっかり成長したエイサ・バターフィールド演じるジェイクは、思春期特有の儚さも持ち合わせてスクリーン映えばっちり。また、宙に浮いたり、手で炎を操れたり……と、こどもたちのユニークな能力はバートン監督の手にかかれば愉快そのもの。ファンタジックな映画のトーンに比べ、難解な設定にやや戸惑うこともあるが、こどもたちが身を寄せ合って運命に立ち向かう姿には心洗われるような気分に。アウトサイダーを描き続けてきたバートン監督の温かいメッセージがストレートに伝わってくる作品だ。(編集部・石神恵美子)
映画『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』は2月3日より公開中
日々の暮らしが“砂城”に建っている危うさを思い知らされる
『ハッピーフライト』『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』など老若男女が楽しめる娯楽作を放ってきたヒットメーカー、矢口史靖監督が最新作で描くのは電気が失われた非常事態の日本。ともすれば不謹慎になりかねない題材を、父・義之(小日向文世)率いる平凡な一家の悪戦苦闘ぶりを通し、リアルとコメディーを織り交ぜた絶妙なタッチで活写している。電気が失われたという原因や状況もわからぬまま希望的観測のもと東京を脱し、母・光恵(深津絵里)の故郷・鹿児島に向かう家族を待ち受けていたのは、350ミリリットルの水1本が2,500円まで高騰し、一日の食糧確保もままならない試練の数々。“魚市”と化した水族館では、空になった鍋を前に1杯のみそ汁を得るために土下座。自給自足の生活を送る養豚家の善一(大地康雄)のもとで、労働と引き換えに寝食にありつき安堵する一家が何と輝いて見えることか。やがて去りゆく一家に懇願するかのように「残ってくれてもいい」と言う善一の姿からは、われわれの生活を支える第一次産業の人々の存在を思い知らされ、スマートフォンを片手にあまりにお手軽に情報を得られる現代の危うさをあらためて考えさせる一作だ。(編集部・石井百合子)
映画『サバイバルファミリー』は2月11日より公開中
イケてないライアンもたまりませんっ!
『ナイスガイズ!』
今、一番ホットなハリウッド俳優の一人ライアン・ゴズリングが、ラッセル・クロウとバディを組んだアクションコメディー。シングルファーザーのダメ私立探偵を徹底的にイケてなく熱演する姿に、話題作『ラ・ラ・ランド』で世界中の女性ファンをますます夢中にしている、あのライアン……ですよね!? とツッコミを入れずにはいられない。対するラッセルはある意味ではいつも通り(?)にコワモテで、とにかく殴って殴って強引にコトを運ぶ暴れん坊ながら実はキレモノの示談屋に。そんな二人がちょっとした人探しから、とんでもない陰謀に巻き込まれていくのだが、『リーサル・ウェポン』の製作&脚本コンビが手掛けているだけあり、そのハチャメチャぶりはお墨付き。次から次に繰り広げられる展開はどれも突拍子ないものの、それでも映画全体のノリに「ま、いっかー」と見届けてしまう。それもライアンが次にどんなダメっぷりを見せてくれるのかなんて楽しみがあるからかもしれない。まさに愛すべきダメ男。演技派として順当なキャリアを積む中、このタイミングでこんな役をぶっこんでくるライアンがまた憎いっ!(編集部・浅野麗)
映画『ナイスガイズ!』は2月18日より公開
まさかの「逃げ恥」ムズキュン要素あり
『ラ・ラ・ランド』
先日発表された第89回アカデミー賞ノミネーションで歴代最多タイの14ノミネートを記録し、期待のハードルが最高潮に達したミュージカル・ラブストーリー。封鎖した道路で撮影された怒涛のオープニングは1秒たりとも目が離せない長いワンカットシーンで、すごいものが始まりそうな予感と共に立つ鳥肌。臨場感と高揚はオープニングしかり、随所に盛り込まれたこだわりのワンカット撮影による絶大な効果で、主人公2人のなれそめにはまさかの「逃げ恥」ムズキュン要素も感じられる。夢や希望、恋心、悲しみなどの感情がミュージカルナンバーとダンスに乗って表されるのが醍醐味で、オーディションを何度受けても落ちてしまう女優志望のミアにふんしたエマ・ストーンのちょっと演技がヘタな感じや、有名女優に向ける憧れの眼差しなど、徹底した表現力にも脱帽。現実的な厳しい面も描くことで、ただカラフルでラブ&ハッピーな映画ではないストーリーの味わいを醸し出し、夢を持つことの大切さや平凡な幸せを突き付ける。夢と愛を追い求める人への応援映画的側面があるのも魅力の一つで、いつか自分の店を持ちたいと願うジャズピアニスト役のライアン・ゴズリングが3か月一心不乱に練習を重ねて吹き替えなしで挑んだ演奏シーンに、説得力ともらえる勇気がある。アカデミー賞の結果は果たして?(編集部・小松芙未)
映画『ラ・ラ・ランド』は2月24日より公開
ただ女装をした生田斗真ではない
『かもめ食堂』『めがね』など独特のスローな世界観で人気を集める荻上直子監督が自らの“第二章”と銘打ち、「もはや、癒してなるものか!」とアメリカでごく普通にセクシャルマイノリティーと接していた経験から日本で感じた違和感をぶつけた本作。優しさに満ちたトランスジェンダーの女性リンコ(生田斗真)と、その恋人のマキオ(桐谷健太)、そして愛を知らない孤独な少女トモが、それぞれの幸せを見つけるまでが描かれる。正直に言えば、初めてリンコのビジュアルを見たときは、ただ女装をした生田斗真という印象だった。しかし、実際に映画の中で見ると、その女性らしいたたずまいにまず驚く。映画に出てくる人たちも、そんなリンコに対してさまざまな反応を見せる。マキオのように大きな懐で全てを受け止める者がいれば、異常者と決めつけ関係を拒絶する者もいる。リンコにとってこの世界はまだまだ生きづらい。でも、映画を観終わるころにはきっと多くの人が、一人の人間として誇りをもって生きようとするリンコの姿に魅了されているはず。受け入れることはそんなに難しいことではないのかもしれない、そう思わせてくれる。(編集部・中山雄一朗)
映画『彼らが本気で編むときは、』は2月25日より公開