『サバイバルファミリー』小日向文世&深津絵里 単独インタビュー
最大の敵は「豚」だった
取材・文:斉藤博昭 写真:高野広美
何の前ぶれもなく、ある日突然、電気が使えなくなった……。そんな過酷な状況に立ち向かう一家を描いた『サバイバルファミリー』で、夫婦を演じたのが小日向文世と深津絵里。シリアスな設定ながら、コミカルなノリもある本作で、芸達者である二人の実力が存分に発揮されている。夫婦を演じた印象や、おたがいの演技についての二人のトークは、電気がなくなる日常など同作のテーマにも広がっていく。
年齢差を感じない夫婦が誕生
Q:お二人がここまでしっかり共演したのは、今回が初めてですよね。
小日向文世(以下、小日向):僕が深津さんと共演したのは『ザ・マジックアワー』と……。
深津絵里(以下、深津):『ステキな金縛り』ですね。
小日向:『ザ・マジックアワー』ではまったく絡まなかったけど、『ステキな金縛り』でちょろっと共演するシーンがあり、今回は夫婦役。日本を代表する女優さんとここまでお近づきになれて光栄です(笑)。
深津:何を言ってるんですか、そんな(笑)。でも今回しっかり共演できるということで、あの小日向さんがどんな風にお芝居を作っていくのか楽しみにしていました。小日向さんはつかみどころのないところが魅力的で、私にはとても「危うい」存在でしたから。
小日向:危うい? そんなイメージをもってたの? 意外だな。
深津:笑顔なんだけど、心の奥では逆のことを思っているような……。
小日向:そんなことないよ!
深津:(笑)。心の裏をのぞき見したくなる方なんです。西田敏行さんと同じものを感じました。
Q:こう言っては失礼ですが、年の差カップルですよね。
小日向:たしかに夫婦役のわりに年齢は離れてるかな(笑)。でも、その差は感じなかったよ。僕もう63歳なんですけど、自分が63歳とは思えなくて。
深津:(爆笑)。
小日向:気分は、せいぜい40そこそこだから。「63歳? 誰それ?」って感じ。
深津:私も年齢の差は感じませんでした。
小日向:魂が未熟なんだと思う。周囲のほとんどの人が年上に見えるからね(笑)。
母親役、そして主演作へのチャレンジ
Q:深津さんの母親役というのは珍しいですよね。
深津:二度目ですね。こんなに大きな子供が二人というのは初めてです。でも母親という設定は、そんなに意識しませんでした。自分が実際に母親だったら、逆に「こうあるべき」と考え過ぎたかもしれませんが。とにかく家族四人の空気感を大切に演じました。
Q:小日向さんにとって主演映画は珍しい?
小日向:2011年の『犬飼さんちの犬』以来ですかね。でも今回は僕の名前がいちばん最初に出てくるだけで、主人公は家族なんですよ。だから特に主演というプレッシャーは感じず、家族と一緒の心地よい時間を過ごした感じです。
深津:私も本作で、母親は偉大だということを改めて思い知りました。お父さんとも力を合わせないと生きていけない。他人だった二人が、ひとつ屋根の下で暮らすわけですから、夫婦ってなんだかスゴい関係ですよね。
小日向:それは僕も考えたな。夫婦って友人とも違うし、親子や兄弟姉妹でもない。微妙な距離感がある。ものすごく無防備にもなれるし、相手の視界に入らないこともある(笑)。ものすごく不思議な関係なんだよ。
最大の難敵は「豚」だった!?
Q:お二人の話を聞くと撮影現場は心地よかったようですが、過激なサバイバルシーンも多かったのでは?
小日向:11月の終わりに冷たい川に入ったときはさすがにキツくて、だんだん腹が立ってきました。「CG使えないの?」って(笑)。僕らがブルブル震えていても矢口(史靖)監督は手加減せず、撮りたいものをしっかり撮る人でしたから。
Q:動物との格闘もありましたね。
深津:犬はきちんと訓練されているので平気でしたが、豚はフリースタイルだったので怖かったですね(笑)。
小日向:養豚場から本物の豚を連れてきていました。僕はその豚に必死にしがみつくのですが、テストなしで、いきなり本番。振り落とされて胸を強打し、肋骨に軽いヒビが入っちゃったと思います(笑)。
深津:あのシーンは本当に食うか食われるかという感じでした。OKがでたときは「闘いが終わった」って感じでクタクタになっていました。自分でも想像していなかったテンションを味わいました。
小日向:豚って意外に皮膚が硬くてしがみつけない。でも、そこも監督は喜んでたみたい(笑)。
深津:小日向さんは虫も食べさせられそうになっていましたよね。
小日向:台本を読んだときは「絶対に無理!」と思っていたけど、本番では「神様が作った繊細な生き物」という神々しい気分になって大丈夫でした。豚に比べればなんてことないですよ(笑)。
Q:ハードな撮影を乗り越えられたのは、やはり……。
小日向:チームワークでしょうね。子供たちもマイペースで、変に僕らに気を遣わないところがよかったな。
深津:たしかにそうですね。とにかく現場の全メンバーが前に進むことを考えていました。だから天気に左右されるオールロケの撮影も無事に乗り越えられたのかも。
小日向:そういう意味で深津さんにとって珍しい現場だったんだ。
深津:そうかもしれません。今回はすべて自然光で、キレイに照明を当てられることが一切なかった(笑)。
小日向:女優さんへの照明って、けっこう時間かかるもんね(笑)。
電気がなくなる日常は想像がつかない
Q:本作の状況が本当に起こったらと想像することはありましたか?
小日向:日常で電気があるのは当たり前だから、怖いですよね。
深津:何となく危機感は持っていますけど、想像がつかない部分もたくさんありますよね。以前に舞台で、電気がないロウソクだけの時代という設定があったのですが、ロウソクの灯りの生活だと物事の考え方まで変わってしまう。ムダなものがなくなると、人と人との関わりが重要になる。価値観も変わるんじゃないでしょうか。
小日向:何か起こったときのために備えを考えるけど、すぐ忘れちゃうのも人間なんだよね。
Q:では最後に、完成した作品の印象を聞かせてください。
小日向:矢口監督の「ブレのなさ」に感心しました。台本を読んだときのおもしろさが、そのまま映像になっていましたから。
深津:監督がオリジナルで書いた脚本から力強さとブレない意思の強さを現場で感じました。その想いが作品にあらわれていると思います。演出するときに選ぶ言葉やまなざしが、以前にお会いしたときと全然違っていました。
劇中と同じく、取材時もまるで長年連れ添った夫婦のように、あうんの呼吸で質問に答えていた小日向文世と深津絵里。ともに日本映画には欠かせない存在となった名優同士が、リラックスしきった表情で語り合う様子から、現場で本物の家族のような絆が育まれたことを実感できた。『サバイバルファミリー』の主人公家族の奮闘に一喜一憂してしまうのも、自然体の夫婦を体現した二人のおかげだろう。
映画『サバイバルファミリー』は2月11日より全国公開