『サクラダリセット 前篇』 野村周平&黒島結菜 単独インタビュー
何でそうなった?撮影現場で大検証
取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美
河野裕の人気小説を『神様のカルテ』シリーズの深川栄洋監督が映像化した『サクラダリセット』前後篇は、特別な能力を持つ者たちが集う街・咲良田(サクラダ)を舞台とするミステリアスな物語。過去に体験したことを絶対に忘れない「記憶保持」能力を持つ高校生・浅井ケイを演じた野村周平と、“リセット”という世界を3日分巻き戻す能力を持つ春埼美空役の黒島結菜が、2部作連続公開となる本作について語り合った。
台本が難しくて大混乱?
Q:時系列が入り乱れる複雑かつ巧妙な構成の本作。全体を理解するまでに、時間がかかったそうですね?
野村周平(以下、野村):台本を読んだ時はすごく難しかったんです。話の内容はわかるのですが、細かい設定がわからなくなる。何でそうなって、僕らは今どこにいるのか? とか(笑)。
黒島結菜(以下、黒島):わたしも台本を読んだだけでは理解が追いつかなかったので、深川監督に事前に能力のルール説明などをしてもらってから撮影に入りました。登場人物たちの持つ能力が入れ替わったり、現在と過去が入り乱れたりするので、混乱してしまうんです。
野村:撮影の終盤で、あるキャラクターがなぜ死んだのか監督に聞いてみたら、監督も混乱していましたから(笑)。その後、みんなで図を描きながら、なぜそうなったのか検証しましたね。
黒島:そうでしたね(笑)。
Q:ご苦労されただけに、完成した映像を観て感動したのでは?
黒島:順番通りに撮ったわけではなかったので、撮影ではつながりがいまいちわからなかったんですけど、やっと全部がつながって、「ああ、こうなるんだ」という実感を味わいました。台本を読んだ時点では、もっと鋭い感じの作品になるのかと思っていたけど、深川監督の柔らかい映像の色味や音楽とかで、静かな中に強いものが動いている感じがしました。深川さんらしい優しい映画になっていたので、うれしかったです。
野村:仕上がりを観て「わかりやすくなっていてよかった」と思いつつも、自分が出ている作品はなかなか内容が頭の中に入ってこないんです。撮影した時の思い出がフラッシュバックしたり、自分自身の芝居を見たりしてしまうんですよね。
黒島:わかります。「ここのお芝居、もっとこうしたらよかったのに……」とか、反省しちゃったりしますよね。
Q:見聞きしたことを忘れない浅井と、記憶は失くすけど世界を3日巻き戻せる春埼。2人が力を合わせれば過去をリセットしてやり直すことができる、という設定も面白いですよね。
黒島:それぞれ個人でも使えるけど、2人が合わさることで大きな意味を持つ能力です。春埼にはケイがいないと“リセット”できなくなる過去もあって、協力することで大きな問題を解決していく。例えば、「死んでしまった同級生をよみがえらせたい」というやり直したい世界を、能力の組み合わせで実現できるんです。
野村:僕たち以外にも、“能力をコピーできる”“声を届けることができる”など、咲良田はいろんな能力を持つ人が暮らす町。だから、この物語の世界観では、僕らはごく普通の高校生なんですよね。特殊な能力があると異端者扱いされたりしそうだけど、そうではないところも面白い。
黒島:そういった世界観や各自の能力設定を、事前に頭に入れてから映画を観てもらえるとより楽しめるかもしれません。
あまりの長ゼリフに悶絶!
Q:激しい特殊能力バトルというよりは心理戦のような展開。野村さんは難しい長ゼリフが多かったですよね?
野村:春埼はあまり感情を出さない役なのでほとんどしゃべらなくて、その分が僕に来たというか(笑)。ほかのキャラクターの能力をケイが詳しく説明したりして……。
黒島:台本ではわたしのセリフだったのに、撮影直前にケイのセリフになっちゃったりもしたし(笑)。
野村:そうそう。僕自身、「これはケイが言ったほうがいいんじゃないですかね?」とか、撮影現場で意見することもありました。逆に、「ここは僕じゃなくてもいいのでは?」と提案したこともあります。言い回しとかも、本当に難しいところがたくさんありました。字面ではわかるかもしれないけど、耳にした時にどうなのかな? と感じる難解な言葉が出てくる時もあって。でも、監督は「いや、大丈夫です」と言い切るんです(笑)。
黒島:深川監督は頭が良くて、言葉をたくさん知っていらっしゃる方ですから。
野村:しかも監督は、長ゼリフのやり取りを長回しで何回も撮るんです。僕がずっとひとりでしゃべっているシーンもあったから本当に大変で、やたらとセリフが多かった。それに比べて、春埼は言葉もリアクションも本当に少なかったよね。
黒島:そうなんです。呼吸とか表情の微妙な動きで心情を表現していました。それは初めてのことだったので、お芝居の幅が広がったと自分では思っています。
Q:能力を発揮するシーンは、相当な想像力が必要だったのでは?
黒島:わたしたちがある能力をコピーしなきゃいけないシーンが大変でした。
野村:そうだね。仲間のひとりがコピーした瞬間の演技を、ほかのみんなが真似したりしてね。「来た!」って表情になるのがデフォルトになりそうになって(笑)。
黒島:完成版では、それぞれの個性が出る演技が使われていましたけどね。
野村:能力者の声が自分の耳に届く時は、現場で実際に風を当ててもらいながら、何かが届いた感覚を表現したりしました。
実は気遣いの野村、人見知りの黒島
Q:初共演の感想を教えてください。
野村:黒島ちゃんはかわいらしい子ですよ。
黒島:ふふ。みんなにそう言っていません?
野村:女の人はみんなかわいいですよ(笑)。実は、僕の俳優仲間が黒島ちゃんをCMで観て、「かわいいよね!」って言っていたんです。それで印象に残っていたので、今回の共演者を聞いた時に「あっ!」となって(笑)。最初はすごく人見知りされていたけどね(笑)。
黒島:わたし、自分から話し掛けることがあんまりできないんですけど、野村さんから話し掛けてくれるから、人見知りする間がなかったんです(笑)。今までの役柄のせいか、ご一緒する前はもっと静かな方だと思っていました。
野村:みんなと仲良くしたらいいんじゃないかなって思うんです。特に今回の撮影現場は自分よりも若い人が多かったから、余計にそう感じましたね。僕自身、話し掛けづらい先輩がいたらイヤだから(笑)。
黒島:野村さんのお陰で、休憩時間はみんなで楽しくおしゃべりしていました。野村さんは朝から本当に元気なんです。いつ休んでいるんだろ? って思うくらい。昼食を食べたらすぐ寝ちゃいますけど(笑)。
野村:そう、そこは電源オフにしないと(笑)。
Q:座長としての野村さんはどう感じましたか?
黒島:もう、ひたすらムードメーカーで、すごく気を遣ってくださいました。わたしたちに夕飯をごちそうしてくれたり、撮影現場では「コーヒー買いにいくけど何かいる?」ってさりげなく聞いてくれたりして、みんなの分も買ってきてくれるんです。
野村:座長だからといって、自分の何かを変えたくはないんです。「こうあるべき」とか思わずに、常に自然でいたい。今回の映画も、難しく考えずに観てほしいです。本当に、「気軽に映画館に観に来て!」って感じですね(笑)。
天真爛漫(らんまん)で超自然体、まったく飾らずに受け答えをする野村に対し、時には鋭くツッコみ、時には優しくフォローしながら会話の流れを作っていく黒島。とても相性の良さそうな2人が演じたケイと春埼、そのほかのキャラクターたちが持つ特殊能力は、本作においてパズルのピースのような役割も担う。そのピースが少しずつはまっていき、やがて壮大な物語を構築する様が、実に爽快な青春ミステリーだ。
(C) 2017映画「サクラダリセット」製作委員会
映画『サクラダリセット』前篇は3月25日、後篇は5月13日より2部作連続公開